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あおうま
カズオ・イシグロ著『クララとお日さま』ハヤカワepi文庫 2023年

現在実用しうるレベルの生成AIが出てきて、とくに絵画系はヒステリックなバッシングにさらされているけど、これもAIのお話。
人型AI、人工親友(Artificial Friends)のクララは、ウインドウショッピングで見初められた病弱の少女、ジョジーに友人として買われる。
幼馴染で恋人のリック、母のクリシーなど周囲の人々とかかわりながらも、太陽光蓄電のクララは「お日さま」へのピュアな信仰を保ち、ジョジーの病気回復を祈りはじめる。
カズオ・イシグロの近未来ディストピアものにはすでに著名な『わたしを離さないで』があるが、今作はより胸糞な内容となっている。
AFは人間や動物とは同列ではなく、きっぱりと『奴隷』としての扱いだ。感情をもっていてもそれはコミュニケーションで考慮されないし、変態の餌食となる身代わりに犠牲を願われるし、「仕事だけでなく、席まで奪うとはね」と罵られる。
無理解と不慣れからの冷たい視線は今なおリアルに感じられる。
人間とそう変わらないレベルの外観の少年・少女がペットショップのように陳列され、値踏みされ、買われ、奴隷扱いされている状況はうすら寒いものがある。
ヒトにとって明るい未来はきておらず、遺伝子編集による能力向上処置を受けられない子供は大学入学を制限され、有能な技術者もロボットに「置き換え」られている。SF的な要素はAFクララの一人称視点の語りから断片的に読み取れるのみで、その陰鬱な空気を感じ取れるだけ。
カズオ・イシグロは細かい描写から真実を読み取るよう要求する文体なので、そのオブラート包んだ感覚をどう受け取るかは好みによるだろう。
そしてその中を生きるヒトもかなりエゴイストで、どうしようもない奴らが多い。一言多いリックの母親や、欺瞞を重ねて生きるヒステリックなジョジーの母親、主人のジョジーだって親切なように見えてはっきりとクララを奴隷として扱っているわがまま娘。この話の中で、好きになれる人間のキャラクターは少ないだろう。極めつけはオチで、もはや当初に述べたとおり胸糞である。『わたしを離さないで』と違ってセンチメンタルでどうにかなる描写ではない。

メタくそに書いたがこれこそまさに文学作品の味でもあると思う。途中からはページを繰る手が止まらなかった。人は不幸ののぞき見が好きだからね。
#読書