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マイケル・サンデル『これからの正義の話をしよう いまを生き延びるための哲学』ハヤカワ書房 2010年#読書
話題になった「白熱教室」の先生の本。内容は政治哲学。どうも思想に弱く、文学部にいたものの地道な古典研究以外はできなかったという不器用さだったわたしが、リベラリズムについて知りたいと思って手に取った本。有名なものなので概要もいらないかと思うが、一応まとめておく。
取り上げられるのは、ジェレミー・ベンサムの「功利主義」ロバート・ノージックのリバタリアン擁護、イマヌエル・カントの道徳哲学、ジョン・ロールズの正義論、アリストテレスの目的論……この本が優れているのは、ともかく抽象的になりがちなこの手の思想を、有名な「トロッコ問題」(暴走するトロッコの路線を切り替え、五人の作業員を救うためにもう一つの路線にいる一人を犠牲にするのは許されるか?という命題)を皮切りに、アファーマティブ・アクション、富の再分配、徴兵制、代理出産などの現実の議題で論じてくれることだ。
「正義とは何か」「どんな意見が正しいか」は、依拠する思想によって異なってくる。スリリングな例が多く、考えながら読むことができる。とくにカントの道徳論、定言命法は厳しく、それゆえ魅力的だった。
最後は功利主義と自由主義を否定し、公共善をめざした政治の必要性を訴える。明快で、よい本だと思う。
話題になった「白熱教室」の先生の本。内容は政治哲学。どうも思想に弱く、文学部にいたものの地道な古典研究以外はできなかったという不器用さだったわたしが、リベラリズムについて知りたいと思って手に取った本。有名なものなので概要もいらないかと思うが、一応まとめておく。
取り上げられるのは、ジェレミー・ベンサムの「功利主義」ロバート・ノージックのリバタリアン擁護、イマヌエル・カントの道徳哲学、ジョン・ロールズの正義論、アリストテレスの目的論……この本が優れているのは、ともかく抽象的になりがちなこの手の思想を、有名な「トロッコ問題」(暴走するトロッコの路線を切り替え、五人の作業員を救うためにもう一つの路線にいる一人を犠牲にするのは許されるか?という命題)を皮切りに、アファーマティブ・アクション、富の再分配、徴兵制、代理出産などの現実の議題で論じてくれることだ。
「正義とは何か」「どんな意見が正しいか」は、依拠する思想によって異なってくる。スリリングな例が多く、考えながら読むことができる。とくにカントの道徳論、定言命法は厳しく、それゆえ魅力的だった。
最後は功利主義と自由主義を否定し、公共善をめざした政治の必要性を訴える。明快で、よい本だと思う。
公正な社会は、ただ効用を最大化したり選択の自由を保障したりするだけでは、達成できない。公正な社会を達成するためには、善良な生活の意味をわれわれがともに考え、避けられない不一致を受け入れられる公共の文化をつくりださなくてはいけない。(三三五頁)
ブレイク・スナイダー『Save the catの法則 本当に売れる脚本術』フィルムアート社 2010年
シナリオ創作の教科書。ジャンプ編集部も使っているらしい。ハリウッド式三幕構成をさらに詳細にしたシナリオ構成のテンプレート「ブレイク・スナイダー・ビートシート」が有名。映画そのものを一行要約した「ログライン」の重要性、物語パターンの10分類(「家の中のモンスター」「金の羊毛」「魔法のランプ」「難題に直面した平凡な奴」「人生の節目」「バディとの友情」「なぜやったのか?」「バカの勝利」「組織のなかで」「スーパーヒーロー」)など、実践的な脚本術がそろっている。シド・フィールド本よりもライトでわかりやすく、映画の例も豊富にあげられているし、何よりビートシートにシーン案を当てはめていけばストーリー完成するというお手軽さがすごい。「べからず集」はキレがよくて面白いし、マーケティングの体験談もある。
実際、なぜ敬遠していたんだろうと思うくらい内容の充実した本。それでいてめちゃくちゃ読みやすい。
ただ、読んでみると正直K.M.ワイランドの本のほうが小説特化なので良かったかなぁと…。BSでやると、構成のそれぞれのポイントに何をしなければならないか? がわからず、表層的にイベントが続くだけになってしまう感じもある。ページ数も厳密に決まっているので大変!
