クリスマス前のともだちのはなし

 クリスマス休暇が近いある日、ウィリアム・エヴァ・マリーベルは喉の痛みに悩まされていた。クリスマスは聖属性塔では当然、重大なイベントで、ウィリアムもミサに劇にと引っ張りだこであった。硬い金髪に翠の目、勇ましい顔付きながら背格好は少年じみた美貌の彼が聖歌隊に入ると見栄えがよく、同様の理由で劇でも処女懐胎を告げるガブリエルの役まで担っていた。

 諸般の関係で闇塔に居住しているとはいえ、聖属性塔の同級生たちも一年をともに過ごした仲間であったから、気心は知れたものだ。声を張って下級生を叱ることも多い。ちょうど夕食の頃合いに自室に戻ってきたウィリアムは、体調を整えようと早めにベッドに入った。

 昔からの習慣で、スーツケースにしまいこんでいたテディベアのぬいぐるみを出した。少し叩いてへたりを直してやり、枕元に坐らせる。体調が悪くなった時の孤独を癒すために母親がやってくれたまじないだ。常に隣にいて、見守ってくれる。時には先んじて不調を伝える印にもなっていた。

 就寝前にロザリオの祈りを行い、冷たいシーツの間で真面目くさって目を閉じると案の定寝入ってしまい、浅い眠りが覚めると夜空がベッドサイドに陣取って顔を覗き込んでいた。グレーの軍作業服にローブを羽織り、心配そうにこちらを見つめている。

「ウィル……どうしたの、今日は焼豚だったのに。ご飯要らない?」

 目元をこすって生返事をする。

「少し風邪気味なんだ。甘えてよければ、何か消化のいいものを」
「わかった、ノエーミに教わって作ってくる」

 夜空はそう言って素直にキッチンまで降りていった。そして一時間も経たないうちに、かぶとベーコンのスープを手に戻ってきた。シーツの隙間から這い出て、ベッドに腰かけたまま受け取ろうとすると、夜空が勝負を挑むような顔付きで身をよじって遮る。

「夜空、一体何を? まさか自分で平らげるなんて言うんじゃないだろうな」
「違うよ、おでこ貸して」

 夕食を盾にとられては敵わないので、素直に睨めっこをしてやった。前髪まで触れあい、キスでもされそうな雰囲気を感じたが、夜空はこつんと額をくっつけただけで、ウィリアムの瞳をじっと覗き込んだままだ。

「うーん、熱はまだないかな? じゃあ、『あーん』して」
「What? あのな、私は単に喉が痛いだけで、そんなことまでしてもらうほどでは……」
「いいから、『あーん』して。そうじゃないと俺が食べちゃうぞ」

 ウィリアムはしかめっ面で口を半開きにした。夜空は注意深く木の匙にスープをすくい、口の中にそっと流し込んでくる。あっさりした塩味が優しい。

 明らかに一人で食べるほうが楽だったが、木の匙を噛んでやっても、自分でできると抗議しても夜空は一歩も譲らない。頭まで撫でて子供あつかいしてくる始末だ。途中から瀬戸物のボウルを奪い取って行儀の悪さも抜きにして直接残りをすすってしまう。頬を膨らませた夜空は、枕もとのテディベアに気づくとすぐに機嫌を直した。

「あれ? このくまさん、新顔だね」
「ダニエルと言う。七歳のバースディプレゼントだ」

 膝の上にベアを乗せて紹介する。ベアはグレンチェックのしゃれた柄で、首のリボンは深紅のリネンだが多少くたびれていた。金のモール糸の縁取りがある紺のぴったりしたベストを着ている。

 夜空は満面の笑みで両腕をいっぱいに開いた。

「ウィル~~♥️♥️ 君は、なんて可愛いんだ!」
「ハグがしたいのか? 今、あまり濃厚接触をするのは……」

 夜空はまるで構わずにウィリアムの肩を抱きしめ、すりすりとほおずりした。頭頂に垂れた犬耳をくすぐり、丁寧なキスをする。最後にきつく抱擁して、ウィリアムをアジアンの涼しい目で見つめた。

「ウィル。俺がいっぱい看病してあげるからね♥」
「夜空、あのだな、一体どうしたんだ、浮わついて」
「だって、古いくまさんを大事にしてるなんてキュンキュンしちゃってさ。可愛い友達がいたんだね」
「それよりは差し迫ったクリスマスの準備をするとかだな……って、おい、夜空?!」

