
万聖節の夜物語 アルカディア魔法大学逃亡編(1-9)
第四章 36 交易多層都市ロンシャンの中央帯は垂直積層型の線状都市である。エトランゼ・タウンはその最下層にあった。夜でも空は見えず、闇には時代遅れの燃料ランプだけが輝いていた。廃墟じみた教会のそばには噴水広場が広がっており、人影はまばらだ。夜空は薄汚れたトーガだけの格好で、噴水 … ...
第四章 36 交易多層都市ロンシャンの中央帯は垂直積層型の線状都市である。エトランゼ・タウンはその最下層にあった。夜でも空は見えず、闇には時代遅れの燃料ランプだけが輝いていた。廃墟じみた教会のそばには噴水広場が広がっており、人影はまばらだ。夜空は薄汚れたトーガだけの格好で、噴水 … ...
第三章 31 五日後には毎週恒例、マスター・アジャスタガル率いる早朝戦闘訓練が行われた。冬の到来を感じさせる曇り空のその日もまた飛び入り参加があった。 質問状を送り付けてきたジョージ・ヒューゴである。もしやシリルの件での報復かと、夜空たちははじめ身構えたが、彼はさっぱりと笑っ … ...
第三章 25 アジャスタガル率いる早朝実戦演習には、目付け役としての責任からか、ウィリアムも律儀に参加し続けていた。彼は新顔のフローレンスを見るなり夜空に不審な目を向けた。 「彼女は一体どうしたんだ?」 「ああ、彼女はフローレンス。シリルの従姉だよ。巴里では色彩魔術主催のショー … ...
第二章 22 アルカディア魔法大学の生活も一か月が過ぎ、八月になった。農家では収穫祭が営まれ、太陽がもたらした豊穣に感謝の供物をささげている。ヒョウガ男爵の授業の終わりしな、いつもなら素早くいなくなるヴェルシーニンが同郷のユーリとともに一通の手紙を渡してきた。夜空とアイフェンは … ...
第二章 17 翌週、いよいよアルカディア島のランドマーク、ゴント山での早朝実戦訓練が行われた。参加者はマスター・アジャスタガルの元に集った闇属性塔の新入生全員と、ウィリアム・エヴァ・マリーベル、クリストフ・アイフェン・ホルツメーラー、そして休講中のファイアーボルトゼミより先輩の … ...
第二章 13 入学式の翌日から授業が始まった。夜空たちはクラウス殿下の近侍として、なるべく同じ授業を受講することになった。学生たちは所属属性塔の『魔法学基礎』のほかに、別属性の同名授業を最低一つは受講しなくてはならない。クラウス殿下自身の属性や魔力量自体は非公開であったが、彼は … ...
第一章 9 十日後、魔力選抜最終合格者の名簿と所属寮がアルカディア魔術大学学院本部の掲示板に張り出された。ロンシャンから一緒だった葉海英 (イェ・ハイイン) は十八位位で、妹の葉貞苺 (イェ・チェンメイ) も二十五位という快挙である。夜空は何と三位。ロンシャンでのトレーニングの … ...
第一章 4 気が付くとそこは懐かしき日ノ本の渚村、草笛屋敷だった。 古びたアップライトピアノが置かれた六畳の個室で、洋風にしつらえられている。職人手製のオルゴールからは『風の歌』の旋律だけがノスタルジックに流れていた。部屋の中は明かりもなく薄暗い。窓から刺す午後のやわらかい光 … ...
第一章 ここに一通の手紙がある。 『夜空へ。 突然の便りで驚いたと思う。私は日ノ本で十七歳になった。 夜空はどうしてる? みんな心配してる。 六年前のあの約束を、覚えてるかはわからない。 でも、あなたは新月刀とともに帰ってくるって誓った。 私はずいぶん責められた。父 … ...