お題「記念写真」 「撮影」
祈月氏の家宝を持ち逃げした夜空っていうやつのために、俺たち櫻庭詠(さくらば・よみ)と祈月清矢(きげつ・せいや)、そして望月充希(もちづき・みつき)はアルカディア魔法大に留学することになった。
地獄の受験勉強もひと段落して、今日はかの国に渡るための旅券を作成するために、証明写真を撮る予定だった。三人そろって写真館に行って、二階のスタジオで一人ずつ撮ってもらう。清矢くんも俺もあつらえてきた新しい戦衣、充希だけはオーダーメイドしたスーツだった。きれいにタックが入ったスーツできめた充希は文字通り『年上』って感じだ。清矢くんは家が特別に仕立てた白地のレザーの戦衣を着てた。立ち襟のコートと、細身の体を覆う黒の皮鎧だ。腰から腿はガーターで外からキュッと締め上げてあって簡単に脱げないようになってる。ポーチもゴテゴテついてるけど、何を入れとくべきかはけっこう議論がある。薬っていっても魔法薬までいれるとけっこう種類があるし、清矢くんは『櫛でも入れとくか?』なんつって冗談めかしてたけど。コート背面は漆黒で染め抜かれた新月紋。胸元についたきらびやかなチェーンやカフスなんか見ると、戦にいくための衣装っていうよりは、はっきりと晴れ着だ。
俺なんか新しいとはいえ、いつもの神兵隊の黒装束だ。体にぴっちりフィットして、まぁダサくは見えないと思うけど上に重い鎧つけることが前提。だからか、体の線が出すぎてるんだよなコレ。俺もスーツにしてもらえばよかったよ。
撮影は充希からで、清矢くんは手鏡で前髪いじったり俺に言わせれば女々しい仕草してたけど、十分くらいで充希が出てきて、次は俺の番ってなったらやっぱり俺も「鏡貸して」って清矢くんに言っちゃった。なんか情けねー。
三人分の撮影が終わって、何枚も組になった証明写真の出来をチェック。充希と清矢くんは互いのマジ顔でゲラゲラ笑ってる。俺は警戒して即荷物の中にしまった。清矢くんが肩組んでのぞき込もうとしてくる。
「詠~! 詠も完成写真見せて♥ ひきつった笑顔しちゃってんじゃねーの?」
「ヤダ。清矢くん写り悪いって笑うもん」
「笑わねーよ。なー、一枚ちょうだい♥ 可愛い清矢サマのお願い聞いて~!」
俺はなんか根負けしてしまって、一枚はさみで切ってあげた。男前に写ってるとはとても思えなかったけど。清矢くんはカードよりも小さい顔写真をしみじみ見て……ちゅっとキスしちまった!
もどかしいような気恥しさが湧いて、俺は写真を取り返そうとする。
「や、やめろよ清矢! キスなら直接すりゃいいじゃん!」
「何度もしてると飽きがくるっていうか~。この詠はいわゆる『公式肖像』だろ? やっぱ俺のものってアピールしたいじゃん♥」
「清矢くんの独占欲ちょっとこわくない? 俺そこまで重いのパース」
「んだと充希お前のもよこせっ」
乱暴にじゃれあい始める充希と清矢くん横目で見ながら、俺はちっちゃく清矢くんの袖掴んで言った。
「清矢くんのも俺にちょうだい」
「ん、好きに可愛がってね。一枚詠に預けるから♥」
もらった写真をそれからどうしたって? ……手帳のカバーに挟んで、俺は時折眺めてる。新しめの戦衣を身に着けた清矢くんの鋭い眼光が決まってる。いかにも俺のあこがれてる祈月ん家の次期当主様って感じのスキのない写真だ。俺は普段の清矢くんも愛してるけど、立派なオフィシャルの姿見ると何だか奮い立つものがある。勉強の合間に見つめては、頑張るよ俺ってテレパシー送ってる。おでこくっつけたり、キスとかまでしちゃったかどうかは……トップシークレットだ。
(了)
※この短編は独立した軸としてお楽しみください