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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #流砂を止めることができれば

お題「スポーツ」「野外」
プライド激高こじらせ法学生×百歳超え吸血鬼(若見え)

「まぁったく、この程度でヘバるってどういうことだ!?」
「ふ、普段運動しないから……! 英司くぅーん、休もうよぉ」
 生業についていない疑惑のある滝山到とプライド高め法学生の桐島英司はサイクリングロードの6km地点でギブアップしていた。ちなみに英司のほうは別段バテてはいない。見た目には気を使っているからジムで鍛えているし、運動だって苦手じゃない。あくまで、チームプレイが嫌いなだけだ。そう言い張っているし実際、中学生までは水泳を習っていた。到はせっかく整えた黄色いシティバイク(この時点で、全長12.9kmの川沿いサイクリングコースを行くとして選択を誤っている)を放り出し、砂利道の続くリバーサイドの土手に座り込んだ。
「何やってるっ、あと半分だぞ」
「公園マダー?」
「さっき京葉道路の下通ったところだからあと2.4キロだ。みっともない、降りて進むぞ」
 英司はスマホに保存してある案内図を確認した。ともかく半分ほどは来た。こんな人気のない川沿いの道で立ち往生するわけにはいかない。自分もバイクを止め、到とともに歩くことにした。大の男ふたりがこの程度で……みっともないと思いつつ、なんだかしょげてる年上を不機嫌に率いて行く。
「公園で休もう?」
「いいけど。うわーあと2キロ半も行かなきゃなんないのか~。もう別に、そこから引き返せばよくない? 帰り一応海のほうで記念撮影してさ」
「はぁ? お前って13キロ程度も走りきれないのか? ランならまだしも、バイクで? はっきり言うが虚弱すぎないか? 付き合ってやってんだから最後まで行くぞ」
 お説教しながら橋近くの公園までたどりつき、そこで休んだ。到は長めの髪をかきあげて、ベンチでうつろな目をしている。
「ハラスメントにも耐えた。こっから先は砂利道でさらにヤバい。帰ろ? ねぇ帰ろ?」
 到は年上っぽくないうるうる眼で見つめてくる。英司はちゃきちゃき言い返す。地が江戸っ子なのだ。鳥肌までたった二の腕をウェアの上からぼりぼり掻く。
「だぁぁ、湿っぽい! 私はそんなのに騙されないぞ。帰りだってここで休憩とれば平気だろう。なんでお前に合わせて私が低めの見積もりしなきゃならないわけだよ」
 詰め詰めに詰めると、到は珍しく唇を噛んで立ち上がった。あっマズイ。親密だと思ってやりすぎたか。女とか男とかみたいな嫉妬とかしないやつじゃなかったっけか。英司の内心で危険信号がチカチカする。到は首に巻いたタオルをぎゅっと縛りなおし、英司のあごをくいっと押し上げた。
「折り返しでご褒美ちょうだい」
「ラムネくらいしか持ってない」
「補給ね。補給。英司クンの体液ちょーだい」
 ずざざっと見事に後ずさりして、英司は叱った。
「馬鹿っ! そんなん老廃物に過ぎないだろ。アレはダメだ、人目があったらどーすんだっ!」
「アレはヤバいでしょ。ねーちょっとだけー。何なら今すぐでもオッケー」
 アレとは吸血行動である。何を隠そう滝山到は百年? くらいは生きている吸血鬼だと言う。たしかに彼の平屋には時代ものがたくさんある。鉄瓶とか。古写本とか。古本屋経営っていうのもクラウドで古典籍まで読める今時時代錯誤だし。それにしちゃ見た目が若いが。三十代って言って通用する。ちなみに英司はそんなの全部どうでもいいと思っている。友達が少ないが故に一緒にいられれば何でもいいのだ。
「じゃあこれで我慢する」
 到はそう言ってかるく頬を舐めてきた。濡れた舌の感触が刺すみたいに強い。あぁ、休日昼間、ファミリーまで来てる狭苦しい公園でこんな破廉恥行為だなんて。背徳感に堪え切れなかった英司はしおしおと顔を覆った。
「英司クンかわいー」
 到はもぐもぐ持参したチョコなんか食べている。最初からそっちにしろ。
 残りは5キロ弱。しかも折り返し地点は何にもない放棄された野原状態だという。さらに人がいなくって絶好の野外何とかスポット。すんごく気が重くなった。
 好奇心から火遊びに乗ってしまったのが失敗だったと反省をしつつ、英司は無言でバイクの向きを返した。
「えー、ラストまで行こうよ英司クン。海じゃ人目があるじゃんー?」
 ダメダメダメ。貞操は大事なのだ。軽薄な相方を無視して、英司は仏頂面でペダルをこぎ始めた。(了)
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あおうま
本サイトをいろいろと更新しました。

中でも大きいのは終わりの後の夜物語全改稿のお知らせ  かな。

すでにこの「てがろぐ」でもSSを載せていますが、次の「第六話」から三話で初登場した伊藤敬文さん(26)×祈月清矢くん(16)の年齢差カプがメインになってしまいます。どうするかはかなり迷っていましたが、一か月以上たっちゃったし、萌えが収まる気配もないので決断することにしました。大まかなストーリーラインは変わりませんです。
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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #敬文×清矢

お題「映画鑑賞」「暗闇」

 敬文と活動映画見に来てる。たまの息抜きにどう? って誘ってきたから、俺も嬉しくなってついてった。ポップコーンやメロンソーダ買って、始まる前からワクワクしてる。

「俺、映画なんて大学生で初めて行ったよ」
「えぇー? 俺はたまにばあちゃんとか、母さんとか……あと友達とかとも! ま、こっちだって映画館県内に少ししかないけど」
「帝都までは行こうと思えば行けるんだけど、それよりは剣やる方が楽しくって。今も見るのは戦争とかアクションばっかり。だから女の子にはウケ悪くってさ」

