#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #詠×清矢 #ComingOutofMagicianYozora お題「エイプリルフール」櫻庭詠(さくらば・よみ)×祈月清矢(きげつ・せいや)
四月になり、アルカディア魔法大も春休みに入った。雪深いヨーロッパのこの地では、春はじめのこの時期が長期休暇にあてられる。ともあれ、直前までテストだの進級だので慌ただしかったから、気候のいい時期にたっぷりと自由時間を貰えて、俺はウキウキしていた。夜空と一緒に故郷に帰ろっかとも言ってたが、やつは一か月くらいは働いて資金調達をしたいらしい。充希も同様で、まぁ俺と詠はとくに計画も立ててなかったんだけど、何となーく警備のバイトについた。時間も融通が利くし、アルカディア魔法大の学生はモンスターが出る危ないとこ担当でも大丈夫だろっていうすごい理屈だ。
警備員の紺色の制服に身を包んだ詠が、雑誌片手に休憩室でのんびりしている。そういや今日はエイプリルフールだ。でも大した嘘も思いつかない。「俺、ドリスと付き合うことにしたから詠とは別れよーぜ」なんていうのは二重に悪質だし。「今日ローク神殿で施餓鬼やってるらしいよ、お菓子貰えるらしい」っていうのも、そんな回りくどいデートの誘い方…って感じだ。詠はロリポップ舐めながら、なんとなく手持ち無沙汰でいる俺のことをじっと見てきた。
「なぁ清矢くん。俺ね、ちょっと言いたいことあって……」
「何だ? 俺、詠になんかしちまってたか?」
まぁ、屋台のパン買いに行かすとかゴント山での鍛錬の帰りに背負わせるとかぐらいはやってたけど。詠はちょっと考えた風な顔で言った。
「エミーリアとかドリスとかとイチャつくのやめろよ。俺このままだとマジ清矢くんのこと嫌いになりそー」
「え、えっと。詠。まずは話し合おうぜ。エミーリアはともかく、ドリスはあっちも俺に気はねぇから迷惑だって。それにエミーリアともたまには付き合わねぇと、拗ねて俺に当たってきちまうし。つーか詠だってテヌーとかといい感じなんじゃねぇの? それに俺って性格重視派だし、その理屈で言うとステファニアとか陽気でいいんだよな……って何言わすんだよ! エイプリルフールだからってさ!」
俺は冷や汗かきながら弁解になってない弁解した。詠はぬっと寄ってきて、しげしげと俺の顔を見つめる。
「清矢。俺に甘えんな。その……ベタベタすんのとか、ヤダから」
「えっ? マジで? ってか、抱き着くのとかヤなの?」
へったくそな嘘だなーと思った。いつだって「清矢くん清矢くん」って尾っぽ振って抱き着いてくるのが詠なのに。でも俺ってあんまり性格よくねーから、詠のひねりのない嘘にとりあってやった。
「うん、やだ。これから無しにしよーぜ」
「じゃあ詠って俺のこと嫌いなんだ」
「う、うん……つうか、何か気持ち悪いかなって思って……」
「そっか。それもしょうがねーな。恋人同士からただのトモダチに戻ろっか?」
そこまで芝居に乗ってやると、詠はもじもじと下を向いた。
「やっぱヤダ。俺の嘘、清矢見抜いてるだろ? ホントに戻っちまうの? やだよ、何か口にするだけで悲しくなっちまった……」
その様子はまさに捨てられた犬。クーンって鳴いて肩落としちまって、ほんとこういう詠も可愛いなって思う。もしかしたら俺が可愛いって思うのも計算ずくだったりして。俺はご主人様然としてふんぞり返って笑った。
「詠。じゃあ、お詫びに撫で撫でと抱っこな? ほっぺにチューも追加でな♡」
「オッケ、バイト終わったらでいい? 俺やっぱ清矢といっぱいじゃれ合いてえ」
詠は笑顔になったが、次にそっと目を細めた。
「でも女友達とイチャつくなっていうのはマジだから。特にエミーリア許さねーから!」
詠はそう釘をさすのも忘れなかった。俺は笑いながらごまかす。
「あ、そういやローク神殿で今日は法要だってよ。お菓子配るって言ってた。詠貰ってきてくんね?」
「嘘だろー。つうかもうエイプリルフールってネタバレみたいなもんじゃん? もーふざけんなよ清矢」
