
常世の昼の春物語(第二話)相棒は俺にヒミツを許してくれない(1)
1 夏目雅呪殺事件 三年前、陶春県汐満市渚村。八月某日。村の中央会館にて、とある人物の葬式が行われていた。永劫の帝こと『永帝』を歓待するために、たった十二日間で季節の風流を味わいつくした『春夏秋冬の宴』以来、この地に根付いて村人の教育に従事してきた学者一族、夏目雅の告別式であ … ...
1 夏目雅呪殺事件 三年前、陶春県汐満市渚村。八月某日。村の中央会館にて、とある人物の葬式が行われていた。永劫の帝こと『永帝』を歓待するために、たった十二日間で季節の風流を味わいつくした『春夏秋冬の宴』以来、この地に根付いて村人の教育に従事してきた学者一族、夏目雅の告別式であ … ...
俺の世界が広がったのは、十一歳のときだった。 新しく神兵隊に入ってきたその子は、当時からまっこと綺麗な男だった。 1 不思議になつかしいあの音 日ノ本の春は桜舞い散る典雅な季節である。ことに、常春殿地方ではヤマザクラやソメイヨシノの錦模様が爛漫と輝き、うすくれないの花弁が雲 … ...
相対した恋人が、無骨なロッドを振りかざして叫ぶ。 「Magica!」 彼の右手のひらに埋め込まれた魔方陣が光り、単純な魔力の圧がウィリアム・エヴァ・マリーベルに襲いかかる。ウィリアムはにやりと笑い、天使の輪の浮く金髪を振り乱して応戦する。彼のマギカは有り余る魔力で相手を力任せ … ...
第四章 41 それからの夜空は元のように快活になった。『ゴースト』からの要求にはあえて乗らなかった。ウィリアムやシスター・グラジオラスに餌を与えたくはなかったし、シャドウウォーカー支部にとどまっている彼らが起こす醜聞とは無縁でいたかったからだ。佐野教授の様子を見るに、闇塔では協 … ...
第四章 36 交易多層都市ロンシャンの中央帯は垂直積層型の線状都市である。エトランゼ・タウンはその最下層にあった。夜でも空は見えず、闇には時代遅れの燃料ランプだけが輝いていた。廃墟じみた教会のそばには噴水広場が広がっており、人影はまばらだ。夜空は薄汚れたトーガだけの格好で、噴水 … ...
第三章 31 五日後には毎週恒例、マスター・アジャスタガル率いる早朝戦闘訓練が行われた。冬の到来を感じさせる曇り空のその日もまた飛び入り参加があった。 質問状を送り付けてきたジョージ・ヒューゴである。もしやシリルの件での報復かと、夜空たちははじめ身構えたが、彼はさっぱりと笑っ … ...
第三章 25 アジャスタガル率いる早朝実戦演習には、目付け役としての責任からか、ウィリアムも律儀に参加し続けていた。彼は新顔のフローレンスを見るなり夜空に不審な目を向けた。 「彼女は一体どうしたんだ?」 「ああ、彼女はフローレンス。シリルの従姉だよ。巴里では色彩魔術主催のショー … ...
第二章 22 アルカディア魔法大学の生活も一か月が過ぎ、八月になった。農家では収穫祭が営まれ、太陽がもたらした豊穣に感謝の供物をささげている。ヒョウガ男爵の授業の終わりしな、いつもなら素早くいなくなるヴェルシーニンが同郷のユーリとともに一通の手紙を渡してきた。夜空とアイフェンは … ...
第二章 17 翌週、いよいよアルカディア島のランドマーク、ゴント山での早朝実戦訓練が行われた。参加者はマスター・アジャスタガルの元に集った闇属性塔の新入生全員と、ウィリアム・エヴァ・マリーベル、クリストフ・アイフェン・ホルツメーラー、そして休講中のファイアーボルトゼミより先輩の … ...