 そうやっておしゃべりしながらチケット買って入ってくのはSF映画だった。巨大隕石が落ちてきて世界が滅亡する前に……!? っていう世紀末モノ。上映前の注意があって、照明が落ちて、ザワザワしてた館内も静かになる。

 俺はスクリーンの明りに照らされた年上の人の横顔を見る。
 女の子とかともこうやってデートしたりしたのかな。
 そん時、その子はやっぱり暗闇の中敬文のこと盗み見てたのかな。
 それとも、逆?
 話なんかそっちのけで敬文を見つめてると、ふいに目が合った。

「……清矢くん」

 敬文は小さく名前呼んで、座席の手すりの下に手をくぐらせて、素知らぬ風で膝上の俺の手にかぶせた。俺は思わずドキッとして、スクリーンに集中しようとする。大音量でパニックになった人たちの声が流れてる。カットは次々切り替わって、街角、家庭、マスコミに政府。そして特命機関の主人公たちの話に戻る。

 手のひらから優しい体温が伝わってくる。
 いっそぎゅって握ってくれたらいいのに。
 俺たちは傍から見たらただの少年と大人の二人組なのに、肩なんて抱いてきちゃったらどうしよ。

 筋には集中できなかった。クライマックスは主役が政府の人間を倒しながら戦術核発射ボタンを押して隕石を粉砕した。その後は長身モデル演じるヒロインとのラブシーンだ。俺はとくに感動はしなかった。すすり泣いてる人もいる。

 終わった後、少し人波が引けるまで待って、俺たちは座席を立った。食べ残しを捨てて、施設を出ると敬文が手を握ってくる。

「この後どこ行く? まっすぐ帰るなんて俺はいやだな」
「……あのね敬文。俺、やっぱ抱きしめてほしい。喫茶店とか行っちゃう前に」
「わかった。ちょっとこっちにおいで」

 敬文はちょっと陰のあるストイックな顔したまま、非常口に繋がるちょい奥まった廊下に俺を誘い込んで、リクエスト通りにした。

 背中を愛おしげに撫でてく手のひら。こめかみに押し付けられる唇。年齢も思い出も何にも共通点がないから、触れ合いだけに貪欲になる。暗闇の中に置き去りにされた迷子みたいに、俺は年上の男に力一杯すがり付いた。(了)
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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #敬文×清矢

お題「夢」「現実」

 漁港。夕陽。釣り客のふり。三拍子そろった旅情の中で、十歳年上の素敵な人が懐かしそうに笑う。
「そういやさ、小さいころの夢って何だった?」
「俺? えっと……ピアニスト」
「そっか。俺は……まぁ漁師じゃなかったな。魔物を倒して一廉の剣士になりたかった」
 伊藤敬文は釣果も気にせず、淡々と道具を片付け始める。ルアーと竿とバケツ。清矢も黙りこくって手伝う。釣った得物はみんな海にリリースした。そもそもこれはカモフラージュだ。清矢と敬文は親戚で四国の海を釣り人として回っている。そういう設定。内乱の世にあっても漁師は魚を獲り、農家は米を作る。漁協に許可をとって一日磯釣り。そうして段々、瀬戸内海へと北上していく。最終的には、陶春県青雲地方へ帰りつく。ふたりは、日本を逃避行していた。つい最近、北陸では武力衝突があったばかりだった。
 渦中にいたのが祈月清矢だ。兄に化けた魔族を討伐したのち、護衛されつつ帝都へと戻り、そこからの帰宅ルートは下総から大阪湾、四国というフェリー乗り継ぎ。十六歳の少年と二十六歳の男は、嘘をついて海沿いを旅した。
 清矢はバケツを下げて海を見る。テトラポットで埋まった磯を。きらめく波頭は潮騒を響かせ、自分たちは安宿に戻っていく。ここでは俺はナツ。伊藤ナツキ。戦争なんて行ったこともない。新聞記事はみんな他人事。魔法だって使えないし、敬文の姉さんの生んだ甥っ子なんだ。
「ナツ、行くよ」
 開襟の半そでに学生ズボンの伊藤ナツキは敬文についていく。潮からい匂いにも慣れつつあった。適当なラーメン屋で腹ごしらえして次のルートを計画するんだろう。テレビでやってる事件はホントはみんな清矢の家の出来事だった。行方不明になった兄。軍事施設の問題点。俺の身代わりに、護衛されながら電車で直接西国に移動して、案の定襲われた俺のトモダチ。俺の大好きな親友、詠(ヨミ)。
 釣り竿をもった183センチの男は清矢の肩を隠すように抱く。清矢はいつもは言わない弱音を吐く。
「ねえ、全部夢だったらいいのに。俺の叔父さんがホントに敬文だったらよかったのに」
「じゃあそうやって信じ込んで。君は俺の大事な甥。絶対無事に陶春に嫁いだお姉ちゃんのところまで送り届けるんだ」
「わかった」
 清矢は敬文のがっちりした大人の身体に寄り添う。不安と、罪悪感と、あとはスリルとほのかな憧れとが、心臓の鼓動を速める。これってホントに恋にも似てる。ああ、こんなに弱くっちゃ、幼馴染も守れない。すべて投げ出した安堵感につかのま身を浸しながら、清矢と敬文は日本のどこかを歩く。(了)