 夜空はウィリアムの制止も聞かず、狭いベッドにいそいそと潜りこんできた。ブンブンと激しく尾を振るため、毛布の隙間からは容赦なく冷気が入ってくる。

 寝起きでけだるい身体をベッドマットに押し倒された。ウィリアムはテディベアの行方が気になり、手をうろつかせてぬいぐるみを探す。

「あっ、ダニエルも一緒だよね。ごめん、どこに置けばいい?」
「枕元に座らせてやってくれ。病の時の習慣なんだ。子供っぽいかもしれないが」

 夜空は黒目を丸くして、発見したダニエルの両肩をつかみつつ甘い声で告げた。

「この子は君のガーディアンだったんだな。抱っこしてもいい?」
「許すが、大切に扱ってくれ」

 夜空は起き上がり、ダニエルを大切そうに取りあげ、鼻先にキスしてはきゅっと抱いた。ぺたりとベッドに座ってぬいぐるみを抱く恋人の姿は非常にキュートであざとい。

 闇夜を溶かしたような長い黒髪に、小さな星をちりばめたような快活な黒目。こっくりした生白い肌。骨格だけは立派に少年期を脱している夜空であったが、童顔でもあったために、そんな仕草まで愛らしかった。

 ――以前、口論の末に夜空の本質を言い当てたことがある。「庇護を求める子供」。

 幼い頃から独りで権力者に仕えたがゆえの盲信。こんな風に媚びた夜空を、男はどう扱ったろうか。中年男にはだかで馬乗りになってアヌスで精を搾り取る、そんな暴力の光景がまた頭をよぎった。夜空は頑として否定していたが、男娼として養われた過去がある以上、ウィリアムは疑念を払えずにいた。

 自分だってロンシャンのエトランゼタウンで観光ガイドのストリートキッズとして夜空と出会ったら……。

 もちろん、恋したろう。夜空は麗しい。生き生きとした性質も聡明さもウィリアムを惹きつけてやまない。同年代の少年として出会い、ふたりでその無機質な首都エターナルブルーを駆けめぐり、エレベーターや噴水を見る。はしゃいで、手を繋ぎ、髪に触れて……。そうしてキスする。彼を男娼扱いする。金持ちの放蕩息子と現地移民の関係なんてそれしかありえない。夜空はきっと生きるために我慢をする。

 いつもしなやかで強そうな夜空の、立場がゆえの弱み。人の耳には銀色のテレパス通信ピアスが光る。ロンシャンの欧米系大統領ゴールドベルク氏の特別な所有物であると言う証。ありもしない対象への嫉妬で欲情がひりついてきた。性質の悪い酔いに似ている。

 苦しくなったウィリアムは急に夜空に背を向けてベッドに横になった。内腿をぴったりと閉じ、少しだけうつむく。自閉したウィリアムの肩を、夜空は多少強引に揺り動かした。

 そして心配そうにささやく。

「ウィル、大丈夫? 具合悪いの?」

 硬い金髪に手櫛を入れ、くしゃくしゃと撫でてくる。背中に張り付くように添い寝をされて胴を抱きこまれ、ウィリアムはますます自分の欲を恥じる。

「大丈夫だよ、ダニエルも俺もそばにいるよ……?」

 年下扱いされてしゃくだったが、邪見にすることはできなかった。夜空はぴったりと身体の前面を背中にくっつけてきて二の腕を撫でている。スージングタッチに産毛まで立ち上がってしびれた。

 ウィリアムは敗北感にまみれながら白状した。

「夜空……そんな風に私をかき鳴らさないでくれ」
「えっ、意味ありげに思えた? ウィルは病気なんだよ、俺、そんなつもりは……」

 夜空のあっさりした返しが憎らしかった。ウィリアムは気分を害し、夜空をきっと睨む。感情の揺れ幅が不調のせいで大きいのだ。明るい翠の目が細められるとなかなかの迫力もあったが、夜空は臆せずにバックハグをして下手に出てきた。

「する元気はあるの? じゃあ俺、手伝うよ」

 してはいけない理由はいくつも思いついたが、若い身体の反応は驚くほど素直だった。股にはさみこんだペニスが期待でじんわりと熱くなる。黙ったままの恋人の本心を夜空はいつも通りに熟知しており、薄い犬耳を甘噛みしていたずらっぽく囁いた。

「準備してくるから、少し待っててね。ダニエルは……ええと、デスクに坐っていてもらう」

 そう言うと、夜空はベアを持ってベッドから脱出していった。食器もついでに片付け、しばらくするとえっちらおっちら戻ってくる。持っていたのはホーローの洗面器だった。端にはガーゼがかけられている。起き上がって問いかけた。

