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お題「年上」「無防備」
目下祈月家に居候している年上の軍閥参謀、伊藤敬文が年末にはいなくなるというので、清矢は多少ながら憂鬱だった。もちろん、父親も帰省してくる。上司の家庭に入りびたりといった状況は居心地が悪かろう。寒くなってきた十一月の田舎町を、ふたりで買い出しに歩いた。母たちに言いつけられた買い物リストは全て補充できたはずだ。
「敬文。クリスマスはまだいるの?」
「えっ……と。そうだね、恋人になって初めてのクリスマスだから、清矢くんと一緒にいたいかな」
そう言って小さくはにかむ姿は年上ながら可愛い。それからあれこれ話をした。プレゼントは欲しいだとか、そのリクエストだとか。敬文はちょっといいマフラーをくれると言った。「清矢くんはハンカチとかでもいいよ」。そう言って薄曇りのグレーの夕焼けを見あげる姿に、なんだか切なくなる。
十歳差っていう不便さはいつだって感じている。清矢からすれば、もっと特別なアクセサリが贈りたい。イヤーカフとか、ブレスとか。あとはクラッシック曲のレコードとか、豪華な装丁の海外小説とか。だけど高校生が自由にできる金額は悲しいかな少ない。イチャコラ甘えてても微笑ましいで済んでるのはいいが、その先こそに興味があるのに、男は性的なふれあいには首を縦に振らない。
「同い年がよかったなぁ」
しみじみとつぶやくと、敬文はぱちくりと目をまたたかせた。
「あの、それって俺も高校生だったらって意味?」
そのパターンを想像していたわけではなかったので清矢は面食らった。だけど、何だか恥ずかしくて……大人になった自分についても想像なんかできなくて、思わずうなずいてしまう。敬文は少し目を伏せて、自嘲ぎみに否定した。
「それなら多分、君は俺の恋人になってくれなかったよ」
「そっかな……? 気になったと思うし、好きになったかもしれないじゃん」
「あの頃の俺は今に輪をかけてバカだった。剣しか取り柄もなかったし。俺なんて、君を教室の後ろから眺めて終わりだよ。詠に嫉妬したりさ」
「嘘だよ。そんなことない。敬文と遊んだりしたかったよ」
本音だったが、男は押し黙ったままだ。穏やかな顔つきに影がさしている。夕焼けが急ぎ足で去っていって暗くなってきて、道も田舎じみてきたところで、小首をかしげて尋ねてきた。
「ほんとうに? たとえば俺が告白したら、OKしてくれた?」
その姿は心細そうで、普段の穏やかながら頼もしい感じとは違っていた。IFにしても相当に無防備でナイーブな問い。清矢はもぞもぞしながらうなずいた。
「うん。だってやっぱり男同士の恋愛には興味あったろうし。今みたいに優しい敬文なのは変わらないと思うから……」
「ちゃんと優しくできたかな。例えば……なんか歯止めとか効かない気がする。あっという間に君に手を出しちゃったりとか」
「えー? ってことはやっぱり敬文は俺とそういうことがしたかったりして?」
「からかうなよ。ほんとに、高校生同士だったら……」
伊藤敬文は溜息をついて、清矢の肩を抱き寄せた。
「守れたかどうかだって怪しい。俺はその言い訳で、詠から君を奪ったのに」
このひとはわるいひとだ、と清矢は再三思い知る。清矢たちをめぐる政治情勢は微妙だった。父が敵対する鷲津総将はスキャンダルがでて解任寸前だ。海外に高飛びして家宝を持ち逃げしている兄は行方不明で、近所には魔族の女を信仰する眷属たちの集落がある。そんな中、高校生じゃ君を守れないんだ、と言って幼馴染カップルを引きはがしたのがこの伊藤敬文だった。彼にとっては清矢を守るのは、贖罪である。魔法を使った戦のために、清矢をはじめとした若者を従軍させた。清矢はすべての駆け引きにYESと答え、ブレーンを文字通り抱きこんだ。敵方からすれば、ほんとにわるいふたり。
「ん……敬文、あったかい」
議論には付き合わず、清矢は甘えて頬ずりした。通り過ぎる家からは夕飯の準備の匂いがしてくる。クリスマスプレゼントはハンカチじゃないほうがいい。そう思った。手を拭う布よりは、たぶん、あたためるグローブのほうが。何も綺麗にならなくてもいい。俺だけが汚いわけじゃないってわかっていたいから。二人は恋人関係だと知っているのはお互いだけだったが、それでもほどけないはっきりした結びつきを腹の中で了解していた。
愛や思いやりよりも数倍強い依存めいた飢えをかみしめながら、帰路についた。夕空には星が輝き、しらじらとした美しさは打算的な恋に一時の慰めをくれた。(了)#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #敬文×清矢
目下祈月家に居候している年上の軍閥参謀、伊藤敬文が年末にはいなくなるというので、清矢は多少ながら憂鬱だった。もちろん、父親も帰省してくる。上司の家庭に入りびたりといった状況は居心地が悪かろう。寒くなってきた十一月の田舎町を、ふたりで買い出しに歩いた。母たちに言いつけられた買い物リストは全て補充できたはずだ。
「敬文。クリスマスはまだいるの?」
「えっ……と。そうだね、恋人になって初めてのクリスマスだから、清矢くんと一緒にいたいかな」
そう言って小さくはにかむ姿は年上ながら可愛い。それからあれこれ話をした。プレゼントは欲しいだとか、そのリクエストだとか。敬文はちょっといいマフラーをくれると言った。「清矢くんはハンカチとかでもいいよ」。そう言って薄曇りのグレーの夕焼けを見あげる姿に、なんだか切なくなる。
十歳差っていう不便さはいつだって感じている。清矢からすれば、もっと特別なアクセサリが贈りたい。イヤーカフとか、ブレスとか。あとはクラッシック曲のレコードとか、豪華な装丁の海外小説とか。だけど高校生が自由にできる金額は悲しいかな少ない。イチャコラ甘えてても微笑ましいで済んでるのはいいが、その先こそに興味があるのに、男は性的なふれあいには首を縦に振らない。
