
永久なる春の追悼曲(第六話)蒼天宮への逃避行
1 もう一人の男 その男は清矢より7センチ背が高く、渦中の少年が求めるものすべてを備えていた。順和二十七年(ロンシャン歴After Katastroph 1309)八月末日、北陸新潟県月華神殿より帝都に帰還した祈月清矢を待っていたのは、祈月軍閥参謀、二十六歳の伊藤敬文元少尉だっ … ...
1 もう一人の男 その男は清矢より7センチ背が高く、渦中の少年が求めるものすべてを備えていた。順和二十七年(ロンシャン歴After Katastroph 1309)八月末日、北陸新潟県月華神殿より帝都に帰還した祈月清矢を待っていたのは、祈月軍閥参謀、二十六歳の伊藤敬文元少尉だっ … ...
敬文と活動映画見に来てる。たまの息抜きにどう? って誘ってきたから、俺も嬉しくなってついてった。ポップコーンやメロンソーダ買って、始まる前からワクワクしてる。 「俺、映画なんて大学生で初めて行ったよ」 「えぇー? 俺はたまにばあちゃんとか、母さんとか……あと友達とかとも一緒に来 … ...
伊藤敬文は祈月家二階の客間、自室として借り受けているそこで、主君の息子を抱擁していた。二十八歳と十八歳、十歳差。まだ高校生で、遠き魔術師の理想郷、アルカディア魔法大受験のための準備が忙しい。伊藤敬文も去年三月に国軍に士官として復帰し、夏の間だけそこに来ていた。 ...
「今夜は納涼のごちそうだ」と言って清矢様の母君が台所の棚から取り出したのが手回しのかき氷機。氷を砕くだけあって刃は厚い。清矢様の祖母が「いちいちシロップ買ってくるのも手間だから」と果実酢や梅酒を用意している。俺の主君である源蔵様の愛息である清矢様は「えーっ、氷は買って来んだから … ...
伊藤敬文(26歳)×祈月清矢(16歳) 伊藤敬文は陶春県の祈月本宅のベランダに腰かけていた。隣では、清矢がハープで家に伝わる風の契約曲「風の歌」を弾いている。豚の焼き物に蚊取り線香が焚かれ、音楽が止んだ。本日の指のレッスンは終了だ。座る少年との年齢差はちょうど九歳、二十六歳と十 … ...
5 偽装されたラブストーリー 月華神殿にたどりつくと、石膏塗りの玄関口で毛利諒が蘭堂宮朱莉と談笑していた。黒のシャツにループタイを締めた端正な立ち姿だ。濃紺のスラックスも洒落ていた。朱莉は巫女服のまま、自然に応対している。 ...
1 演出された天災 順和二十七年六月、樹津川河口の空が赤黒く染まった。 兵たちの血が空に映ったのだと、山城県の民たちは声を潜めて語り合った。 鷲津氏率いる国軍の一部による山城県への侵攻は、もはや単なる地方軍閥の討伐ではなく、日ノ本の命運を占う戦となった。 ...
6 至極殿よりの使者 ビルにたどり着いて執務室に居残る参謀たちに危機を訴えると、若者たちは緊急で会議室に集められた。 伊藤敬文は事態を憂う。 「至極殿紫天宮は帝都が管轄。鷲津に裏切ったか? よくないな」 「祈月とこの地の同盟を阻もうとしてるんだ。また戦になったら、学校どうしよ … ...
1 恋ゆえのあやまち 古今東西、恋のパワーとは恐ろしい。 初恋の僧に会うために八百八町を炎に染める、それだけの危うい熱意に満ちている。 恐ろしい術師が渚村を襲った悪夢から数日後。夏目雅は幽明の境を漂っていた。 幼い夜空は泣きじゃくり、夏目屋敷に泊まり込んで、実の息子の文香 … ...