召しませ特製Energy Cell!

 清矢くんが草笛家のピアノ部屋で楽譜みて唸ってる。

「えっ、ここも転回和音なのか? ったく、調性どれだよ~! 全然わかんねぇ」

 しばらく鉛筆片手に楽譜とにらめっこしつつ、ところどころに英字記号を書き入れる。そして机に座ったまま肘をついて、前髪をぐしゃぐしゃ。雑誌の投稿欄読んでた俺はそばに寄ってって茶々入れる。

「清矢くん、ピアノの練習すんじゃねぇの? まるでお勉強みてーじゃん」
「その前に譜読みがあんの。楽曲分析、自分でもやらないとロクに弾けないんだよ。あーでも細けぇ、わかんねー。いつ解決がくるんだよ」

 ひとしきりぶつくさ言ってから、清矢くんは背もたれをギュッときしませてピアノに移った。実際に音鳴らしながら、一小節ずつ細かくメモしてる。真剣な横顔はマジでお人形みたいに綺麗で、俺はじっと見てた。

 区切りみたいな和音が響いてから、清矢くんは大きくため息ついて、ピアノのふたをとじる。そしてじゅうたん敷きの床に座ってちらちら盗み見してた俺の首をギュッと肘でロックした。

「詠~! 何だよ、清矢サマに見とれちゃってたってか~?」
「ち、ちげー! 清矢くんこそ練習サボんなよ! 俺は雑誌読んでんの!」

 照れ隠しにそう言ってギュッと雑誌を握りしめる。ふいっと横を向くと、獣耳をはむっと優しく噛まれた。いきなりくすぐったくて俺は背筋をぞわつかせる。

「や、やめろよ清矢くんっ……! 何ヘンタイなことしてんだよ」
「えへへ~。清矢サマ色好みだから。詠~充電させてな~♥」
「充電って何?」
「ん、こういうこと♥」

 清矢くんはにこっとうるわしー顔を笑顔にすると、俺にぎゅっと抱き着いたままほっぺたをくっつけてきた。ぺたっとすべすべした肌が触れ合って、俺は思わず片目をつぶる。清矢くんは頭を俺の鎖骨にのっけて、すーはー深呼吸した。

「頭使って疲れちまったから。詠に癒されたくて」

 息がちょっと当たってこそばゆかった。清矢くんがそう言って胴に抱き着くので、俺はちょっと照れながら雑誌読む振り続けてた。何にも言わないまま、すりすりと頭をこすりつけてきて、なんだかすごくいじらしく感じる。さらさらの黒髪がかすかな音を立てて、清矢くんはゆったり深めの呼吸。強く抱き寄せてキスしてやり返してやりたいけど、この微妙な親密さが壊れちまう感じがしたから俺はじっとしてた。

「なぁ、清矢くん……」
「しーっ、黙って。俺今、回復中」
「じ、じゃあヒール、してやるよ……?」

 陶春魔法大学の特別指導で習った回復魔法をかけてやろうとして、ドキドキしながら清矢くんの丸められた背に手をかぶせた。お尻に向けて撫でてやる。清矢くんは俺の下心を見抜いたのか、人耳のほうにちゅっと軽く口づけして、ささやいた。

「いらない。詠のこと感じさせて」

 いつもは澄んだ声がちょっとかすれて甘くて、俺はたまらなくなる。くんくん鼻を鳴らしながら、横からキュっと抱かれる。すりすり程度だった顔をぎゅっと押し付けられて、俺は困りながらも肩を抱いてやって、つむじに唇を落としてやる。わずかな接触を敏感に感じとった清矢くんが大げさに震える。

「ふぁあ……! 詠、なかなかタラシなことできるじゃん。なぁ、もっとして。もうちょっと抱いてくれたら、またピアノ弾けるから」

 俺はうなずいて、凝った背中をゆっくり手のひらで溶かすように撫でてやった。しばらくすると清矢くんはさっぱりした顔で起き上がって、少しはにかんでピアノに戻った。こ、これが充電かぁ~。疲れまで一緒に引き取ってしまったみたいで、一気に力が抜けた。清矢くんはいつもの飾り気のない音色で鍵盤を打ち始めた。俺も何食わぬ顔で雑誌に意識を戻す。

