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#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #敬文×清矢
お題「お盆休み」「帰りたくない」伊藤敬文(25歳)×祈月清矢(16歳)
伊藤敬文は陶春県の祈月本宅のベランダに腰かけていた。隣では、清矢がハープで家に伝わる風の契約曲「風の歌」を弾いている。豚の焼き物に蚊取り線香が焚かれ、音楽が止んだ。本日の指のレッスンは終了だ。座る少年との年齢差はちょうど九歳、二十五歳と十六歳の主従だった。どちらが主でどちらが従なのか。戦争に連れ出した男と連れ出された少年。剣の師匠で軍学の先生。影のある魔法剣士になった敬文と、冷静だが魔力抜群の清矢の組み合わせは、双方実直な性格ながらも、ある種の破戒であった。
終止とともに魔術で呼ばれた風が消える。敬文は胸が苦しくなった。居間から漏れる団らんの光、蚊取り線香の除虫菊の香り、扇風機の風と汗ばむ温度、お盆の精霊燈、すべてが懐かしいのに自分の田舎と決定的に違う。ここには海鳴りがない。
「お疲れ様。軽く剣撃してから寝ようか?」
澄んでいるのに少しかすれた声。抱き寄せたいのにキスしたいのに清矢の家族の前でそんなことはできなかった。家宝の剣の一振り、翠流剣を取って庭先に誘う。
清矢も片刃剣で向き直る。夜、家屋の光のみを頼りに二人の影絵が浮かぶ。鎧もつけないで真剣を合わせる。剣筋のみ見る。剣気で斬らないように、絶対肌を裂かないように、危険なひりつく基礎練。
十五分で切り上げる。それで息は上がる。こうして敵と戦う際の集中力だけを高める。ご褒美で抱きすくめてやりたい敬文だが、汗ばんだところで切り上げて、水だけ飲んで二階に引き上げる。客間になっている部屋で濡れタオルで全身を拭いていると清矢が現れた。
「ケイブン、お盆休み終わったら帰っちゃう?」
少年は敬文を有識読みの愛称で呼んだ。
「――そうしてもいいけれど。こっちの地方の人間関係や政治を把握しなきゃ、今後動けない。だからもう少し、君を見ていたい」
敬文は軍閥からつけられた清矢や陶春地方の見張り兼参謀兼護衛であった。家庭教師の名目である。愛情深い黒目で見つめ、抱き寄せる。清矢は糸を話されたからくり人形のようにその腕に落ちた。幼馴染が好きなはずなのに、彼とのつたない恋で充分なはずなのに、敬文の汗の匂いにどうしても抗えなかった。夏の始まりの苦くて爽やかな匂い。グレープフルーツに少し似た。清矢は自分に芽生えはじめた庇護欲に怯える。
「キ、キスはしない。だって俺……好きな人いる」
「大丈夫、清矢さま……恋とかどうとか関係ない。俺が君を守るから」
厚い手のひらが髪をかきあげてしゃにむに抱きすくめる。窓だけ開け放った夏の夜、二匹のけだものが情をこらえて寄り添い合う。(了)
お題「お盆休み」「帰りたくない」伊藤敬文(25歳)×祈月清矢(16歳)
伊藤敬文は陶春県の祈月本宅のベランダに腰かけていた。隣では、清矢がハープで家に伝わる風の契約曲「風の歌」を弾いている。豚の焼き物に蚊取り線香が焚かれ、音楽が止んだ。本日の指のレッスンは終了だ。座る少年との年齢差はちょうど九歳、二十五歳と十六歳の主従だった。どちらが主でどちらが従なのか。戦争に連れ出した男と連れ出された少年。剣の師匠で軍学の先生。影のある魔法剣士になった敬文と、冷静だが魔力抜群の清矢の組み合わせは、双方実直な性格ながらも、ある種の破戒であった。
終止とともに魔術で呼ばれた風が消える。敬文は胸が苦しくなった。居間から漏れる団らんの光、蚊取り線香の除虫菊の香り、扇風機の風と汗ばむ温度、お盆の精霊燈、すべてが懐かしいのに自分の田舎と決定的に違う。ここには海鳴りがない。
「お疲れ様。軽く剣撃してから寝ようか?」
澄んでいるのに少しかすれた声。抱き寄せたいのにキスしたいのに清矢の家族の前でそんなことはできなかった。家宝の剣の一振り、翠流剣を取って庭先に誘う。
清矢も片刃剣で向き直る。夜、家屋の光のみを頼りに二人の影絵が浮かぶ。鎧もつけないで真剣を合わせる。剣筋のみ見る。剣気で斬らないように、絶対肌を裂かないように、危険なひりつく基礎練。