「同い年がよかったなぁ」
しみじみとつぶやくと、敬文はぱちくりと目をまたたかせた。
「あの、それって俺も高校生だったらって意味?」
そのパターンを想像していたわけではなかったので清矢は面食らった。だけど、何だか恥ずかしくて……大人になった自分についても想像なんかできなくて、思わずうなずいてしまう。敬文は少し目を伏せて、自嘲ぎみに否定した。
「それなら多分、君は俺の恋人になってくれなかったよ」
「そっかな……? 気になったと思うし、好きになったかもしれないじゃん」
「あの頃の俺は今に輪をかけてバカだった。剣しか取り柄もなかったし。俺なんて、君を教室の後ろから眺めて終わりだよ。詠に嫉妬したりさ」
「嘘だよ。そんなことない。敬文と遊んだりしたかったよ」
本音だったが、男は押し黙ったままだ。穏やかな顔つきに影がさしている。夕焼けが急ぎ足で去っていって暗くなってきて、道も田舎じみてきたところで、小首をかしげて尋ねてきた。
「ほんとうに? たとえば俺が告白したら、OKしてくれた?」
その姿は心細そうで、普段の穏やかながら頼もしい感じとは違っていた。IFにしても相当に無防備でナイーブな問い。清矢はもぞもぞしながらうなずいた。
「うん。だってやっぱり男同士の恋愛には興味あったろうし。今みたいに優しい敬文なのは変わらないと思うから……」
「ちゃんと優しくできたかな。例えば……なんか歯止めとか効かない気がする。あっという間に君に手を出しちゃったりとか」
「えー? ってことはやっぱり敬文は俺とそういうことがしたかったりして?」
「からかうなよ。ほんとに、高校生同士だったら……」
伊藤敬文は溜息をついて、清矢の肩を抱き寄せた。
「守れたかどうかだって怪しい。俺はその言い訳で、詠から君を奪ったのに」
このひとはわるいひとだ、と清矢は再三思い知る。清矢たちをめぐる政治情勢は微妙だった。父が敵対する鷲津総将はスキャンダルがでて解任寸前だ。海外に高飛びして家宝を持ち逃げしている兄は行方不明で、近所には魔族の女を信仰する眷属たちの集落がある。そんな中、高校生じゃ君を守れないんだ、と言って幼馴染カップルを引きはがしたのがこの伊藤敬文だった。彼にとっては清矢を守るのは、贖罪である。魔法を使った戦のために、清矢をはじめとした若者を従軍させた。清矢はすべての駆け引きにYESと答え、ブレーンを文字通り抱きこんだ。敵方からすれば、ほんとにわるいふたり。
「ん……敬文、あったかい」
議論には付き合わず、清矢は甘えて頬ずりした。通り過ぎる家からは夕飯の準備の匂いがしてくる。クリスマスプレゼントはハンカチじゃないほうがいい。そう思った。手を拭う布よりは、たぶん、あたためるグローブのほうが。何も綺麗にならなくてもいい。俺だけが汚いわけじゃないってわかっていたいから。二人は恋人関係だと知っているのはお互いだけだったが、それでもほどけないはっきりした結びつきを腹の中で了解していた。
愛や思いやりよりも数倍強い依存めいた飢えをかみしめながら、帰路についた。夕空には星が輝き、しらじらとした美しさは打算的な恋に一時の慰めをくれた。(了)#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #敬文×清矢
お題「ハロウィン」「悪戯」伊藤敬文26歳×祈月清矢16歳
十月末日。文化祭が終わった後に祈月清矢はイライラしながら帰途についた。実家にたどりついて、おばあちゃんや母親がお茶菓子を薦めてくるにもかかわらず、即座に自分の部屋に引っ込んだ。ひょこり、と男が顔を出す。居候している軍閥の参謀、伊藤敬文だった。
穏やかで人畜無害そうな、だけど精悍で整った。そんな十歳年上の男である。
「どうした、清矢くん。今日はハロウィンだろ、チョコの詰め合わせ買ってきたってよ」
「敬文。あのさ、俺……恥ずかしい」
「学校で何かあったのか。俺になら話せる?」
敬文はともかく清矢を甘やかした。ベッドに寝転んでしまった清矢のそばに座り込んで、頭を撫でてくれる。清矢は目を細めて愚痴を言った。
「今日、文化祭って言ったっしょ。俺ね……女装させられた。お菓子くれなきゃ何とやらをやれって。詠も広大もバカ受け」
「えーっと……」
敬文は目線をうろつかせて困る。そしてそっと耳うちする。
「可愛い、と思うけど、恥ずかしかったんだね。だって清矢くんは男の子だしな」
「俺、女装しろって言われるのマジやだ。だからって吸血鬼とかミイラとかもさ……そんで、結局メイドの真似事」
「可愛そうに、って言っておけばいいんだろうけど……ちょっと見たかったな」
清矢はがばっと起き上がって敬文を釣り目で睨みつけた。女顔で外見を褒められるのはいいのだが、いざ女装しろと言われると怒るのがこの少年のプライドだった。
「じゃあ敬文も女装してよ。フリフリのドレス着ればいい。俺はね、そういうのヤなの」
「俺がフリフリのドレスは視覚の暴力だと思うけど、清矢くんのは可愛いかもしれないじゃないか」
「違うもん。だって女の子ほどかわいくねーじゃん、ごついし」
そう言って顔を覆う少年の隣に座り込んで、敬文は鋭い肩を抱きこんだ。
「でも今しか似合わないよ?」
「に、似合ってねぇよ! 敬文。俺怒るよ。結局女の子の代わりが欲しいの?」
クリティカルな質問を投げかける。伊藤敬文はたっぷり困ったみたいだった。
「ええと、要はスカートがイヤなんだろ。だけど、ハロウィーンは仮装なわけだし、魔物の恰好するよりはメイドの方がましじゃないか」
「スカート。履いてほしいの」
そう聞くと、敬文は恥ずかしそうにうなずいた。
「あっそ、じゃあ着てあげる」
清矢はそう言って堂々その場でお着換えしはじめた。男子高校生の制服を勢いよく脱ぎ捨て、サブバッグの中に乱暴にしまいこまれたメイド服を身に着ける。タイツまでしっかり履いて、ヘッドドレスをつけてカテーシーの仕草をした。もはや、ギャグである。伊藤敬文は目線をよそにずらして後ろ頭をかいた。