 数日後、俺たちはうちでアルカディア大の入試のために勉強してた。魔術式の鎖みたいな記号の連なりの解読や、英単語帳の丸暗記を繰り返す。神兵隊の訓練とはまた違った意味で地獄だ。こたつ机にかぶりついてチマチマと勉強して、集中できたのはいいけどこめかみが痛くなってきた。

 清矢くんも英文で物理の問題を解答してる。鉛筆をさらさらと動かして、それから答え見て思案顔。潤んだ煙のような眼、それを縁取る長いまつげ。形のいい鼻に、ぽってり林檎みたいに赤い唇。雰囲気のある目元には艶やかな陰が落ちる。目の保養だけど、俺は黙って席を立って、緑茶のおかわりを運んできた。

 湯飲みに口つけてほっこりしつつ、まだ解答を読み直してる真面目な俺の恋人にすり寄ってみた。

「なぁ清矢くん~、俺も充電したい……」

 わざと上目使いで、ちょっと学ランの襟引っ張って甘える。清矢くんは湯飲みを天板に置いて、首傾げて俺を覗き込んだ。

「詠も早速『充電』覚えたか~。いいよ、おいで」

 手招きされるままに、俺は清矢くんの肩に顔を埋めた。挑みかかるように何度も何度も顔を学ランのサージに擦り付ける。そのうち落ち着いてきて、すーって深呼吸して糸の切れた人形みたいにくたっと抱きついた。

 尾っぽをパタッ、パタッと振りながら、腰の辺りに触れた手をぎゅっと握りしめる。うっすらしたウエストのカーブを感じつつ、清矢くんを腕のなかに捕まえた。髪の中に鼻の頭を潜らせると、シナモンみたいな美味しそうな香りもする。思わずため息がこぼれる。

「はぁ、清矢くんもっと抱いていい?」
「いっぱい回復しとけ。詠、俺もヒールしてやるよ」

 しっかりした骨格と肉が頼もしくて抱擁を強めてると、清矢くんが首を上げて俺の頭をきゅっと胸に抱いてくれた。抱き止められて、一瞬呼吸が苦しいのも嬉しい。俺は濃密な幸せで脳天までしびれて、目をつぶってされるがままになってた。清矢くんの静かな呼吸の動き。俺の短髪をわしゃわしゃ撫でてくる手のひら。人耳にキスして、耳たぶをちゅくって吸って、そして遠慮せずもたれてくる。

「んー詠。俺のかわいー詠……♥」

 甘いミルクみたいなささやき。可愛がられてる、大事にされてるっていう感覚が心を奥底からあっためる。疲労もゆっくりカラダから抜けてく。

 俺はすっかり頬が熱くなっちゃって、チャンスかもと思って清矢くんをどさりと床に押し倒した。煙った大きな黒目が俺をまっすぐ見返す。三角のけもみみが髪の中からふさっと起き上がってくる。

「なんだ、詠? ……もしかして俺のこと襲っちゃってる?」
「うん……だって俺、オオカミだもん」

 俺たちの関係については約束がひとつある。大学に合格するまで肉体関係はなしっていうのがそれだ。清矢くんが挿れられんの怖いんだって。「それに一度覚えたら詠はケダモノ状態になっちゃうだろ? ヤリまくって大学落ちるっていうのは避けたい」というのが最もな言い分。だけど盛りのついてる時期に、恋人とイチャイチャして平気でいられるわけがなくて、俺はやっぱ、先に進みたい。男同士だと挿入するには特別な準備がいるらしくって、勢いじゃ無理みたいだけど、それでも……。

 強く拒否られないのをいいことに、清矢くんに正面からキスする。ニキビなんてありえないさらさらの頬を軽く手の甲で撫でて、学ランの金ボタンをはずしてく。清矢くんはそこまでなら抵抗しない。

「清矢くん……好き」

 精一杯愛を告げて、ぎゅうって抱き締めて、鎖骨の間に顔を突っ込む。学ランの下の開襟シャツを引きずりだして太ももの間に脚を挟み込んだ。愛しい相棒のカラダを全身で感じる。シャツのボタンを外してはだけさせると、蝋みたいに白い肌がうっすらした起伏を見せて息づいてた。

