#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #[詠×清矢]お題:「抱擁」「ぬくもり」
櫻庭詠×祈月清矢(Arcadia Magic Academy Ver.)
11/25 23:02-23:57
衝撃シーン。そう思ってしまったのは何でだろうか。家宝のほとんどを持ち逃げし、返さないと頑強に言い張っていた兄、祈月夜空が、「カナリアのような」と呼ぶ少年と愛を交わし合ってるのを見てしまった。
それは一瞬だったけれど、段の入った長い髪を、さらりとウィリアムがすくいとった。そして頬に口づけする。軽いたわむれは、普段俺が詠(よみ)とするそれと変わりなくて、俺は何だかやりきれない気持ちになった。性格がいいタイプとは言えない俺は、ズボンのポケットに両手を入れてふらふらと歩み寄った。
「あ、清矢……」
兄は気まずい様子で俺を卑屈な目で見た。そんな風にしなくても、幸せだって笑顔をつくったって本当は構わないのに。ウィリアム・マリーベルは金色の髪に翠色の瞳という恵まれた美貌で俺をにらむ。
「何か問題が? 君と詠(よみ)もずいぶんと親しいようだが」
「いや。この交友関係に口出しするほど俺も野暮じゃない。ウィル・マリーベル、夜空の悪事には巻き込まれないようにな」
「悪事って……! なんだよお前は」
「マフィアとの付き合いは悪事だろう。清算しなけりゃ不幸にするだけだぞ。祈月当主からの訓戒だ」
「君にそこまで心配してもらう必要はない、セイヤ」
ウィル・マリーベルは涼し気にかわした。だが、三日後の授業「闇属性魔術論基礎101」の教室の奥に、彼は何気なく座っていた。
俺は違和感を持った。だって、一年先輩のこいつは、こんな属性基礎の授業はもう取り終えているはずだからだ。何か夜空関係の話だと直感した俺は、彼の隣に席をとった。詠(よみ)も充希もやがて来るだろうが、授業前のざわつきの中で要件だけは聞いておきたい。
「ウィル・マリーベル。話なら次の授業、俺は聖属性塔の予定だ。空いてるならそこまで自然に付き合えるが」
「ああ。夜空のマフィアとの繋がりの件については私も問題と思っている。それに関して、我々は協力して当たらないか?」
「悪くない。善意の第三者を巻き込み続けるのは俺が申し訳ないし、家の恥だ」
「オーケー。だが私は次の時間も闇属性塔だ。あらためて安息日に話をしよう」
約束をとりつけると、肩をぐっと押された。振り返ると詠(よみ)の精悍な顔があった。据わった目で俺を見つめている。
「清矢くん。二人で何の話?」
「ああ、まぁ、内密の話題だ。セイヤの瞳はスモーキークォーツに似ているな。美しい」
「……ウィル・マリーベル。あなたの瞳も美しいアクア・マリンだ」
俺は調子を合わせる。ウィル・マリーベルはくすりと笑って軽くキスして去っていった。じゃあ、夜空との仲も深読みしすぎなのか? 俺は頬杖をついた。
怒ったのは詠(よみ)である。
「清矢くん。説明して」
「何が? ここは外国だぞ。あの程度でいちいち目くじら立ててちゃあ……」
「俺はムリ。ぜってームリ。日本人だからさあ」
詠(よみ)はそう居直って隣に座ってぐっと距離をつめる。そして、並んだまま肩を露骨に抱いてきた。チャラい男がするようなあつかましい仕草が気に障って、俺は顔を背けてふりほどく。詠(よみ)はすごむ。
「何なわけ」
「どうしたんだよいきなり。もう授業始まるぞ」
「清矢くんはいつもそれだろ。俺の気持ちくらい考えろよ!」
マスターウィザードのマーキュリオが入ってきて口論は一時お預けになった。詠(よみ)は授業終わりまでずっとカタカタと机を指でたたいてた。鐘が鳴って課題が出され、同級生たちが引けていく。詠(よみ)は半ば、期待通りに、俺の手を強引に引いてくれた。 闇属性塔の大教室を出て、廊下の袋小路までたどりつく。そこの非常口のドアの内鍵を開けて、塔のほとりに出た。俺を壁に追い詰めて、両腕で閉じ込める。
「何でマリーベルにキスさせたの」
「もののはずみだよ。夜空にもしてた。別に、大した意味じゃ……」
「じゃあ俺とするキスもみんな大した意味じゃないって言うの? 清矢くん。俺お前の事殴りそう」
「……」
俺は逃げ場がなくて詠(よみ)の胴をぎゅっと抱きしめた。厚い胸板とぬくもり。一気に後悔と切ない想いがこみ上げる。こんな風にフラフラしてたらすぐに失ってしまう。
「ごめん。ホントに。お前がしてたら怒るくせに」
「マジでムカつく。じゃあ自分からお詫びして」
その言葉に応える方法はいくつかあるだろう。でも俺はいちばんシンプルなものを選んだ。
「愛してる。こんな異国の任務にまで詠(よみ)に付き合ってもらってるのは俺のほうだ。何でも言うこと聞く。ふたりだけのときは……」
「本気だな? 絶対逃さないから」
詠(よみ)の声も瞳もぎらついたナイフみたいだ。俺は、観念して耳のあたりにキスする。肺まで締め付けるぐらいにきついきつい抱擁が来る。ホントは殴りつけたいんだろう。
「明日、軍事訓練の後。好きなだけヤラせて」
「……わかった」
俺はうなだれてしおらしく了解する。……まったく、とんだ火中の栗だ。(了)
お題:「抱擁」「ぬくもり」
櫻庭詠×祈月清矢(Arcadia Magic Academy Ver.)