「えっと……お菓子あげないと悪戯なのかな」
「タカフミさん。トリックオアトリート♡」
自棄になってにこっと微笑む姿は、上背のある美少女にしか見えない。有識読みの呼び捨てでなく名前をさん付けされて敬文は笑みを隠しきれなかった。
「お菓子は下の階だからそっちに行かない?」
「はぁ? この恰好で? ありえねぇ! ないなら悪戯だぜ」
「だ、だいたいどんな悪戯するの? 俺だって悪いから、男子高校生の妄想みたいな内容しか浮かばないけど……」
「えー?」
清矢はにやついて小首をかしげる。
「その男子高校生の妄想みたいな内容ってのは何? 教えてくれたら、悪戯しねぇ」
「あーっダメダメ! 大人をからかわない! だいたいスカートなんてダメだよな、やっぱり。だってめくったらすぐ脚に触れちゃうし……」
「下着も見えちゃうしな。なんで女子はこれで平気かね?」
スカートの前裾を持ってぺろりと持ち上げると、年上男の顔は剣呑になった。
「バカだなっ……! パンツは男物じゃないか」
「えーっ、じゃあ女物がよかったの? 敬文のスケベ」
「もうやめる! 下に行くよ、お菓子あるんだから!」
そう言ってせかせか階下に降りて大声で名前を呼んでくる。おかげで清矢は、女装姿をばあちゃんにもかーちゃんにも披露するハメになった。いつもお世話になってるんだから、敬文さんにお茶入れてあげなさいよ、ついでに母さんにもおばあちゃんにも、と給仕を言いつけられたのも、ご愛敬である。(了)#敬文×清矢 #[創作BL版深夜の60分一本勝負]
十月末日。文化祭が終わった後に祈月清矢はイライラしながら帰途についた。実家にたどりついて、おばあちゃんや母親がお茶菓子を薦めてくるにもかかわらず、即座に自分の部屋に引っ込んだ。ひょこり、と男が顔を出す。居候している軍閥の参謀、伊藤敬文だった。
穏やかで人畜無害そうな、だけど精悍で整った。そんな十歳年上の男である。
「どうした、清矢くん。今日はハロウィンだろ、チョコの詰め合わせ買ってきたってよ」
「敬文。あのさ、俺……恥ずかしい」
「学校で何かあったのか。俺になら話せる?」
敬文はともかく清矢を甘やかした。ベッドに寝転んでしまった清矢のそばに座り込んで、頭を撫でてくれる。清矢は目を細めて愚痴を言った。
「今日、文化祭って言ったっしょ。俺ね……女装させられた。お菓子くれなきゃ何とやらをやれって。詠も広大もバカ受け」
「えーっと……」
敬文は目線をうろつかせて困る。そしてそっと耳うちする。
「可愛い、と思うけど、恥ずかしかったんだね。だって清矢くんは男の子だしな」
「俺、女装しろって言われるのマジやだ。だからって吸血鬼とかミイラとかもさ……そんで、結局メイドの真似事」
「可愛そうに、って言っておけばいいんだろうけど……ちょっと見たかったな」
清矢はがばっと起き上がって敬文を釣り目で睨みつけた。女顔で外見を褒められるのはいいのだが、いざ女装しろと言われると怒るのがこの少年のプライドだった。
「じゃあ敬文も女装してよ。フリフリのドレス着ればいい。俺はね、そういうのヤなの」
「俺がフリフリのドレスは視覚の暴力だと思うけど、清矢くんのは可愛いかもしれないじゃないか」
「違うもん。だって女の子ほどかわいくねーじゃん、ごついし」
そう言って顔を覆う少年の隣に座り込んで、敬文は鋭い肩を抱きこんだ。
「でも今しか似合わないよ?」
「に、似合ってねぇよ! 敬文。俺怒るよ。結局女の子の代わりが欲しいの?」
クリティカルな質問を投げかける。伊藤敬文はたっぷり困ったみたいだった。
「ええと、要はスカートがイヤなんだろ。だけど、ハロウィーンは仮装なわけだし、魔物の恰好するよりはメイドの方がましじゃないか」
「スカート。履いてほしいの」
そう聞くと、敬文は恥ずかしそうにうなずいた。
「あっそ、じゃあ着てあげる」
清矢はそう言って堂々その場でお着換えしはじめた。男子高校生の制服を勢いよく脱ぎ捨て、サブバッグの中に乱暴にしまいこまれたメイド服を身に着ける。タイツまでしっかり履いて、ヘッドドレスをつけてカテーシーの仕草をした。もはや、ギャグである。伊藤敬文は目線をよそにずらして後ろ頭をかいた。
「えっと……お菓子あげないと悪戯なのかな」
「タカフミさん。トリックオアトリート♡」
自棄になってにこっと微笑む姿は、上背のある美少女にしか見えない。有識読みの呼び捨てでなく名前をさん付けされて敬文は笑みを隠しきれなかった。
「お菓子は下の階だからそっちに行かない?」
「はぁ? この恰好で? ありえねぇ! ないなら悪戯だぜ」
「だ、だいたいどんな悪戯するの? 俺だって悪いから、男子高校生の妄想みたいな内容しか浮かばないけど……」
「えー?」
清矢はにやついて小首をかしげる。
「その男子高校生の妄想みたいな内容ってのは何? 教えてくれたら、悪戯しねぇ」
「あーっダメダメ! 大人をからかわない! だいたいスカートなんてダメだよな、やっぱり。だってめくったらすぐ脚に触れちゃうし……」
「下着も見えちゃうしな。なんで女子はこれで平気かね?」
スカートの前裾を持ってぺろりと持ち上げると、年上男の顔は剣呑になった。
「バカだなっ……! パンツは男物じゃないか」
「えーっ、じゃあ女物がよかったの? 敬文のスケベ」
「もうやめる! 下に行くよ、お菓子あるんだから!」
そう言ってせかせか階下に降りて大声で名前を呼んでくる。おかげで清矢は、女装姿をばあちゃんにもかーちゃんにも披露するハメになった。いつもお世話になってるんだから、敬文さんにお茶入れてあげなさいよ、ついでに母さんにもおばあちゃんにも、と給仕を言いつけられたのも、ご愛敬である。(了)#敬文×清矢 #[創作BL版深夜の60分一本勝負]
永久なる春の追悼曲(第六話)蒼天宮への逃避行

なんとまぁ、攻めが変わってしまいました。OK? ダメ?