 薄い盛り上がりのある胸をむにむに揉む。桜色のちっちゃな乳首が気になって仕方ない。そうっと摘まむと、恨めしげに睨んできた。

「詠、スイッチ入っちまった?」
「もっといっぱい充電したいよ。俺に、清矢のことちょうだい」
「うーん、でもさ……ここだと詠のかーちゃんに見つかっちゃうしさ。大丈夫。俺がなんとかしてやるから、詠も仰向けに寝て」

 俺は言われた通りにした。清矢くんの着崩れが色っぽい。俺の恋人は、畳の上に仰向けになった俺の上に覆い被さって、しゃなりと重みを預けてきた。太ももをすりっと脚の間に擦り付けてきて、股間までくん……と密着させる。お誘いに素直に滾った俺はまたごろんと転がって押し倒しそうになる。でも、清矢くんは逆にキスをしてきた。右手を握ってくれて、膝を股間に擦り付けてくる。

「せ、清矢くん……! それ、生殺し……!」

 顎のラインに何度か小さくキスをして、清矢くんは俺にぴたりと寄り添う。

「詠、気持ち良くしてやるからな~?」

 そう言って、すりすり頬擦りしながら、清矢くんは勃ちかけた俺のものに左の手のひらを被せる。ふわりと握られて俺はごくっと喉を鳴らして縮こまる。

 寝転がって、ひたりと身体の上に乗られる。顎や唇に口づけされながら、俺は性器をいじられる。とくん、とくんって心臓の鼓動と共に、ちんこにも血が通ってく。無駄な力が抜けていってとても抵抗できない。清矢の重みとあったかさには充足感って魔法がかかってて、俺は愛しい相棒の細い肩をこわごわ抱き締めた。

 スラックスの前立てが開けられる。ぎゅんっと急角度で起き上がったちんこが少しひやりとする。清矢くんの器用な指が、俺のをきゅむきゅむと擦りあげる。とたんに五色の光みたいな快感がとろける。親指で裏筋を強めに押さえ、上下にしごかれるとじっとり先走りが漏れてしまう。

「ん、んっ。はぁ、ああ、清矢っ……!」
「詠~♥️ して欲しいことあったら言えよ」
「おれ、俺っ……! 清矢に入れたいっ……!」
「そか、……うん、分かった」

 腰が思わず浮き上がって、空中をかくかくっとえぐる。そんな俺を哀れに思ったのか、清矢くんがのっそり動いて、次の瞬間。

 俺のちんこは温かいぷにぷにした唇に、ぴたりと頭を触れさせていた。

「あっ、せ、清矢くん……!? ダメだ、そんなとこにキスなんかしたら、汚えよ……!」
「汚い? そんなことねーよ、俺の中に入りたいんだろ……?」

 清矢くんは両手で俺のちんこを抱え込むようにしながら、先走りで濡れてる切っ先にちゅっと唇をつけた。舌先がペロペロと割れ目をなぞる。根元がひきつるくらいの快楽が先っぽまで一直線に抜けてくる。角度を変えて何度も何度も亀頭にキスされて、背徳感で頭がどうにかなっちまいそうだ。

 清矢くんの澄んだ美貌に俺の卑しい部分がくっついてる。
 清矢くんの紅色のきれいな唇が、俺の赤黒いちんこの先を拭ってる。
 ピアノで組曲とか弾く長い指が複雑に動いて全体をくすぐりあげる。

 卑猥すぎるその光景。他のやつがしでかしてたら怒りに任せて殴ってるよ。それなのに俺の先汁が舌ですすられて、いとおしそうにちんこを抱えられて、熱心にちろちろ舐められて……! 逃げ出したいような、泣きたいような、けど猛烈に勃起してた。

 そのうち清矢くんはさらに大胆になり始めた。先っぽにキス、幹をくわえてちろちろ舌で洗い、ついにはそそりたった男根を……口を開いてぬぷぷっと呑み込んだ。

 俺の亀頭は体温の熱さとたっぷりの唾液で濡れた粘膜にひたひたと包まれた。敏感な部分をくるまれたせいで、思わず腰を浮かせてのけぞってしまう。

「うあっ、あっ、あああっ、清矢ぁ……!」
「ん、んんー♥️」

 舌が形を確かめるように、ぬろぬろと幹に張り付く。俺は情けなくあえいで、それでもちんこいっぱいに満ちてくる白湯みたいな心地よさに、びくびく脈打ちながら大きくしていった。ちゅぱっちゅぱっとみだらな音まで立てて清矢くんが頭を上下に動かす。擬似的な挿入感に尻が浮いてがくがくしてくる。突っ込む動きで喉奥にずぽっと嵌まってしまうと、むず痒くなるような快感が身体じゅうをよじらせた。