11/25 23:02-23:57
衝撃シーン。そう思ってしまったのは何でだろうか。家宝のほとんどを持ち逃げし、返さないと頑強に言い張っていた兄、祈月夜空が、「カナリアのような」と呼ぶ少年と愛を交わし合ってるのを見てしまった。
それは一瞬だったけれど、段の入った長い髪を、さらりとウィリアムがすくいとった。そして頬に口づけする。軽いたわむれは、普段俺が詠(よみ)とするそれと変わりなくて、俺は何だかやりきれない気持ちになった。性格がいいタイプとは言えない俺は、ズボンのポケットに両手を入れてふらふらと歩み寄った。
「あ、清矢……」
兄は気まずい様子で俺を卑屈な目で見た。そんな風にしなくても、幸せだって笑顔をつくったって本当は構わないのに。ウィリアム・マリーベルは金色の髪に翠色の瞳という恵まれた美貌で俺をにらむ。
「何か問題が? 君と詠(よみ)もずいぶんと親しいようだが」
「いや。この交友関係に口出しするほど俺も野暮じゃない。ウィル・マリーベル、夜空の悪事には巻き込まれないようにな」
「悪事って……! なんだよお前は」
「マフィアとの付き合いは悪事だろう。清算しなけりゃ不幸にするだけだぞ。祈月当主からの訓戒だ」
「君にそこまで心配してもらう必要はない、セイヤ」
ウィル・マリーベルは涼し気にかわした。だが、三日後の授業「闇属性魔術論基礎101」の教室の奥に、彼は何気なく座っていた。
俺は違和感を持った。だって、一年先輩のこいつは、こんな属性基礎の授業はもう取り終えているはずだからだ。何か夜空関係の話だと直感した俺は、彼の隣に席をとった。詠(よみ)も充希もやがて来るだろうが、授業前のざわつきの中で要件だけは聞いておきたい。
「ウィル・マリーベル。話なら次の授業、俺は聖属性塔の予定だ。空いてるならそこまで自然に付き合えるが」
「ああ。夜空のマフィアとの繋がりの件については私も問題と思っている。それに関して、我々は協力して当たらないか?」
「悪くない。善意の第三者を巻き込み続けるのは俺が申し訳ないし、家の恥だ」
「オーケー。だが私は次の時間も闇属性塔だ。あらためて安息日に話をしよう」
約束をとりつけると、肩をぐっと押された。振り返ると詠(よみ)の精悍な顔があった。据わった目で俺を見つめている。
「清矢くん。二人で何の話?」
「ああ、まぁ、内密の話題だ。セイヤの瞳はスモーキークォーツに似ているな。美しい」
「……ウィル・マリーベル。あなたの瞳も美しいアクア・マリンだ」
俺は調子を合わせる。ウィル・マリーベルはくすりと笑って軽くキスして去っていった。じゃあ、夜空との仲も深読みしすぎなのか? 俺は頬杖をついた。
怒ったのは詠(よみ)である。
「清矢くん。説明して」
「何が? ここは外国だぞ。あの程度でいちいち目くじら立ててちゃあ……」
「俺はムリ。ぜってームリ。日本人だからさあ」
詠(よみ)はそう居直って隣に座ってぐっと距離をつめる。そして、並んだまま肩を露骨に抱いてきた。チャラい男がするようなあつかましい仕草が気に障って、俺は顔を背けてふりほどく。詠(よみ)はすごむ。
「何なわけ」
「どうしたんだよいきなり。もう授業始まるぞ」
「清矢くんはいつもそれだろ。俺の気持ちくらい考えろよ!」
マスターウィザードのマーキュリオが入ってきて口論は一時お預けになった。詠(よみ)は授業終わりまでずっとカタカタと机を指でたたいてた。鐘が鳴って課題が出され、同級生たちが引けていく。詠(よみ)は半ば、期待通りに、俺の手を強引に引いてくれた。 闇属性塔の大教室を出て、廊下の袋小路までたどりつく。そこの非常口のドアの内鍵を開けて、塔のほとりに出た。俺を壁に追い詰めて、両腕で閉じ込める。
「何でマリーベルにキスさせたの」
「もののはずみだよ。夜空にもしてた。別に、大した意味じゃ……」
「じゃあ俺とするキスもみんな大した意味じゃないって言うの? 清矢くん。俺お前の事殴りそう」
「……」
俺は逃げ場がなくて詠(よみ)の胴をぎゅっと抱きしめた。厚い胸板とぬくもり。一気に後悔と切ない想いがこみ上げる。こんな風にフラフラしてたらすぐに失ってしまう。
「ごめん。ホントに。お前がしてたら怒るくせに」
「マジでムカつく。じゃあ自分からお詫びして」
その言葉に応える方法はいくつかあるだろう。でも俺はいちばんシンプルなものを選んだ。
「愛してる。こんな異国の任務にまで詠(よみ)に付き合ってもらってるのは俺のほうだ。何でも言うこと聞く。ふたりだけのときは……」
「本気だな? 絶対逃さないから」
詠(よみ)の声も瞳もぎらついたナイフみたいだ。俺は、観念して耳のあたりにキスする。肺まで締め付けるぐらいにきついきつい抱擁が来る。ホントは殴りつけたいんだろう。
「明日、軍事訓練の後。好きなだけヤラせて」
「……わかった」
俺はうなだれてしおらしく了解する。……まったく、とんだ火中の栗だ。(了)