祈月軍閥の参謀こと伊藤敬文さんが年齢差溺愛カップルと化した。
詠ちゃんが可哀そうですが…しょうがない。
何かありましたら、感想ください。
#ComingOutofMagicianYozora #詠×清矢 #敬文×清矢
その男は清矢より7センチ背が高く、渦中の少年が求めるものすべてを備えていた。――月華神殿事件の後、清矢を待っていたのは祈月軍閥参謀・伊藤敬文だった。鷲津の脅威から逃れるため、二人は九十九里へ向かう。逃避行の中、敬文は清矢に告げる――「相棒を、詠じゃなく俺にしない? 俺たちはワンペアのジョーカーだ」。帰郷後、陶春の高校では『海百合党』出身の手塚佳代への差別が激化。清矢と詠は彼女を救おうとするが、佳代が明かしたのは歴史の真相だった。「祈月耀を殺したのは、あたしたちなんだから」。詠との別れ、敬文との禁断の恋、そして『海百合党』をめぐる陰謀――清矢は究極の選択を迫られる。

なんとまぁ、攻めが変わってしまいました。OK? ダメ?
祈月軍閥の参謀こと伊藤敬文さんが年齢差溺愛カップルと化した。
詠ちゃんが可哀そうですが…しょうがない。
何かありましたら、感想ください。
#ComingOutofMagicianYozora #詠×清矢 #敬文×清矢
本サイトをいろいろと更新しました。
中でも大きいのは終わりの後の夜物語全改稿のお知らせ かな。
すでにこの「てがろぐ」でもSSを載せていますが、次の「第六話」から三話で初登場した伊藤敬文さん(26)×祈月清矢くん(16)の年齢差カプがメインになってしまいます。どうするかはかなり迷っていましたが、一か月以上たっちゃったし、萌えが収まる気配もないので決断することにしました。大まかなストーリーラインは変わりませんです。
中でも大きいのは終わりの後の夜物語全改稿のお知らせ かな。
すでにこの「てがろぐ」でもSSを載せていますが、次の「第六話」から三話で初登場した伊藤敬文さん(26)×祈月清矢くん(16)の年齢差カプがメインになってしまいます。どうするかはかなり迷っていましたが、一か月以上たっちゃったし、萌えが収まる気配もないので決断することにしました。大まかなストーリーラインは変わりませんです。
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #敬文×清矢
お題「映画鑑賞」「暗闇」
敬文と活動映画見に来てる。たまの息抜きにどう? って誘ってきたから、俺も嬉しくなってついてった。ポップコーンやメロンソーダ買って、始まる前からワクワクしてる。
「俺、映画なんて大学生で初めて行ったよ」
「えぇー? 俺はたまにばあちゃんとか、母さんとか……あと友達とかとも! ま、こっちだって映画館県内に少ししかないけど」
「帝都までは行こうと思えば行けるんだけど、それよりは剣やる方が楽しくって。今も見るのは戦争とかアクションばっかり。だから女の子にはウケ悪くってさ」
そうやっておしゃべりしながらチケット買って入ってくのはSF映画だった。巨大隕石が落ちてきて世界が滅亡する前に……!? っていう世紀末モノ。上映前の注意があって、照明が落ちて、ザワザワしてた館内も静かになる。
俺はスクリーンの明りに照らされた年上の人の横顔を見る。
女の子とかともこうやってデートしたりしたのかな。
そん時、その子はやっぱり暗闇の中敬文のこと盗み見てたのかな。
それとも、逆?