「何を始めるつもりだ?」
「ん、ウィルは今日はシャワーに入れないから。俺がきれいにしてあげる」

 要するに身体を清めるということだ。家族や看護師相手でも恥ずかしいのに、どこまでも見栄を張りたいライバル兼友人兼恋人からそれをされるのは強い抵抗感があった。ウィリアムは首を横に振ったが、夜空はベッドに腰かけて、あろうことか口づけをしてきた。風邪がうつる、と注意したかったが封じられてしまう。押し倒され、ウィリアムは真正面の至近距離からあどけない顔に迫られた。夜空はにこっと笑い、ウィリアムの寝巻のボタンを外しはじめる。

 洗面器にかけられた何枚かのガーゼはすでに濡れており、メントール入りなのか、肌を擦られるとひりつくような冷感が残る。

 夜空は脇の下や背中などをざっと手早く拭いてしまうと、今度は直にウィリアムの身体に触りはじめた。

 浮き出た鎖骨。薄い胸に残る敏感な乳首。うっすらと入る筋肉のラインに指を這わされ、くすぐったさを我慢すれば体の深部に快楽が芽吹いてくる。体調は芳しくないのに、性の回路だけは疲れて過敏になっていた。火花が散るような心地よさが胸の突起ではじける。何が始まったのかをウィリアムははっきり知覚していたが、半ば望んでいた展開だったために、普段のように厳しく制することができないでいた。

「よぞら……ダメだ、ノー! 今は休養のときだ、こんなセクシャルないたずらをしていいわけがない……!」
「ん……? 辛いならセイフワードを。スッキリした方が早く治るかもよ」

 お堅い懸念を軽くいなしてから、夜空はまずウィリアムの桃色のそこを唇だけでくすぐり、歯を立てずにくわえてからようやく吸い付いた。受け手に配慮した、段階を踏んだ愛撫だ。夜空のテクニックにはいつもカインドネスを通り越した思いやりがある。もたれさせた上半身が温かい。似たような生き物の熱が触れあって、リラックスと同時にうずきが強まってくる。

「よ、夜空……! 君は、なんて淫乱な……!」
「んー? ウィルの乳首、おいし……♥ ちっちゃな砂糖菓子みたい」

 痛みにも似た刺激は、それでも痛みに変わることはなく、鋭い心地よさが背筋をぞくぞくさせる。薄い乳首はだんだんと立ち上がって、胸筋も全体をもみしだかれる。奥に張り巡らされる腺が悦びの信号を伝えた。

 吸い付いていないほうの乳首は爪先でこりこりと愛し、ちゅくちゅく吸い付いて舌でじっくりと転がす。全身が快感でこわばり、細かく震えるのを、夜空は手をつないできてきゅっきゅっと握ってはなだめている。

 ちょうど密着した夜空のへそのあたりをこわばりかけたペニスが押しあげていた。夜空はわざと腹部を押し付けて、性感を与えている。その部分の筋肉のみっしりとした硬さが、ウィリアムに熱風のような欲望を喚起する。夜空のそこへ入りこんて思い切り突き上げたいと、荒れ狂ううずきで腰が浮く。

「っ――♥ よぞらっ……♥ ぅううーっ♥」

 口を片手で覆って硬直しながら、ウィリアムは喉奥で喘ぎを殺した。ウェストの横の鋭角な線を、夜空の人差し指がだましだましくすぐる。思わせぶりないやらしい触れ方に煽られて、股間の中心で膨れ上がるものがびくびくと脈打った。けなげに反り返っては夜空の腹を押す。

 ふっと、気まぐれに夜空の頭が胸から離れた。まさにヴァンプ、と形容したいような笑みが艶やかだ。追いかけるように起き上がろうとすると肩をトンと押され、ふたたびベッドに沈みこんだ。踊るような声色が続きを予告する。

「今度はもっとよくしてあげる。準備はオッケー?」
「よぞら、ああ、私の罪を……引き受けてくれるのか」

 寝巻の前紐をほどいて、夜空が下履きをすべてずり下ろす。とたんにチェリーピンクに色づいた性器がぶるんと震えて、ウィリアムの薄い腹筋に張り付いた。夜空は楽し気な微笑みを浮かべて、人差し指で剥き出しの先端をくるくるといじる。半分いたずらに近いそんな刺激でも、快感がヴェールのように全身を包みこみ、先走りがじゅくっとあふれて、糸を引いた。

「ふふ……ウィルの、舐めたげる……♥」

 たっぷりと含みを効かせて夜空が言うと、つやつやの黒髪の頭が下がっていって先っぽがぺろりとなぶられた。舌で磨くように、ウィリアムの視線まで意識しつつ、前面を押し付けて丹念に舐める。

