お題「映画鑑賞」「暗闇」
敬文と活動映画見に来てる。たまの息抜きにどう? って誘ってきたから、俺も嬉しくなってついてった。ポップコーンやメロンソーダ買って、始まる前からワクワクしてる。
「俺、映画なんて大学生で初めて行ったよ」
「えぇー? 俺はたまにばあちゃんとか、母さんとか……あと友達とかとも一緒に来るよ! ま、こっちだって映画館県内に少ししかないけど」
「帝都までは行こうと思えば行けるんだけど、それよりは剣やる方が楽しくって。今も見るのは戦争とかアクションばっかり。だから女の子にはウケ悪くってさ」
そうやっておしゃべりしながらチケット買って入ってくのはSF映画だった。巨大隕石が落ちてきて世界が滅亡する前に……!? っていう世紀末モノ。上映前の注意があって、照明が落ちて、ザワザワしてた館内も静かになる。
俺はスクリーンの明りに照らされた年上の人の横顔を見る。
女の子とかともこうやってデートしたりしたのかな。
そん時、その子はやっぱり暗闇の中敬文のこと盗み見てたのかな。
それとも、逆?
話なんかそっちのけで敬文を見つめてると、ふいに目が合った。
「……清矢くん」
敬文は小さく名前呼んで、座席の手すりの下に手をくぐらせて、素知らぬ風で膝上の俺の手にかぶせた。俺は思わずドキッとして、わざとスクリーンに夢中なフリ。大音量でパニックになった人たちの声が流れてる。カットは次々切り替わって、街角、家庭、マスコミに政府。そして特命機関の主人公たちの話に戻る。
手のひらから優しい体温が伝わってくる。
いっそぎゅって握ってくれたらいいのに。
俺たちは傍から見たらただの少年と大人の二人組。
肩なんて抱いてきちゃったらどうしよ。
筋には集中できなかった。クライマックスは主役が政府の人間を倒しながら戦術核発射ボタンを押して隕石を粉砕した。その後は長身モデル演じるヒロインとのラブシーンだ。俺はとくに感動はしなかった。すすり泣いてる人もいる。
終わった後、少し人波が引けるまで待って、俺たちは座席を立った。食べ残しを捨てて、施設を出ると敬文が手を握ってくる。
「この後どこ行く? まっすぐ帰るなんて俺はいやだな。感想戦でもしようよ」
「……あのね敬文。俺、やっぱ抱きしめてほしい。喫茶店とか行っちゃう前に」
「わかった。ちょっとこっちにおいで」
敬文はちょっと陰のあるストイックな顔したまま、非常口に繋がるちょい奥まった廊下に俺を誘い込んで、リクエスト通りにした。
背中を愛おしげに撫でてく手のひら。こめかみに押し付けられる唇。年齢も思い出も何にも共通点がないから、触れ合いだけに貪欲になる。暗闇の中に置き去りにされた迷子みたいに、俺は年上の男に力一杯すがり付いた。
(了)
※この短編は独立した軸としてお楽しみください