話なんかそっちのけで敬文を見つめてると、ふいに目が合った。
「……清矢くん」
敬文は小さく名前呼んで、座席の手すりの下に手をくぐらせて、素知らぬ風で膝上の俺の手にかぶせた。俺は思わずドキッとして、スクリーンに集中しようとする。大音量でパニックになった人たちの声が流れてる。カットは次々切り替わって、街角、家庭、マスコミに政府。そして特命機関の主人公たちの話に戻る。
手のひらから優しい体温が伝わってくる。
いっそぎゅって握ってくれたらいいのに。
俺たちは傍から見たらただの少年と大人の二人組なのに、肩なんて抱いてきちゃったらどうしよ。
筋には集中できなかった。クライマックスは主役が政府の人間を倒しながら戦術核発射ボタンを押して隕石を粉砕した。その後は長身モデル演じるヒロインとのラブシーンだ。俺はとくに感動はしなかった。すすり泣いてる人もいる。
終わった後、少し人波が引けるまで待って、俺たちは座席を立った。食べ残しを捨てて、施設を出ると敬文が手を握ってくる。
「この後どこ行く? まっすぐ帰るなんて俺はいやだな」
「……あのね敬文。俺、やっぱ抱きしめてほしい。喫茶店とか行っちゃう前に」
「わかった。ちょっとこっちにおいで」
敬文はちょっと陰のあるストイックな顔したまま、非常口に繋がるちょい奥まった廊下に俺を誘い込んで、リクエスト通りにした。
背中を愛おしげに撫でてく手のひら。こめかみに押し付けられる唇。年齢も思い出も何にも共通点がないから、触れ合いだけに貪欲になる。暗闇の中に置き去りにされた迷子みたいに、俺は年上の男に力一杯すがり付いた。(了)
お題「映画鑑賞」「暗闇」
敬文と活動映画見に来てる。たまの息抜きにどう? って誘ってきたから、俺も嬉しくなってついてった。ポップコーンやメロンソーダ買って、始まる前からワクワクしてる。
「俺、映画なんて大学生で初めて行ったよ」
「えぇー? 俺はたまにばあちゃんとか、母さんとか……あと友達とかとも! ま、こっちだって映画館県内に少ししかないけど」
「帝都までは行こうと思えば行けるんだけど、それよりは剣やる方が楽しくって。今も見るのは戦争とかアクションばっかり。だから女の子にはウケ悪くってさ」
そうやっておしゃべりしながらチケット買って入ってくのはSF映画だった。巨大隕石が落ちてきて世界が滅亡する前に……!? っていう世紀末モノ。上映前の注意があって、照明が落ちて、ザワザワしてた館内も静かになる。
俺はスクリーンの明りに照らされた年上の人の横顔を見る。
女の子とかともこうやってデートしたりしたのかな。
そん時、その子はやっぱり暗闇の中敬文のこと盗み見てたのかな。
それとも、逆?
話なんかそっちのけで敬文を見つめてると、ふいに目が合った。
「……清矢くん」
敬文は小さく名前呼んで、座席の手すりの下に手をくぐらせて、素知らぬ風で膝上の俺の手にかぶせた。俺は思わずドキッとして、スクリーンに集中しようとする。大音量でパニックになった人たちの声が流れてる。カットは次々切り替わって、街角、家庭、マスコミに政府。そして特命機関の主人公たちの話に戻る。
手のひらから優しい体温が伝わってくる。
いっそぎゅって握ってくれたらいいのに。
俺たちは傍から見たらただの少年と大人の二人組なのに、肩なんて抱いてきちゃったらどうしよ。
筋には集中できなかった。クライマックスは主役が政府の人間を倒しながら戦術核発射ボタンを押して隕石を粉砕した。その後は長身モデル演じるヒロインとのラブシーンだ。俺はとくに感動はしなかった。すすり泣いてる人もいる。
終わった後、少し人波が引けるまで待って、俺たちは座席を立った。食べ残しを捨てて、施設を出ると敬文が手を握ってくる。
「この後どこ行く? まっすぐ帰るなんて俺はいやだな」
「……あのね敬文。俺、やっぱ抱きしめてほしい。喫茶店とか行っちゃう前に」
「わかった。ちょっとこっちにおいで」
敬文はちょっと陰のあるストイックな顔したまま、非常口に繋がるちょい奥まった廊下に俺を誘い込んで、リクエスト通りにした。
背中を愛おしげに撫でてく手のひら。こめかみに押し付けられる唇。年齢も思い出も何にも共通点がないから、触れ合いだけに貪欲になる。暗闇の中に置き去りにされた迷子みたいに、俺は年上の男に力一杯すがり付いた。(了)
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #敬文×清矢
お題:「夏の終わり」「言えなかったこと」
伊藤敬文は祈月家二階の客間、自室として借り受けているそこで、主君の息子を抱擁していた。二十八歳と十八歳、十歳差。まだ高校生で、遠き魔術師の理想郷、アルカディア魔法大受験のための準備が忙しい。伊藤敬文も去年三月に国軍に士官として復帰し、夏の間だけそこに来ていた。
古い型の冷えすぎる冷房を嫌って、宵闇へと窓が開け放たれている。ぬるい空気、汗ばんでべとつく肌。それなのに抱き合ってキスしている。かすめるだけじゃ足りずに舌まで出している。
「ごめん、敬文……! 俺、もう無理、耐えらんない、敬文に抱かれちゃいたい」
「そだね、うん……好きだよ、君が好きだ、俺だって心臓ごと捧げたい」
少年と大人の恋だった。伊藤敬文は士官学校卒業後退魔科任官拒否で古都大修士号、そののち国軍普通科志願、少年の父、祈月源蔵の派閥にあった。一時軍閥落ちがあったが復帰である。
抱きしめながらキスしながら体の輪郭をデッサンするみたいに手のひらでさすりながら敬文は思う。だって耐えられるわけがない。俺が見つけて俺が戦に連れてってその後も力ずくで誘拐されちゃいそうで初めて怖いって怯えてみせて俺に全力で甘えた子が求めてきてるんだから。
逃避行ののち、少年の故郷までたどり着いてその後そばにいた。求められるがままに父親の与えていない庇護と溺愛で包み込んできた。
