
お題「抱擁」「ぬくもり」
衝撃シーン。そう思ってしまったのは何でだろうか。家宝のほとんどを持ち逃げし、返さないと頑強に言い張っていた兄、祈月夜空が、「カナリアのような」と呼ぶ少年と愛を交わし合ってるのを見てしまった。 それは一瞬だったけれど、段の入った長い髪を、さらりとウィリアムがすくいとった。そして … ...
衝撃シーン。そう思ってしまったのは何でだろうか。家宝のほとんどを持ち逃げし、返さないと頑強に言い張っていた兄、祈月夜空が、「カナリアのような」と呼ぶ少年と愛を交わし合ってるのを見てしまった。 それは一瞬だったけれど、段の入った長い髪を、さらりとウィリアムがすくいとった。そして … ...
俺の清矢(せいや)くんは軍で働くために鍛錬もするけど、いつもデオドラントにまで気を使ってる。日本での神兵隊訓練の後はよく拭きとってハッカ油のスプレーをしてたし、自分でくんくん匂いを確かめてる。使い過ぎてハミガキ粉みたいな香りになっちゃって、目にしみる、なんて言って笑ったりとか。 … ...
兄・夜空から無事御家の重宝を取り戻し、アルカディア魔法大学に入学した祈月清矢(きげつ・せいや)は、土曜一時限目の授業、「アルカディア島講義」に出席していた。新入生必修授業である。魔法の専門教育ではなく、アルカディア島の公用語およびその歴史を学ぶ総合教養科目だ。 ...
アルカディア魔法大学は新入生の入寮をひとしきり終え、後は入学式を待つばかりとなっていた。魔力選抜十二番通過の櫻庭詠(さくらば・よみ)は聖属性塔を出て、ちょうど学園都市中心部に位置するローク神殿付属・風属性塔に向かっていた。 ...
時は七月、時刻は四刻半。アルカディア魔法大学闇属性塔ではクラウス第一王子殿下の発令により特別賓客室にて会合が行われていた。列席者はロンシャン亡命者である草笛・K・夜空、そして彼の留学時からの道連れである大麗官吏・葉海英、そしてクラウス殿下自身と、新入生のトピアス・シルヴァノイネ … ...
相対した恋人が、無骨なロッドを振りかざして叫ぶ。 「Magica!」 彼の右手のひらに埋め込まれた魔方陣が光り、単純な魔力の圧がウィリアム・エヴァ・マリーベルに襲いかかる。ウィリアムはにやりと笑い、天使の輪の浮く金髪を振り乱して応戦する。彼のマギカは有り余る魔力で相手を力任せ … ...
クリスマス休暇が近いある日、ウィリアム・エヴァ・マリーベルは喉の痛みに悩まされていた。クリスマスは聖属性塔では当然、重大なイベントで、ウィリアムもミサに劇にと引っ張りだこであった。硬い金髪に翠の目、勇ましい顔付きながら背格好は少年じみた美貌の彼が聖歌隊に入ると見栄えがよく、同様 … ...
故郷、クイーンズアイランドのミルヴァイルから戻ってから、ちょうど一か月が経った。夏は盛り、小麦は実る。 空きコマができて寮の個室に帰ってきたウィリアム・エヴァ・マリーベルは窓際に見慣れない紙細工が下げられているのに気が付いた。色紙を切って作ったモビールである。星型に切ったオー … ...
ウィリアム・エヴァ・マリーベルは困っていた。 なぜなら、隣で恋人の祈月夜空が寝ているからである。 ここは寝台ではなく、アルカディア魔法大学の図書館だ。天井に至るほどの高い本棚が連なり、古代の印刷物や魔術師個人のグリモワールまで、ぎっしりと知識がつまっている象牙の塔の本拠地 … ...