あくまでシナリオについての本なので、文章表現についてはまったく触れられていない。当然だよね。「語るより見せる」とかのよく言われるヤツは載ってるけど、例もないし…
とはいえストーリー制作をする人にとっては必携書のひとつではある。読んで損はない。
#読書
シナリオ創作の教科書。ジャンプ編集部も使っているらしい。ハリウッド式三幕構成をさらに詳細にしたシナリオ構成のテンプレート「ブレイク・スナイダー・ビートシート」が有名。映画そのものを一行要約した「ログライン」の重要性、物語パターンの10分類(「家の中のモンスター」「金の羊毛」「魔法のランプ」「難題に直面した平凡な奴」「人生の節目」「バディとの友情」「なぜやったのか?」「バカの勝利」「組織のなかで」「スーパーヒーロー」)など、実践的な脚本術がそろっている。シド・フィールド本よりもライトでわかりやすく、映画の例も豊富にあげられているし、何よりビートシートにシーン案を当てはめていけばストーリー完成するというお手軽さがすごい。「べからず集」はキレがよくて面白いし、マーケティングの体験談もある。
実際、なぜ敬遠していたんだろうと思うくらい内容の充実した本。それでいてめちゃくちゃ読みやすい。
ただ、読んでみると正直K.M.ワイランドの本のほうが小説特化なので良かったかなぁと…。BSでやると、構成のそれぞれのポイントに何をしなければならないか? がわからず、表層的にイベントが続くだけになってしまう感じもある。ページ数も厳密に決まっているので大変!
あくまでシナリオについての本なので、文章表現についてはまったく触れられていない。当然だよね。「語るより見せる」とかのよく言われるヤツは載ってるけど、例もないし…
とはいえストーリー制作をする人にとっては必携書のひとつではある。読んで損はない。
#読書
青山美智子『赤と青とエスキース』PHP学芸文庫 2024年9月20日刊
赤いブラウスに青いカワセミのブローチをした少女のエスキース…作者はジャック・ジャクソン。
タイトルはそのまま「エスキース」。傑作がたどった旅路は、人々の挫折と再スタートの背景。
最後にすべての連作がつながるようにできているのだが、どれも自然な人情もので安らぐ。
とくに「赤鬼と青鬼」がいいなぁ。「よく、人生は一度しかないから思いっきり生きよう、って言うじゃない。私はあれ、なかなか怖いことだと思うのよね。一度しかないって考えたら、思いっきりなんてやれないわよ」「もちろん思いっきり生きてるわよ。でも私はね、人生は何度でもあるって、そう思うの。どこからでも、どんなふうにでも、新しく始めることができるって。そっちの考え方のほうが好き」 思えばどれも「終わりと新しい始まり」のジャンクションの話だった。
この人の本は面白かったので他にも読んでみたいと思った。
#読書
赤いブラウスに青いカワセミのブローチをした少女のエスキース…作者はジャック・ジャクソン。
タイトルはそのまま「エスキース」。傑作がたどった旅路は、人々の挫折と再スタートの背景。
・オーストラリア、メルボルンに短期留学した「レイ」は、現地の日本人「ブー」と知り合い、期限付きの恋をはじめる。別れの前夜、ジャック・ジャクソンは「レイ」をモデルに、二人の関係を描き出す。(金魚とカワセミ)
・美大を卒業した空知は、額装職人となるため村崎の経営する「アルブル工房」につとめる。しかし大量生産の現代日本において額のフルオーダー需要は減少し、行き詰まりを感じていた。そんな中、円城寺画廊から「エスキース」の額装依頼が入る。かつて、空知がオーストラリアを旅した際に知り合った画家、ジャック・ジャクソンの作品だった。空知は絵と額縁の完璧なマッチング「完璧な結婚」をなしとげることができるのか。(東京タワーとアーツ・センター)