その罪深さを思うとときどき怖くなる。夜の海みたいな底知れない深み。
「身体、苦しい? でも……ひとりで何とかできるね?」
少女と違って少年だからな、とズルい大人は思う。自分を支配する性欲から逃れられないから、手籠めにするのは本当に簡単である。手伝ってあげると申し出ればいい。俺も君と繋がりたいって言えばいい。男同士の恋愛にプラトニックなんてありえない。
……清矢さま、なんて悪い子だろう。他は完璧すぎる優等生なのに俺みたいな男に抱かれちゃうなんてとんだスキャンダル。同い年の親友は毛を逆立てて怒るだろうな。
腕の中の清矢は絶望の瞳で見上げてきて、敬文の胴を抱きしめてけだものっぽく頬ずりする。すうっと深呼吸して男の汗の香りまで味わって、こくんと小さくうなずく。
伊藤敬文は頬に曲げた指をあてがいながら命じる。
「……うん、いい子だ。卒業したら、ひとりで俺の部屋に来て」
「敬文、そしたら俺の恋人になってくれる?」
敬文はうなずき、か細いからだを掻き抱いてキスをした。ひどく危うい夏の、それが終わりだった。(了)
お題:「夏の終わり」「言えなかったこと」
伊藤敬文は祈月家二階の客間、自室として借り受けているそこで、主君の息子を抱擁していた。二十八歳と十八歳、十歳差。まだ高校生で、遠き魔術師の理想郷、アルカディア魔法大受験のための準備が忙しい。伊藤敬文も去年三月に国軍に士官として復帰し、夏の間だけそこに来ていた。
古い型の冷えすぎる冷房を嫌って、宵闇へと窓が開け放たれている。ぬるい空気、汗ばんでべとつく肌。それなのに抱き合ってキスしている。かすめるだけじゃ足りずに舌まで出している。
「ごめん、敬文……! 俺、もう無理、耐えらんない、敬文に抱かれちゃいたい」
「そだね、うん……好きだよ、君が好きだ、俺だって心臓ごと捧げたい」
少年と大人の恋だった。伊藤敬文は士官学校卒業後退魔科任官拒否で古都大修士号、そののち国軍普通科志願、少年の父、祈月源蔵の派閥にあった。一時軍閥落ちがあったが復帰である。
抱きしめながらキスしながら体の輪郭をデッサンするみたいに手のひらでさすりながら敬文は思う。だって耐えられるわけがない。俺が見つけて俺が戦に連れてってその後も力ずくで誘拐されちゃいそうで初めて怖いって怯えてみせて俺に全力で甘えた子が求めてきてるんだから。
逃避行ののち、少年の故郷までたどり着いてその後そばにいた。求められるがままに父親の与えていない庇護と溺愛で包み込んできた。
その罪深さを思うとときどき怖くなる。夜の海みたいな底知れない深み。
「身体、苦しい? でも……ひとりで何とかできるね?」
少女と違って少年だからな、とズルい大人は思う。自分を支配する性欲から逃れられないから、手籠めにするのは本当に簡単である。手伝ってあげると申し出ればいい。俺も君と繋がりたいって言えばいい。男同士の恋愛にプラトニックなんてありえない。
……清矢さま、なんて悪い子だろう。他は完璧すぎる優等生なのに俺みたいな男に抱かれちゃうなんてとんだスキャンダル。同い年の親友は毛を逆立てて怒るだろうな。
腕の中の清矢は絶望の瞳で見上げてきて、敬文の胴を抱きしめてけだものっぽく頬ずりする。すうっと深呼吸して男の汗の香りまで味わって、こくんと小さくうなずく。
伊藤敬文は頬に曲げた指をあてがいながら命じる。
「……うん、いい子だ。卒業したら、ひとりで俺の部屋に来て」
「敬文、そしたら俺の恋人になってくれる?」
敬文はうなずき、か細いからだを掻き抱いてキスをした。ひどく危うい夏の、それが終わりだった。(了)
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #敬文×清矢
お題「かき氷」「食べ比べ」
「今夜は納涼のごちそうだ」と言って清矢様の母君が台所の棚から取り出したのが手回しのかき氷機。氷を砕くだけあって刃は厚い。清矢様の祖母が「いちいちシロップ買ってくるのも手間だから」と果実酢や梅酒を用意している。俺の主君である源蔵様の愛息である清矢様は「えーっ、氷は買って来んだから同じだよ。俺レモンがいい!」とワガママ全開である。
俺、伊藤敬文は彼らの一時的な護衛。陶春県の政治情勢を軍閥に伝えるために祈月家に寄宿している。暇をもてあましてもしょうがないから、隙を見て清矢様への軍学や剣の師匠をやっている。そのあと始まったのはかき氷のシロップ談義。
「清矢は本当にレモンでいいのかい?」
「ならレモン汁かければいいじゃない。あたしは練乳をミルクで溶いてかけようかな?」
「あたしはざくろ酢でいいよ。清矢も紫蘇ジュースでいいじゃないか」
「梅酒もいいね。うちで作ったお手製だし。敬文さんは?」
俺はそう言われて腕組みして微笑む。
「……俺も梅酒がいいです」
「大人はそんなにお酒がいいの? 俺、別にイチゴでも構わないけど」
きょとんと聞き返す清矢様。年齢差を感じさせる素朴な疑問だ。ほんとに可愛くて、ただ抱きしめたくなる。ストレートの強い髪質をひたすら梳いてやりたい。清矢様の母君はくつろいだ調子で注意する。
「清矢はお酒はダメ。でも雪みたいな一碗に日本酒注ぐってのもいいわね~。張本さんとこに頼もうかしら?」
「張本酒造の日本酒は薄めたくないなぁ」
清酒の上品を味わえるとあっては思わず頬がゆるむ。結局今夜はテストということでしそジュースやざくろ酢や梅酒を合わせることになった。みょうがを合わせた薬味そうめんとサラダ添えの生姜焼きで腹を満たした後はお楽しみタイム。清矢様と一緒に氷を削る。店のようにふんわりとは削れやしないが、清矢様が澄ました顔でガラスの椀をかかげて目を輝かせる姿がただひたすら愛しい。
……なんでこんなに可愛いのかな。上司の息子なのに。