「ん、やっぱり美味しい……ウィルの味」

 そんな見え透いた、でも汗が噴くほど興奮するセリフを聞きながら、自分からも舐めやすいようにウェストをひねる。夜空は唇で歯をガードしてくっぷりと根元までくわえこんでくれた。舌が幹にまとわりつく。全体が唾液でひたされる。ぬるぬるの熱い粘膜にくるまれて、ジンジンと棒が痛いくらいにしびれた。

 そんな楽園のようなフェラチオは長くは続かなかった。丁寧に濡らされたかと思うとつむじは股ぐらから遠ざかる。

「あぅ……? よぞら」

 ねだるように問いかけると、夜空は足元に置いていた洗面器を取って、新しいガーゼに何やらローションをまぶしていた。ほんの少しローズの香りがするそれを手のひらにとって、まっすぐ見つめて釘を刺す。

「痛かったらすぐに言ってね」

 夜空は優しく言って、尖りきったうずく棒にガーゼを被せてきた。冷たい感触に一瞬腰が引けたが、蛇口をひねるように夜空が手首を動かしたので、敏感な先端がローションまみれの布でかなり露骨にこすられた。

「ヒぁっ!? うあっ、ウぉっ……!」
「すごい、ガチガチだよ。きれいにしようね……♥」

 悲鳴じみた喘ぎ。夜空は横に添い寝してきて、頬にキスする。ガーゼの布目は痛いはずだが、とろとろしたローションと、焦らされてぱんぱんになった欲望のおかげで、性器はしっかりと快感を蓄える。

 夜空の美しい筋肉質のからだが、傍に寄り添っている。甘い吐息で、ときおり耳を舐めて、首を吸ってはちゅ、ちゅと浅いキスをくれる。そしてもう片方の手では、ウィリアムの手のひらをしっかり握っている。今すぐにでも抱き着いて、太腿にでも尻にでも押し付けながら一心不乱に腰を振りたい。けれどそんな情けない行為になど及べない。プライドと欲望との板挟みになりながら、ウィリアムは一風変わったプレイに没入していった。

 きゅくきゅくと布ごしにペニスを揉まれる。亀頭だけをぞりぞりと布が擦っていく。布はどんどんローションだけでない粘液にまみれていき、重たい熱をもつ。

「んっ、ん、うううっ、くぅう、おっお……!」
「気持ちいいね、ウィル。もっともっと良くなろうね。全部甘えちゃっていいからね……?」
「ンッ、ンッ、よぞらっ、ふ、ふつうに、ブロウジョブを、――くあぅっ、はっ♥」
「お口がいいの? ふふ、えっちだ……♥」

 夜空はヒトの耳に口づけしてきて、じっとりと穴に舌を差し入れた。耳孔に直接水音が溢れ、怖気に似たくすぐったさで全身が震えた。亀頭はジンジンとしびれ、先っぽだけの無慈悲な刺激とともにものすごい勢いで精液が内部に充填されていくのがわかる。

「よぞらっ、よぞらっ、ぅうう、あっ、そ、そこはっ」
「痛かった? 大丈夫? こんどは優しく、くしゅくしゅするね……」
「――ぅあああ、おっ、オオッ」

 夜空が手のひらをガーゼにかぶせてやわやわ亀頭だけを揉んだ。五指の感触が布で相殺されてじれったい。

「くぅうん、ウィルぅ……♥」

 耳元で甘く響く鳴き声は犯してやっているときよりも芝居がかってセクシーで、今のこの生殺しの状況を愉しんでいるかのようだった。憎らしいのと愛しいのと、二重写しの感情までが昂ってくる。ウィリアムは寝返りを打って隣の夜空に抱き着いた。胸元に鼻先をうずめ、健康的に張ったそこに顔全体をこすりつける。夜空はいったん、事故防止で手を外したが、体勢が整うとふたたび股間に手を伸ばした。

「ううっ、くうう、夜空♥ 夜空」
「ウィル、ウィル、ウィリアム。俺の可愛いブロンドのダーリン……♥」

 快感は危険なほどに差し迫っている段階だった。精液はせり上がって、ローションと混じった先走りがじゅくじゅくと首元まで垂れてきている。そしてその生々しい重さを感じて、ビクリと下半身全体が跳ねてしまう。ローションはすでに分泌液のおかげでぬめりを増して、ガーゼの布目はわからなくなっていた。皮膚よりほんの少し硬い布での刺激は暴力的ですらある。脳が性感で極彩色に溶けて、股間のこわばり具合は自分でも少し怖いくらいだ。きゅん、きゅんと腰を夜空の手のひらに押し付けてしまう。それだけでは足りなくて、両手いっぱいに平たい肢体を抱いて、いやいやをするように頬擦りをして、なめらかな肌に少しでも触れたいと、あさましく舌まで出してミリタリーシャツの襟もとを舐める。

 ここまでするなら犯させてくれたらいいのに!

