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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #[詠×清矢]

お題「カラオケ」「ラブソング」櫻庭詠×祈月清矢(現代バージョン)
20:20-21:03

 四畳半程度のカラオケボックスに火照った体の男子学生二名が乗り込んでくる。中性的なほうの青年が合皮のソファーに身を落ち着ける。黒髪のレイヤーショートで、スモーキークォーツのような眼が印象的だ。まっさらなカッターシャツにチャコールグレーのパンツを合わせてシックな恰好をしている。首元にはクロスが光る。
 続けて涼し気な目つきの体育会系の青年がソファに倒れこむ。こちらは黒基調のTシャツにブラックジーンズの素朴ななりだ。二人は中学時代からの幼馴染で、学部こそ違えど同じ国立大学に進学していた。新入生歓迎会におけるありがちな初飲酒の洗礼を受け、はやくも片方ノックダウンと言ったところだ。体調を鑑みてその後の三次会には赴かず、カラオケに居残るという選択をしたのだった。
「清矢(せいや)くん。俺、まだキツイ……ほんとに飲まなきゃよかった」
「詠(よみ)、少し休んでいこう」
 清矢と呼ばれた曇り眼の青年は慣れた手つきでワンドリンクオーダーし、タブレットを手繰り寄せて選曲をはじめた。酔っぱらって目元の落ち着かない詠はソファに沈み込みながらその様子を眺める。詠の知らないアーティストの曲が流れだした。
「『君のいいなりになって 僕は汚れた』」
 清矢はかすれ交じりのテノールで扇情的な歌詞を歌い始めた。光のない目がらんらんと燃え、サビに入る。歌われている情景はサディスティックなセックス。攻守が交代した興奮で声も凛と張る。詠は悪酔いで鈍く痛む頭にスタンガンで電流を注ぎこまれているような気持ちになった。清矢くんがやらしい曲を歌ってる。えっちなことまでほのめかしてる。剣道でずっと一緒だった綺麗で可愛くてかっこいい俺の清矢くんが……。間奏部分は暗喩的なギターソロ。黒髪を振り乱して歌い終わる清矢の肌はわずかに汗ばんでいた。香る、制汗剤だか香水のアクア。
「うーん……ストレスが解消した」
 歓迎会ではアイドルグループのヒット曲やら定番アニソンでお茶を濁していた清矢の本性である。詠は据わった目でにじり寄った。肩をぐいと抱かれ、清矢はきょとんと目を合わせてくる。
「清矢くん……エロい曲は止めて」
「詠とふたりだからだけど?」
「俺のこと誘ってんの?」
「この曲、カタストロフでいいだろ? よし、女性アー解禁!」
「なんで女の曲なんて……!」
「詠も知りたいだろ、清矢の乙女心」
 思い切って関係を進めてしまいたくても、清矢はそんな殺し文句でマイク片手に邦楽ロックの女性アーティストによる代表曲を音階調整して歌い始めてしまう。彼の学部は教育学部、ピアノ過程であった。乙女心どころではない蓮っ葉な歌詞にふたたび詠は怖気づいたが、今度の幕間ではマイクを握る手首を組み伏せて、強引にキスを迫った。清矢はつれなく顔を背ける。
「告白もしてないのにいきなりキス?」
「だって、清矢くん俺のこと誘ってる……」
「なんで? 単に攻めた選曲ってだけだろ」
 清矢はそう言って、自分のふっくらした唇に人差し指を当てがい、詠のそこをシールでも貼り付けるように封じてきた。
「ほら、間接キスからどうぞ」
 詠は屈辱の中唇に押し当てられる指を軽く舐めた。清矢の軽蔑のまなざしはすさまじいものがある。
「たとえ詠だってそんなに簡単にはヤラせない」
 清矢はきっぱり言って次の曲を選び始めた。詠はスネて言う。
「俺の事清矢くんの初カレにして」
「ん、わかった」
 その秀麗な横顔に赤みは一切ささない。躱された悔しさをばねに立ち直った詠はタブレットを引き寄せ、真剣に適当な曲を見繕いはじめた。恋人同士になれた記念に、ラブソングをいくらでも熱唱してやるつもりだった。(了)

※引用歌 スガシカオ「いいなり」