切ない理由だけはよくわかる。恋心なんて正気じゃないし、性的なことは無理強いになるし、同い年の少年とコロコロ遊んでるときが素だからだ。かき氷はざくろ酢はたしかに美味。梅酒には林檎ジャムをつけて、しそジュースは正直薄まってるだけ。
いつか梅酒で酔っちゃった君を抱きしめてキスできたらな。ふしだらなときめきを隠しながら、俺は清矢様の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。(了)
お題「かき氷」「食べ比べ」
「今夜は納涼のごちそうだ」と言って清矢様の母君が台所の棚から取り出したのが手回しのかき氷機。氷を砕くだけあって刃は厚い。清矢様の祖母が「いちいちシロップ買ってくるのも手間だから」と果実酢や梅酒を用意している。俺の主君である源蔵様の愛息である清矢様は「えーっ、氷は買って来んだから同じだよ。俺レモンがいい!」とワガママ全開である。
俺、伊藤敬文は彼らの一時的な護衛。陶春県の政治情勢を軍閥に伝えるために祈月家に寄宿している。暇をもてあましてもしょうがないから、隙を見て清矢様への軍学や剣の師匠をやっている。そのあと始まったのはかき氷のシロップ談義。
「清矢は本当にレモンでいいのかい?」
「ならレモン汁かければいいじゃない。あたしは練乳をミルクで溶いてかけようかな?」
「あたしはざくろ酢でいいよ。清矢も紫蘇ジュースでいいじゃないか」
「梅酒もいいね。うちで作ったお手製だし。敬文さんは?」
俺はそう言われて腕組みして微笑む。
「……俺も梅酒がいいです」
「大人はそんなにお酒がいいの? 俺、別にイチゴでも構わないけど」
きょとんと聞き返す清矢様。年齢差を感じさせる素朴な疑問だ。ほんとに可愛くて、ただ抱きしめたくなる。ストレートの強い髪質をひたすら梳いてやりたい。清矢様の母君はくつろいだ調子で注意する。
「清矢はお酒はダメ。でも雪みたいな一碗に日本酒注ぐってのもいいわね~。張本さんとこに頼もうかしら?」
「張本酒造の日本酒は薄めたくないなぁ」
清酒の上品を味わえるとあっては思わず頬がゆるむ。結局今夜はテストということでしそジュースやざくろ酢や梅酒を合わせることになった。みょうがを合わせた薬味そうめんとサラダ添えの生姜焼きで腹を満たした後はお楽しみタイム。清矢様と一緒に氷を削る。店のようにふんわりとは削れやしないが、清矢様が澄ました顔でガラスの椀をかかげて目を輝かせる姿がただひたすら愛しい。
……なんでこんなに可愛いのかな。上司の息子なのに。
切ない理由だけはよくわかる。恋心なんて正気じゃないし、性的なことは無理強いになるし、同い年の少年とコロコロ遊んでるときが素だからだ。かき氷はざくろ酢はたしかに美味。梅酒には林檎ジャムをつけて、しそジュースは正直薄まってるだけ。
いつか梅酒で酔っちゃった君を抱きしめてキスできたらな。ふしだらなときめきを隠しながら、俺は清矢様の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。(了)
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #敬文×清矢
お題「お盆休み」「帰りたくない」伊藤敬文(25歳)×祈月清矢(16歳)
伊藤敬文は陶春県の祈月本宅のベランダに腰かけていた。隣では、清矢がハープで家に伝わる風の契約曲「風の歌」を弾いている。豚の焼き物に蚊取り線香が焚かれ、音楽が止んだ。本日の指のレッスンは終了だ。座る少年との年齢差はちょうど九歳、二十五歳と十六歳の主従だった。どちらが主でどちらが従なのか。戦争に連れ出した男と連れ出された少年。剣の師匠で軍学の先生。影のある魔法剣士になった敬文と、冷静だが魔力抜群の清矢の組み合わせは、双方実直な性格ながらも、ある種の破戒であった。
終止とともに魔術で呼ばれた風が消える。敬文は胸が苦しくなった。居間から漏れる団らんの光、蚊取り線香の除虫菊の香り、扇風機の風と汗ばむ温度、お盆の精霊燈、すべてが懐かしいのに自分の田舎と決定的に違う。ここには海鳴りがない。
「お疲れ様。軽く剣撃してから寝ようか?」
澄んでいるのに少しかすれた声。抱き寄せたいのにキスしたいのに清矢の家族の前でそんなことはできなかった。家宝の剣の一振り、翠流剣を取って庭先に誘う。
清矢も片刃剣で向き直る。夜、家屋の光のみを頼りに二人の影絵が浮かぶ。鎧もつけないで真剣を合わせる。剣筋のみ見る。剣気で斬らないように、絶対肌を裂かないように、危険なひりつく基礎練。
十五分で切り上げる。それで息は上がる。こうして敵と戦う際の集中力だけを高める。ご褒美で抱きすくめてやりたい敬文だが、汗ばんだところで切り上げて、水だけ飲んで二階に引き上げる。客間になっている部屋で濡れタオルで全身を拭いていると清矢が現れた。
「ケイブン、お盆休み終わったら帰っちゃう?」
少年は敬文を有識読みの愛称で呼んだ。
「――そうしてもいいけれど。こっちの地方の人間関係や政治を把握しなきゃ、今後動けない。だからもう少し、君を見ていたい」
敬文は軍閥からつけられた清矢や陶春地方の見張り兼参謀兼護衛であった。家庭教師の名目である。愛情深い黒目で見つめ、抱き寄せる。清矢は糸を話されたからくり人形のようにその腕に落ちた。幼馴染が好きなはずなのに、彼とのつたない恋で充分なはずなのに、敬文の汗の匂いにどうしても抗えなかった。夏の始まりの苦くて爽やかな匂い。グレープフルーツに少し似た。清矢は自分に芽生えはじめた庇護欲に怯える。
「キ、キスはしない。だって俺……好きな人いる」
「大丈夫、清矢さま……恋とかどうとか関係ない。俺が君を守るから」
厚い手のひらが髪をかきあげてしゃにむに抱きすくめる。窓だけ開け放った夏の夜、二匹のけだものが情をこらえて寄り添い合う。(了)
お題「お盆休み」「帰りたくない」伊藤敬文(25歳)×祈月清矢(16歳)