十五分で切り上げる。それで息は上がる。こうして敵と戦う際の集中力だけを高める。ご褒美で抱きすくめてやりたい敬文だが、汗ばんだところで切り上げて、水だけ飲んで二階に引き上げる。客間になっている部屋で濡れタオルで全身を拭いていると清矢が現れた。
「ケイブン、お盆休み終わったら帰っちゃう?」
少年は敬文を有識読みの愛称で呼んだ。
「――そうしてもいいけれど。こっちの地方の人間関係や政治を把握しなきゃ、今後動けない。だからもう少し、君を見ていたい」
敬文は軍閥からつけられた清矢や陶春地方の見張り兼参謀兼護衛であった。家庭教師の名目である。愛情深い黒目で見つめ、抱き寄せる。清矢は糸を話されたからくり人形のようにその腕に落ちた。幼馴染が好きなはずなのに、彼とのつたない恋で充分なはずなのに、敬文の汗の匂いにどうしても抗えなかった。夏の始まりの苦くて爽やかな匂い。グレープフルーツに少し似た。清矢は自分に芽生えはじめた庇護欲に怯える。
「キ、キスはしない。だって俺……好きな人いる」
「大丈夫、清矢さま……恋とかどうとか関係ない。俺が君を守るから」
厚い手のひらが髪をかきあげてしゃにむに抱きすくめる。窓だけ開け放った夏の夜、二匹のけだものが情をこらえて寄り添い合う。(了)

二話の庶紫を書き終われそう。エロシーンはあまあまゆるゆる優しいげんちょくにしました。エロいかどうかはわかりません。それにしても一話は記録見るとプロット済んで五日間くらいで書き終えてね?早すぎるでしょ。二話は1ヶ月かかってる…!なんで?エロシーン多いんだからさっさと行きそうなものなのに。
あと紫鸞くん右固定じゃなくなりました😅解脱。
げんちょくにだけ右でお願いします🙋後はもう左の方がいいや、さすが福ジュン声や……!
あと紫鸞くん右固定じゃなくなりました😅解脱。
げんちょくにだけ右でお願いします🙋後はもう左の方がいいや、さすが福ジュン声や……!

舞城王太郎『阿修羅ガール』新潮文庫 二〇〇三年
愛の名を冠する東京の女子高生カツラ・アイコは善性の象徴として金田陽治のことが小学六年生のころから好き。恋愛がうまくいかない憂さ晴らしで好きでもない軽薄男・佐野とヤったものの自尊心が減っただけ。翌日佐野が殺されちゃって、クラスメイトにシメられる。でも怒涛のニーキックで撃退。調布の近所では三つ子の男の子が「グルグル魔神」と名乗る連続殺人鬼に殺されて、インターネット匿名掲示板『天の声』では「アルマゲドン」っていう中学生狩りの祭りが起こってリアルを侵食してて、世は大バイオレンス時代。さてアイコの恋の行方やいかに。
という物語。いつもの舞城。セックス・ヴァイオレンス・アンド・ラブ。それにしても超ゼロ年代って感じだね。今読むとノスタルジーとも言えない羞恥含みの生臭さで一番古臭く感じる。2ちゃんねる的匿名掲示板の暴力みたいなのも今やツイッターならぬXに移行です。それで誰もがセルフブランディングの時代。舞城はともかくセックス・ヴァイオレンス・アンド・ラブコメディなので、原始人にも分かる可笑しみなのだ。この軽薄な一人称がたまらない。
おぞましい暴力で達成される善性と神聖。古代、必ず神にはサクリファイスを捧げた。命を捧げるからこそ聖は尊く不可侵で光り輝く。神なき時代のチープな信仰。人間は時代変われど本性だけは変われないから、どんなに信じられなくても嘘っぱちでも残虐で吐き気がしても、、そのフラットな色彩の奔流にただ流されるしかない。
愛の名を冠する東京の女子高生カツラ・アイコは善性の象徴として金田陽治のことが小学六年生のころから好き。恋愛がうまくいかない憂さ晴らしで好きでもない軽薄男・佐野とヤったものの自尊心が減っただけ。翌日佐野が殺されちゃって、クラスメイトにシメられる。でも怒涛のニーキックで撃退。調布の近所では三つ子の男の子が「グルグル魔神」と名乗る連続殺人鬼に殺されて、インターネット匿名掲示板『天の声』では「アルマゲドン」っていう中学生狩りの祭りが起こってリアルを侵食してて、世は大バイオレンス時代。さてアイコの恋の行方やいかに。
という物語。いつもの舞城。セックス・ヴァイオレンス・アンド・ラブ。それにしても超ゼロ年代って感じだね。今読むとノスタルジーとも言えない羞恥含みの生臭さで一番古臭く感じる。2ちゃんねる的匿名掲示板の暴力みたいなのも今やツイッターならぬXに移行です。それで誰もがセルフブランディングの時代。舞城はともかくセックス・ヴァイオレンス・アンド・ラブコメディなので、原始人にも分かる可笑しみなのだ。この軽薄な一人称がたまらない。