「くうっ、ううっ、はぁ、あ、清矢っやめろっ、俺指だけで充分だからっ……!」

 必死に頼み込んで、ようやく清矢くんは口を離してくれた。唾液を手の筒でちゅくちゅく塗り込みながら悪ーい笑みを浮かべる。

「ウソだぁ~、清矢サマのお口きもちいきもちいって、詠のこっちの尻尾泣いちゃってるよ?」
「ちげえ、ちげえよう……! そこ綺麗じゃねーから、それやめて……! 俺は清矢くん汚したくねーよ」
「俺のお尻に挿れたいってやつが何言ってんだよ、ほら、しこしこ♥️ きもちーな? いっぱい出しな、俺の詠ちゃん♥️」

 甘やかす口調で言って清矢くんは鼠径部やまたちんこのてっぺんにキスし始めた。いけないことだと分かっていても、俺はますます興奮して、清矢くんがはむっともう一度深くくわえこんできても、抵抗なんかできなかった。

 唇の輪がきゅううっと幹をねっとり締め付ける。ぢううううっと品のない音をたてて硬く芯の入ったちんこが吸われる。あたたかくてぬらついた柔らかな粘膜。床につけた足裏でぐうっと踏ん張りながら、俺は尻を引き締めた。

「ん……♥️ くぅうん♥️」

 清矢くんが甘い声で鳴く。そのねだるような媚びた音色がたまらなくて、俺はせりあがってきた射精感に負けてしまった。

 びゅくっびゅくっって脈打って、濃くねばついた火の液が、最奥から一直線に出ていく。どぷっどぷっとしぶくたびに、強烈な気持ちよさで目の前が真っ白にくらむ。ドーブツに戻っちまったみたいにただ快感だけがちんこの内部で炸裂する。規則的なひくつきにあわせて、清矢くんは舌で尿道口まで舐めとってる。好きなやつの口んなかで、好きなやつの温かさ感じて、勃起も射精も喜ばれ、あやされながら快感を極めてしまった。ちゅくちゅく吸いつく口んなかが柔らかくちんこをケアしてくれる。

「んぅうー、ん♥️ はぁあー、詠、いっぱい出たなあ……」

 射精しちゃった精液の処理まで思考が回ったのは、清矢くんがそうやって口を離して、とっくに全部飲まれたあとだった。男の沽券てやつが粉々になっちまった。それなのに馬鹿になるくらい気持ち良かったことがあんまりにも罰当たりすぎて目には涙まで浮かんでた。

 赤ちゃんみたいに下着ごとスラックスを上げられてジッパーが閉じられる。清矢くんは後始末を終えると嬉しそうにもう一回俺の身体に寄り添ってきた。額に手を当て、不敵に微笑みながら、低めた声音でけもみみにささやく。

「詠、回復したか? ……まだならもう一回、清矢サマに飲ませてみなよ」

 俺は悔しさと申しわけなさとでない交ぜになった感情そのままに、清矢くんのうっすい胸元に甘えついた。寛大でえっろい俺の王子様は、のんきにぱたぱた尾っぽを振ってる。

 それから俺はちょっと『充電』に臆病になっちゃったけど、清矢くんは容赦なく密着してきた。好きなやつと抱き合うと全身がリラックスできて、俺もそのうち夢中になっちまう。性的なことを迫ると、清矢くんは唇を指して意味深に微笑んだ。俺はあわてて首を左右にぶんぶん振る。

「ダメだっ、それはダメ……!」
「えーっ? 『充電』ついでに飲ませてよぉ。詠の有り余ったエナジー♥️」

 あのときの脳ミソ痒くなるような快感を思い出しちまって、ぎゅうっと背中から抱きつくと、清矢くんはもぞもぞと下半身の方へずり下がってった。

「っ、ダメだって言ったろ?! あぅ、くううっ……!」

 ぺろっとシャツをめくられて、ヘソのそばにキスされる。俺は結局どこまで抵抗しても、この高貴な血筋の相棒サマに、美味しく頂かれちまう運命みたいだった。

(了)

※この短編は独立した軸としてお楽しみください