・四十八歳を迎えた漫画家、タカハシ剣は弟子の砂川凌のウルトラ・マンガ大賞受賞記念に、雑誌「DAP」の対談取材を受ける。天才で世に媚びない砂川の姿勢に嫉妬するタカハシは、ジャック・ジャクソンの絵がかけられた喫茶店で、何度も焼き直した自身のデビュー秘話を語るが…(トマトジュースとバタフライピー)
・都内の輸入雑貨店「リリアル」に五十歳での転職をなしとげた茜。しかし、新しい生き方を選んだかわりに恋人・蒼との仲は終わらせてしまった。しかし、イギリスへの買い付けを前にして、パニック障害にかかってしまう。置き忘れたパスポートを取りに同棲していた部屋に戻ると、彼は白猫と暮らしていた。店主は茜に休養を言い渡し、茜は焦りを抱えながらも蒼の白猫の世話を引き受ける。(赤鬼と青鬼)
最後にすべての連作がつながるようにできているのだが、どれも自然な人情もので安らぐ。
とくに「赤鬼と青鬼」がいいなぁ。「よく、人生は一度しかないから思いっきり生きよう、って言うじゃない。私はあれ、なかなか怖いことだと思うのよね。一度しかないって考えたら、思いっきりなんてやれないわよ」「もちろん思いっきり生きてるわよ。でも私はね、人生は何度でもあるって、そう思うの。どこからでも、どんなふうにでも、新しく始めることができるって。そっちの考え方のほうが好き」 思えばどれも「終わりと新しい始まり」のジャンクションの話だった。
この人の本は面白かったので他にも読んでみたいと思った。
#読書
月曜日は一日会えなかった。たまたま時間割がフル単だったのだ。アルカディア魔法大学も四年生、学部も終わりで、そろそろ卒論が視野に入っていた。俺は「光属性の対闇魔法防御魔方陣」の研究をしてた。弱点属性の克服ってわけで半分、実利。
図書館に行って、夜が更けるまで作業を進めた。先行研究の目録を作り、片っ端から読んでいく。要約を研究ノートにためこんで、重要な論旨やデータを書き写す。一日一冊なんて楽観的にすぎる目算で、外国人の俺たちにとっては、はっきり言って徹夜でやっても時間が足りるかどうかわからない作業。だけど、何としても締め切り三か月前には終わらさないと、論文執筆が後ろ倒しになる。
その日も閉館時間まで居座って、寮へと帰った。比翼コートの前を締め、マフラーにうずもれて行く。
風属性塔の入口には、恋人の詠(よみ)がいた。
「なぁ、清矢くん! ちょっとだけ飲みにいこーぜ」
「門限あるだろ、まぁ、明日は俺午前中空きだけど……飲み屋で徹夜はごめんだぜ」
「ん……でもさあ。今日は会えなかったじゃん。俺、さみしーよ」
ずずっと鼻をすすりあげながら、寒い中待ってた詠のことを考えると、否やは言えなかった。ちょっと歩くだけな、と言って、学内のプロムナードを隣り合って行く。街灯の青白い燐光が、石畳の道路を冷たく照らす。
詠ははっはっと白い息を吐きながら、尾っぽをおおらかに振った。腕を組んできて、嬉しそうに俺を見つめている。つんつんと立った短髪にくっきりした眉毛。すっと切れ長で大きなまぁるい瞳で、口は大きくて豪快。
突っ走ってって用を済ませて、終わったら褒美のために駆け戻ってくる。桜の季節にゃ、花びらくっつけてるなんて日常茶飯事だし、汗くさかったりホコリっぽかったり、剣技の修練で飛び跳ねてる姿は尾っぽの先まで活力に満ちてる。内面も見てのとおり、熱血で純真なんだ。