伊藤敬文は陶春県の祈月本宅のベランダに腰かけていた。隣では、清矢がハープで家に伝わる風の契約曲「風の歌」を弾いている。豚の焼き物に蚊取り線香が焚かれ、音楽が止んだ。本日の指のレッスンは終了だ。座る少年との年齢差はちょうど九歳、二十五歳と十六歳の主従だった。どちらが主でどちらが従なのか。戦争に連れ出した男と連れ出された少年。剣の師匠で軍学の先生。影のある魔法剣士になった敬文と、冷静だが魔力抜群の清矢の組み合わせは、双方実直な性格ながらも、ある種の破戒であった。
終止とともに魔術で呼ばれた風が消える。敬文は胸が苦しくなった。居間から漏れる団らんの光、蚊取り線香の除虫菊の香り、扇風機の風と汗ばむ温度、お盆の精霊燈、すべてが懐かしいのに自分の田舎と決定的に違う。ここには海鳴りがない。
「お疲れ様。軽く剣撃してから寝ようか?」
澄んでいるのに少しかすれた声。抱き寄せたいのにキスしたいのに清矢の家族の前でそんなことはできなかった。家宝の剣の一振り、翠流剣を取って庭先に誘う。
清矢も片刃剣で向き直る。夜、家屋の光のみを頼りに二人の影絵が浮かぶ。鎧もつけないで真剣を合わせる。剣筋のみ見る。剣気で斬らないように、絶対肌を裂かないように、危険なひりつく基礎練。
十五分で切り上げる。それで息は上がる。こうして敵と戦う際の集中力だけを高める。ご褒美で抱きすくめてやりたい敬文だが、汗ばんだところで切り上げて、水だけ飲んで二階に引き上げる。客間になっている部屋で濡れタオルで全身を拭いていると清矢が現れた。
「ケイブン、お盆休み終わったら帰っちゃう?」
少年は敬文を有識読みの愛称で呼んだ。
「――そうしてもいいけれど。こっちの地方の人間関係や政治を把握しなきゃ、今後動けない。だからもう少し、君を見ていたい」
敬文は軍閥からつけられた清矢や陶春地方の見張り兼参謀兼護衛であった。家庭教師の名目である。愛情深い黒目で見つめ、抱き寄せる。清矢は糸を話されたからくり人形のようにその腕に落ちた。幼馴染が好きなはずなのに、彼とのつたない恋で充分なはずなのに、敬文の汗の匂いにどうしても抗えなかった。夏の始まりの苦くて爽やかな匂い。グレープフルーツに少し似た。清矢は自分に芽生えはじめた庇護欲に怯える。
「キ、キスはしない。だって俺……好きな人いる」
「大丈夫、清矢さま……恋とかどうとか関係ない。俺が君を守るから」
厚い手のひらが髪をかきあげてしゃにむに抱きすくめる。窓だけ開け放った夏の夜、二匹のけだものが情をこらえて寄り添い合う。(了)

お題:「紅葉」「秋」
学校から帰ってくると、敬文が「清矢くん、ちょっと」と客間に引っ張り込んできた。俺は制服のまま敬文の根城に少しドキドキしながら入った。二人の間は恋人なんだか違うんだか、宙ぶらりんな感じ。敬文は楽しそうに、「目をつぶって」って命じた。どうしよ、キスされたら。そんな風に半分期待し、半分恐れながら瞳を閉じる。次に「手のひら、パーにして出して」と言われたので言われたとおりにしたら、掌に薄いかさかさしたものが置かれた。
「な、なに?」
「もう目、開けていいよ。手は握らないで」
言われた通りにすると、手のひらに乗ってたのはきれいに色づいた楓の葉。こっくりした紅色で、見ているだけで頬がゆるんだ。葉脈を持って、ひらりと明かりに透かしてみる。他愛なく喜んでいる俺を見て、敬文も楽しそうにしてる。
「実はね……おそろいなんだ」
そう言って、読んでた本(『カラマーゾフの兄弟』二巻)を開いて見せた。しおり代わりに落ち葉が挟まってる。こういう、少女漫画みたいな洒落臭いことを真顔でやっちゃうのが伊藤敬文って男の可愛いところだ。ずっと年上のひとなのに、そんな風に思って俺はにまにま笑みを浮かべる。
「もー。敬文。そういう憎いことして見せる~」
「だってもっと君にアプローチしたいもん。俺だって必死なんだよ……」
「はは。何か変なの。必死になんなくたって、俺は敬文が大好きなのに」
そう言って葉っぱを持ったまま寄り添って、肩にすりすり頬ずりする。甘えてもいい大人の人、っていうのが近くにはあまりいなかった。父に甘えたことも数えるほどの俺は、十七歳よりも子供っぽく、敬文に求愛する。
「それとも美味しいもの食べるほうがよかった? 読書の秋ってよりは、食欲の秋がメイン?」
「読書は……最近あんまりしてない。敬文の読んでるそれ、面白い?」
「兄弟のキスシーンがある」
「ええ? 兄弟の? うーん、そんなのより……」
俺は敬文の肩を抱いて、ちゅっと首筋にキスした。いっつも自分がされてる方だけど、何とも独占欲丸出しの行為だ。
「若いにーちゃんと高校生のキスがいい♡」
「し、知らないな、そんなの。あと、別にそういうキスシーンがあるから読んでるわけじゃないけど……!」
「苦しい言い訳ありがと。文学読んで妄想するより、ここに相手がいるじゃん?」
そう言ってぎゅっと抱きつくと、とうとう敬文は降参して本を閉じて押し倒してきた。
「悪い子だな清矢くんは……! キスなら何度だってしてあげるよ。でもね、俺はね」
敬文はそう言って真正面からキスしてきた。
「落ち込んだりグルグルしちゃってるときには、言葉よりキスちょうだい」
「思いっきりディープなやつしてあげる♡」
「い、いや触れるだけのやつでいいから……」
同じ小説に手を出すのはちょっと恥ずかしくて(何せ居候してるからすぐバレちゃう)、俺はもらった葉っぱを大好きな詩集にはさんだ。よりによって簡単で真理語っちゃってる愛の詩のページに。いつか敬文も読んでくれたらいいのになって。
翌日には蕎麦屋さん連れてってもらって、ちゃっかり食欲の秋デートまでしちゃってた。会話のツマに例の本の内容聞いてみると主人公はハチミツだいすきなロシアの純真な少年って、いやー、敬文さんも好きですねぇ、って笑いながら蕎麦湯すすった。(了)