First aid Panic!
1 アルカディア国、クラブ『カメレオンのための音楽』にて。ゆるくダンスミュージックがかかる暗がりの中、恋人兼親友兼相棒の清矢くんがカクテル片手に質問してきた。 「そーいや、詠(よみ)のフェチって何? 俺はね...
1 アルカディア国、クラブ『カメレオンのための音楽』にて。ゆるくダンスミュージックがかかる暗がりの中、恋人兼親友兼相棒の清矢くんがカクテル片手に質問してきた。 「そーいや、詠(よみ)のフェチって何? 俺はね...
俺は故郷からしたらとんだ裏切りものだった……弟の清矢たちがグランドマスターを味方につけ、堂々と手続きを踏んでアルカディア魔法大学に入学し、持ち出していた妖刀、新月刀を奪い返されてしまってから、俺は輝き...
その時の俺の内心は「何故」「可愛いんだが」「詠×メガネで好き×好きの無限大」「詠視力悪くなったのか?」「メガネっこサイコー!」と風雲急を告げていた。黒ぶちの角ばったオサレメガネを装備した詠は俺の方を振...
大晦日、クリスマス休暇で多くの学生が寮を出ている時期だ。夜空の弟の清矢と友達の充希は居残り組を集めて風属性塔でオールナイトパーティーを開くことになっていた。夜空も誘われており、夕暮れのどこかほぐれた空...
三月初旬、そろそろ試験だって言うんで授業も追い込みが始まったころ。トモダチの充希が俺にこっそり耳打ちしてきた。 「レダ・アチュアンの実家に行く約束したんだけど、疑われないよーに清矢くんと一緒に来てくんな...
四月になり、アルカディア魔法大も春休みに入った。雪深いヨーロッパのこの地では、春はじめのこの時期が長期休暇にあてられる。ともあれ、直前までテストだの進級だので慌ただしかったから、気候のいい時期にたっぷ...
多数のベルトコンベアが置き去りになった広場を抜け、地下があることに気づいてピットまで降りてしまったのが運の尽きだった。中にいる魔物と懐中電灯の光の中で間一髪で渡り合い、退魔コンパスで安全を確認したまで...
祈月氏の家宝を持ち逃げした夜空っていうやつのために、俺たち櫻庭詠(さくらば・よみ)と祈月清矢(きげつ・せいや)、そして望月充希(もちづき・みつき)はアルカディア魔法大に留学することになった。 地獄の受験...
清矢くんが草笛家のピアノ部屋で楽譜みて唸ってる。 「えっ、ここも転回和音なのか? ったく、調性どれだよ~! 全然わかんねぇ」 しばらく鉛筆片手に楽譜とにらめっこしつつ、ところどころに英字記号を書き入れる。そし...
俺は夏が好き。冷え性で冬は末端が冷えるから。風属性塔のサロンでそう言ったらルームメイトの充希は反論した。 「えー、清矢くんに似合う季節って冬じゃない。夏男は俺でしょ? 海辺のアバンチュール、階段でかじるオ...
同室の黒須イアソン先輩が風邪で熱なんか出したので、俺が寮の仕事を代わってあげることになって。五時に起きてカセラドルに集合したらそこにいたのはサボリに厳しいウィリアム・エヴァ・マリーベル。何でイアソンが...
アルカディア魔法大学はクリスマス休暇だ。俺たち極東からの入学生は、たった一か月半の休み程度で日ノ本に帰るわけにはいかないから、居残り組に入っている。だけど世話になってる黒須先生とその息子さんのイアソン...
クリスマス休暇が始まった。全寮制かつグローバル規模のアルカディア魔法大学では、一ヶ月程度の休みでは里帰りには充分でなく、とくにアジア圏の学生たちにとっては、聖属性塔カセラドルで行われるミサに参加し、故...
金曜は同室の黒須イアソンが全コマ授業の日で、俺は餌付けかよって思いながらもガムとかロリポップとかジュースとか、ともかくしゅわしゅわ甘いものを用意して、あとは念のため、一応念のためにハンドクリームの残量...
衝撃シーン。そう思ってしまったのは何でだろうか。家宝のほとんどを持ち逃げし、返さないと頑強に言い張っていた兄、祈月夜空が、「カナリアのような」と呼ぶ少年と愛を交わし合ってるのを見てしまった。 それは一瞬...
俺の清矢(せいや)くんは軍で働くために鍛錬もするけど、いつもデオドラントにまで気を使ってる。日本での神兵隊訓練の後はよく拭きとってハッカ油のスプレーをしてたし、自分でくんくん匂いを確かめてる。使い過ぎ...
兄・夜空から無事御家の重宝を取り戻し、アルカディア魔法大学に入学した祈月清矢(きげつ・せいや)は、土曜一時限目の授業、「アルカディア島講義」に出席していた。新入生必修授業である。魔法の専門教育ではなく...
アルカディア魔法大学は新入生の入寮をひとしきり終え、後は入学式を待つばかりとなっていた。魔力選抜十二番通過の櫻庭詠(さくらば・よみ)は聖属性塔を出て、ちょうど学園都市中心部に位置するローク神殿付属・風...
時は七月、時刻は四刻半。アルカディア魔法大学闇属性塔ではクラウス第一王子殿下の発令により特別賓客室にて会合が行われていた。列席者はロンシャン亡命者である草笛・K・夜空、そして彼の留学時からの道連れであ...
相対した恋人が、無骨なロッドを振りかざして叫ぶ。 「Magica!」 彼の右手のひらに埋め込まれた魔方陣が光り、単純な魔力の圧がウィリアム・エヴァ・マリーベルに襲いかかる。ウィリアムはにやりと笑い、天使の...
クリスマス休暇が近いある日、ウィリアム・エヴァ・マリーベルは喉の痛みに悩まされていた。クリスマスは聖属性塔では当然、重大なイベントで、ウィリアムもミサに劇にと引っ張りだこであった。硬い金髪に翠の目、勇...
故郷、クイーンズアイランドのミルヴァイルから戻ってから、ちょうど一か月が経った。夏は盛り、小麦は実る。 空きコマができて寮の個室に帰ってきたウィリアム・エヴァ・マリーベルは窓際に見慣れない紙細工が下げら...
ウィリアム・エヴァ・マリーベルは困っていた。 なぜなら、隣で恋人の祈月夜空が寝ているからである。 ここは寝台ではなく、アルカディア魔法大学の図書館だ。天井に至るほどの高い本棚が連なり、古代の印刷物や魔術師...