「詠って、ワンコだよなー」
俺のしみじみした一言に、詠がぴくっとけもみみを揺らす。
「な、なんだよ清矢くん。清矢くんだって狼亜種じゃねぇか」
「それに人懐っこいし」
「清矢守るためにはそれじゃいけねぇと思って、気を付けてるよ」
「じゃあさぁ。尻尾振るの我慢できる? 軍に入ったら俺と話すときに尻尾振ってたらすげえカッコわりーぜ」
「えええ、振っちゃダメぇ? 俺無理だよ。清矢、いじわる言うなよ」
詠はそう言ってけもみみを寝せ、眉根を下げたおねだり顔できゅーんと肩を縮こませた。
いやぁ、素直であざとカワイイ。
俺はちょい悪戯心を出して、コートの内ポケットにしまってある木製のハーモニカを取り出した。
「げっ、何する気だよ、清矢くん……!」
魔具であるそれを見て、詠がちょっとのけぞる。
「実は、ワンコな詠に会いたくってさ。ちょっとだけ、狼になっちゃってみない……?」
俺はそう言って有無を言わせず風塔に引き返した。詠はポケットに手ぇいれながらうつむいてついてくる。なんかちょっと恥ずかしそうでカワイイ。
塔の地階、事務室に入って、卒論のデータ取りのために部屋を借りてもいいかって尋ねる。詠が闇属性の魔法を使って、俺が反属性の光で防ぐ実験をやりたいって。そしたら就寝時間三十分前までの許可がでた。実習室の鍵をもらっていそいそと行く。魔術対策のコードが壁じゅうに刻まれた石造りの部屋を開ける。古い監獄のように壁から切り出された長椅子に座って、ハーモニカを吹く。家につたわるとっておきの秘曲、狼族変化コードだ。
「っ、グルルッ……!」
服を脱いだ詠がそう喉で唸る。髪が消え、ぶわさっと白い毛皮が生えてきて、マズルが伸び、歯が尖る。けもみみ、けもしっぽだけの姿から、完全な獣人になって、そしてだんだん小さくなり、ホッキョクオオカミの体躯になる。その後はすかさず、馴化の曲。詠は尾をぶんぶんと水平に振りながら、座る俺の膝まで四つ足で歩いてくる。
そして、頭をすりすり。両手を膝にのっけて立ち上がっちゃって、ぴょんぴょん跳ね上がりながらぺろぺろと頬を舐めてくる。
「ん、カワイーぞ、詠……♥ 俺の恋人だもんな、俺も詠大好きっ」
顎をわしわしと掻いてやる。なめらかな毛並みの背中を撫でてやる。詠は興奮してきて、俺の膝に乗り上げ、顔を正面から舐めてきちまう。犬くさくて、もう笑える。
「んっ、ん、詠、ダメだろそんな舐めちまったら、ハウスだってばっ、ハウス! あははは、もー、普段欲求不満なのか? こんなに乗っかってきちまって」
緊張感の高い日々の中のちょっとしたお楽しみ。締まった胴をぎゅっと抱くと、嬉しそうな詠は肉球でずいずいと俺の胸板を押してきた。くぅん、くぅんって鼻声で何かを訴えてる。ちょっと腿に何か当たるなって思って、目線を下げたら後ろ脚の間に、ちょっとぎょっとする光景があった。
俺はいそいでハーモニカで元に戻るコードを吹いた。人間姿の、カッコいい気さくな兄ちゃんに戻った詠が、濡れた目で俺を見下ろす。素っ裸で膝に乗り上げたまんま、切ない顔でキスしてくる。
「清矢くんっ、馴化曲、いらねぇよ。俺、好きすぎて頭も身体もどうにかなりそうだ……!」
こうなっちまうと詠は強引だ。寒い部屋の中で、俺のグレーのセーターに手のひらを入れ始める。
飼い主の責任は、甘受する。俺は白旗を上げて顎をのけぞらせ、自分の愛しい番犬に、肌をゆっくりと預け始めた。(了)
#詠×清矢 #[創作BL版深夜の60分一本勝負] #ComingOutofMagicianYozora