私もヒトだから、内側にたくさんの人格があって、いろんな声があって、それらが様々な音を立てている。それらを全て支配しているあの怪物はつまり、私自身だ。あの姿、あの形、あれはつまり、私の人格とか自己像とか、そういうものとは関係ない、もっと奥深くの、真ん中の、芯とか核とかそういうものなんだろう。エゴ?良く判んないけど、そういうの。つまりこういう風にも言えるだろう。私は私の内側のどこかにある、それもはじっこじゃなくて中心にある、暗い森の中で、私の中にあるたくさんの私を吸い込んでバラバラにして私の中に取り込んで、どんどん大きくなっていく。そうだ。私は怪物だ。じゃあ他の人も、皆が皆同じ姿かたちはしてないだろうけど、私と同じ生態をしている怪物を、私と似た森の中に住まわせてるってことになるんじゃないかな。
おぞましい暴力で達成される善性と神聖。古代、必ず神にはサクリファイスを捧げた。命を捧げるからこそ聖は尊く不可侵で光り輝く。神なき時代のチープな信仰。人間は時代変われど本性だけは変われないから、どんなに信じられなくても嘘っぱちでも残虐で吐き気がしても、、そのフラットな色彩の奔流にただ流されるしかない。

プロット通りにいかねぇえ。執筆段階でのこれを防ぎたいからプロットを立てるんだけど、やっぱりその段階では考えが浅かったよ…
でもリリカルでハートフルを維持できるかもな。維持でしょもはや。ぬるくていいよ。
でもリリカルでハートフルを維持できるかもな。維持でしょもはや。ぬるくていいよ。
お題「かき氷」「食べ比べ」
「今夜は納涼のごちそうだ」と言って清矢様の母君が台所の棚から取り出したのが手回しのかき氷機。氷を砕くだけあって刃は厚い。清矢様の祖母が「いちいちシロップ買ってくるのも手間だから」と果実酢や梅酒を用意している。俺の主君である源蔵様の愛息である清矢様は「えーっ、氷は買って来んだから同じだよ。俺レモンがいい!」とワガママ全開である。
俺、伊藤敬文は彼らの一時的な護衛。陶春県の政治情勢を軍閥に伝えるために祈月家に寄宿している。暇をもてあましてもしょうがないから、隙を見て清矢様への軍学や剣の師匠をやっている。そのあと始まったのはかき氷のシロップ談義。
「清矢は本当にレモンでいいのかい?」
「ならレモン汁かければいいじゃない。あたしは練乳をミルクで溶いてかけようかな?」
「あたしはざくろ酢でいいよ。清矢も紫蘇ジュースでいいじゃないか」
「梅酒もいいね。うちで作ったお手製だし。敬文さんは?」
俺はそう言われて腕組みして微笑む。
「……俺も梅酒がいいです」
「大人はそんなにお酒がいいの? 俺、別にイチゴでも構わないけど」
きょとんと聞き返す清矢様。年齢差を感じさせる素朴な疑問だ。ほんとに可愛くて、ただ抱きしめたくなる。ストレートの強い髪質をひたすら梳いてやりたい。清矢様の母君はくつろいだ調子で注意する。
「清矢はお酒はダメ。でも雪みたいな一碗に日本酒注ぐってのもいいわね~。張本さんとこに頼もうかしら?」
「張本酒造の日本酒は薄めたくないなぁ」
清酒の上品を味わえるとあっては思わず頬がゆるむ。結局今夜はテストということでしそジュースやざくろ酢や梅酒を合わせることになった。みょうがを合わせた薬味そうめんとサラダ添えの生姜焼きで腹を満たした後はお楽しみタイム。清矢様と一緒に氷を削る。店のようにふんわりとは削れやしないが、清矢様が澄ました顔でガラスの椀をかかげて目を輝かせる姿がただひたすら愛しい。
……なんでこんなに可愛いのかな。上司の息子なのに。
切ない理由だけはよくわかる。恋心なんて正気じゃないし、性的なことは無理強いになるし、同い年の少年とコロコロ遊んでるときが素だからだ。かき氷はざくろ酢はたしかに美味。梅酒には林檎ジャムをつけて、しそジュースは正直薄まってるだけ。
いつか梅酒で酔っちゃった君を抱きしめてキスできたらな。ふしだらなときめきを隠しながら、俺は清矢様の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。(了)