俺たちはくだらない嘘を言い合って互いを小突きながら警備に戻った。互いに下手すぎて笑える。あー、特別でない平凡な日だわ。好きって気持ちには嘘なんてつけねーもんな。(了)
お題「エイプリルフール」櫻庭詠(さくらば・よみ)×祈月清矢(きげつ・せいや)
四月になり、アルカディア魔法大も春休みに入った。雪深いヨーロッパのこの地では、春はじめのこの時期が長期休暇にあてられる。ともあれ、直前までテストだの進級だので慌ただしかったから、気候のいい時期にたっぷりと自由時間を貰えて、俺はウキウキしていた。夜空と一緒に故郷に帰ろっかとも言ってたが、やつは一か月くらいは働いて資金調達をしたいらしい。充希も同様で、まぁ俺と詠はとくに計画も立ててなかったんだけど、何となーく警備のバイトについた。時間も融通が利くし、アルカディア魔法大の学生はモンスターが出る危ないとこ担当でも大丈夫だろっていうすごい理屈だ。
警備員の紺色の制服に身を包んだ詠が、雑誌片手に休憩室でのんびりしている。そういや今日はエイプリルフールだ。でも大した嘘も思いつかない。「俺、ドリスと付き合うことにしたから詠とは別れよーぜ」なんていうのは二重に悪質だし。「今日ローク神殿で施餓鬼やってるらしいよ、お菓子貰えるらしい」っていうのも、そんな回りくどいデートの誘い方…って感じだ。詠はロリポップ舐めながら、なんとなく手持ち無沙汰でいる俺のことをじっと見てきた。
「なぁ清矢くん。俺ね、ちょっと言いたいことあって……」
「何だ? 俺、詠になんかしちまってたか?」
まぁ、屋台のパン買いに行かすとかゴント山での鍛錬の帰りに背負わせるとかぐらいはやってたけど。詠はちょっと考えた風な顔で言った。
「エミーリアとかドリスとかとイチャつくのやめろよ。俺このままだとマジ清矢くんのこと嫌いになりそー」
「え、えっと。詠。まずは話し合おうぜ。エミーリアはともかく、ドリスはあっちも俺に気はねぇから迷惑だって。それにエミーリアともたまには付き合わねぇと、拗ねて俺に当たってきちまうし。つーか詠だってテヌーとかといい感じなんじゃねぇの? それに俺って性格重視派だし、その理屈で言うとステファニアとか陽気でいいんだよな……って何言わすんだよ! エイプリルフールだからってさ!」
俺は冷や汗かきながら弁解になってない弁解した。詠はぬっと寄ってきて、しげしげと俺の顔を見つめる。
「清矢。俺に甘えんな。その……ベタベタすんのとか、ヤダから」
「えっ? マジで? ってか、抱き着くのとかヤなの?」
へったくそな嘘だなーと思った。いつだって「清矢くん清矢くん」って尾っぽ振って抱き着いてくるのが詠なのに。でも俺ってあんまり性格よくねーから、詠のひねりのない嘘にとりあってやった。
「うん、やだ。これから無しにしよーぜ」
「じゃあ詠って俺のこと嫌いなんだ」
「う、うん……つうか、何か気持ち悪いかなって思って……」
「そっか。それもしょうがねーな。恋人同士からただのトモダチに戻ろっか?」
そこまで芝居に乗ってやると、詠はもじもじと下を向いた。
「やっぱヤダ。俺の嘘、清矢見抜いてるだろ? ホントに戻っちまうの? やだよ、何か口にするだけで悲しくなっちまった……」
その様子はまさに捨てられた犬。クーンって鳴いて肩落としちまって、ほんとこういう詠も可愛いなって思う。もしかしたら俺が可愛いって思うのも計算ずくだったりして。俺はご主人様然としてふんぞり返って笑った。
「詠。じゃあ、お詫びに撫で撫でと抱っこな? ほっぺにチューも追加でな♡」
「オッケ、バイト終わったらでいい? 俺やっぱ清矢といっぱいじゃれ合いてえ」
詠は笑顔になったが、次にそっと目を細めた。
「でも女友達とイチャつくなっていうのはマジだから。特にエミーリア許さねーから!」
詠はそう釘をさすのも忘れなかった。俺は笑いながらごまかす。
「あ、そういやローク神殿で今日は法要だってよ。お菓子配るって言ってた。詠貰ってきてくんね?」
「嘘だろー。つうかもうエイプリルフールってネタバレみたいなもんじゃん? もーふざけんなよ清矢」
俺たちはくだらない嘘を言い合って互いを小突きながら警備に戻った。互いに下手すぎて笑える。あー、特別でない平凡な日だわ。好きって気持ちには嘘なんてつけねーもんな。(了)