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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #敬文×清矢
お題「かき氷」「食べ比べ」

 「今夜は納涼のごちそうだ」と言って清矢様の母君が台所の棚から取り出したのが手回しのかき氷機。氷を砕くだけあって刃は厚い。清矢様の祖母が「いちいちシロップ買ってくるのも手間だから」と果実酢や梅酒を用意している。俺の主君である源蔵様の愛息である清矢様は「えーっ、氷は買って来んだから同じだよ。俺レモンがいい!」とワガママ全開である。
 俺、伊藤敬文は彼らの一時的な護衛。陶春県の政治情勢を軍閥に伝えるために祈月家に寄宿している。暇をもてあましてもしょうがないから、隙を見て清矢様への軍学や剣の師匠をやっている。そのあと始まったのはかき氷のシロップ談義。
「清矢は本当にレモンでいいのかい?」
「ならレモン汁かければいいじゃない。あたしは練乳をミルクで溶いてかけようかな?」
「あたしはざくろ酢でいいよ。清矢も紫蘇ジュースでいいじゃないか」
「梅酒もいいね。うちで作ったお手製だし。敬文さんは?」
 俺はそう言われて腕組みして微笑む。
「……俺も梅酒がいいです」
「大人はそんなにお酒がいいの? 俺、別にイチゴでも構わないけど」
 きょとんと聞き返す清矢様。年齢差を感じさせる素朴な疑問だ。ほんとに可愛くて、ただ抱きしめたくなる。ストレートの強い髪質をひたすら梳いてやりたい。清矢様の母君はくつろいだ調子で注意する。
「清矢はお酒はダメ。でも雪みたいな一碗に日本酒注ぐってのもいいわね~。張本さんとこに頼もうかしら?」
「張本酒造の日本酒は薄めたくないなぁ」
 清酒の上品を味わえるとあっては思わず頬がゆるむ。結局今夜はテストということでしそジュースやざくろ酢や梅酒を合わせることになった。みょうがを合わせた薬味そうめんとサラダ添えの生姜焼きで腹を満たした後はお楽しみタイム。清矢様と一緒に氷を削る。店のようにふんわりとは削れやしないが、清矢様が澄ました顔でガラスの椀をかかげて目を輝かせる姿がただひたすら愛しい。
 ……なんでこんなに可愛いのかな。上司の息子なのに。
 切ない理由だけはよくわかる。恋心なんて正気じゃないし、性的なことは無理強いになるし、同い年の少年とコロコロ遊んでるときが素だからだ。かき氷はざくろ酢はたしかに美味。梅酒には林檎ジャムをつけて、しそジュースは正直薄まってるだけ。
 いつか梅酒で酔っちゃった君を抱きしめてキスできたらな。ふしだらなときめきを隠しながら、俺は清矢様の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。(了)