 ほんの少し埃くさい、ミントと混ざった香りまで吸い込みながら、ウィリアムは焦れに焦れて夜空に全身で甘えた。

「ン、ん、あぁ……♥ よぞら、どうしてこんなに意地悪をするっ……?」

 ペニス全体をかくかくと手首にまで押し付けながら、ウィリアムは懇願した。夜空は半眼になったまぶたにそっとキスして、ささやいた。

「分かった、もうイこうね。俺の手でイッて……♥」

 夜空は誘って、亀頭からガーゼをずるりと根本まで滑らせた。待ちに待っていた竿への刺激で、根元の畝が急速にびくつく。

「数えるからね、One,Two,Three……♥」

 舌足らずなカウント。それに合わせてねっとりとしたストローク。ウィリアムも手のひらとガーゼで作られたぴったり張り付く筒の中で、腰を揺らして摩擦をむさぼる。魂まで削られていきそうな愛撫。待ちに待っていた性器全体への露骨な手技。夜空の手つきは異常なほどにいやらしい。睾丸の袋やまざまざと浮いた裏筋や、先端とのくびれや鈴口の割れ目にまで容赦なく忍び込んできて、くっきりと下から上へと精液を搾りぬいた。それは誘惑という名の攻撃だった。敗北だ。

「Eleven,Twelve,Thirteen……!」

 尻をぎゅっとすぼませて、ウィリアムはどぷりと出した。ストローよりも太い精液が断続的に放出してゆく。快楽は脳裏を焼くほどで、目の前がちかちかと眩み、身体も精神もすべての動きが射精一色に塗りつぶされた。白い快感の矢となった精が、かぶせられたガーゼまではねちらしてびゅっびゅっと飛ぶ。

「うぐ、うううっ、ンッ、おおおッ……!」

 抱き着いた夜空は射精の間、ずっとその蠢きをサポートし続けてくれた。精液が服についてしまうだろうに、何のお構いもなしだった。

 ドッと底の抜けたような脱力感に支配されて、ウィリアムはくらくらしながら全ての淀みを出し切った。すっきりしたというよりは、ヘビーな運動をした後の疲れに似ていた。恋人が一分の隙もなく寄り添って、繋いでいたほうの手をほどいて背中をぽんぽん叩いてくれる。幸福感がじわりとにじんだ。

「ウィル、ありがとう……後始末も俺にさせてね」

 夜空が新しいガーゼで性器のドロドロを拭いてくれる。いなくなってほしくなくて抱き着くと、温かな抱擁がきた。

 身体が弱って心細いときに、頼れる存在に全身を預けきってしまうのは、良家の子息として生まれた彼にとっては、ほんの子供のころにすらあまり経験したことのない途方もない安らぎだった。

 なぜだか泣きたいような心持ちで、ウィリアム・エヴァ・マリーベルは大好きな夜空に抱きつきながら眠りについた。

 翌朝目覚めると、テディベアのダニエルが同じ枕で寝かせてあった。こういった使い方をするわけではないのだが、自身の代わりといったところだろう。ウィリアムは苦笑して起床した。体調のほうは、まだそこはかとなくだるさを感じる。

 夜空のことが気がかりでベッドの上段をうかがうと既にきれいにベッドメイクがされていた。探しにいこうと着替えていると、朝食を載せたトレイを持った夜空が苦労しながら足で部屋のドアを開けた。雪景色の朝の光に照らされ、妙にキラキラして見える。

「ウィル、あまーいミルク粥を作ってきたよ。エルダーフラワーのお茶も淹れてきた。食べ終わったら身体を拭くから大人しくしててね。寒気がするなら湯たんぽもあるよ。熱は大丈夫? 食べ終わったら計ろう。そうしたら医療室から精油入りのワセリンをもらってきてあげる……!」

 医者志望の夜空は昨日にもまして、世話焼きに張り切っているようだった。そこまでしなくても平気だとはとても言い出せずに、ウィリアムはダニエルとともに一日休みをとり、介抱を受けることにした。

 ――肝心のクリスマスは、万全の体調で迎えたいから。

 以来、ダニエルはスーツケースの隅ではなく、ウィリアムのデスクに鎮座することとなった。

 夜空をはじめとした友人たちの出来心で、いつのまにやらサンタの扮装までさせられていたが、それはまた別の話。

(了)

ローションガーゼで攻め喘ぎです。