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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #ComingOutofMagicianYozora #詠×清矢

お題「一週間」櫻庭詠(さくらば・よみ)×祈月清矢(きげつ・せいや)

 にちようび、詠とふたりでゴント山デートをする。第三層にある山小屋の二段ベッド下段に横たわった詠は、半裸のままで誘いをかけてきた。
「清矢くん。もうちょっとイチャつこうぜ~。俺、まだ足りねぇ」
「ちゃあんと最後までしたのにもっと欲しいのかよ。腹八分目って言うだろ」
 俺は上半身に羽織ったシャツのボタンを閉めつつ、そんな風に突き放す。詠は歯まで見せてむくれた。
「ヤダ。もう一回抱きあわねぇと俺、山下りねえ」
「ワガママな詠だな~。ちょっとだけだぞ」
 俺はそう言ってベッドに戻ってやり、横たわる詠の短い髪をごしごしと撫でた。詠は心地よさそうに眼をつぶる。そして膝に頭をのっけてぱたぱたとしっぽを振った。俺は石鹸のにおいを嗅ぎながら詠に告げた。
「――そういや、来週はローク神殿の巫女さんたちの戦闘訓練に付き合わなきゃいけないんだ」
「ローク神殿の? どして?」
「風塔にいるやつらはまだ一度もこの山に来たことねーんだって。それじゃアルカディア魔法大学に入学した意味もないからって、合宿形式でって話になってるんだけど」
「ええ、じゃあこの山荘使うのか?」
「うん、風属性塔で貸し切りにするって。最初は一層からってどこまで行けるかって話だよ」
「そっか……じゃ、じゃあ俺一週間清矢くんとエッチできねぇのか?」
 詠はしゅんとする。所属塔が違うから、互いに同室の相手は別だ。この山小屋が埋まってしまえば、日常的に使える逢引の場所はなくなる。俺は軽く笑って詠のあご下を撫でた。
「仕方ねぇだろ。一週間後は期待してるから、とっておきのデートコース頼むぜ」
「うん、俺、考えとく……」
 ぽつぽつと答えた詠はしゅんとしていた。
 げつようび。風塔のメンツとともに、ゴント山三層の山小屋に移った。行軍なんかしたことない巫女さんたちはまず三層まで行き来するだけでも大騒ぎだ。ゴブリンに悲鳴を上げ、ウィル・オ・ウィスプに絡まれて逃げまわり、クランプス相手に鈍器で立ち向かったりもする。刺激しないよう𠮟りつけ、魔法で射貫いてやり、クランプスの注意を引くためにハーモニカで挑発したりした。山小屋についてからも料理係を押し付けられ、何もしないロークヴァランドやレダに苛立ちつつ、十人分以上のカレーを作る。飯食って体洗ったころにはもう疲れ果てて、充希とともに気絶。
 かようび。予定では四層以上を目指す予定だったけど、前日の惨状に首をひねった先生が、一層・二層での基礎トレを望んだ。剣士の俺、充希、そしてボルィムールが前衛として敵とやり合うすきに、後ろから詠唱して魔法を当てるだけの簡単なお仕事だ。だけど魔石を手にして顔を輝かせたり、属性を覚えて少しずつ自信をつけてく様なんかははたから見ていても充実感がある。午後になると詠がひとりでやってきた。充希が腕組みしながら首をかしげる。
「どーしたの詠ちゃん、一人で出稼ぎ?」
「え、えっとっ、手伝いに来た。剣士、足りてねぇだろ? 俺でよければ加勢するぜ」
 詠は目いっぱいこき使われて次は聖属性塔にいるローク神殿の巫女、テヌー・イリアンをつれてくるよう言われて帰ってった。
 すいようび。詠がテヌーを連れてきた。テヌーは聖属性塔の仲間に連れまわされてるみたいで、風塔にいる同僚たちよりは戦闘慣れしていた。
 もくようび。詠は俺と二人で水汲み役を買ってでた。自分も戦闘し通しで疲れてるはずなのに、詠はキラッキラな笑顔で「俺が代わりに運んでってやるよ清矢くん」と頼りになる。井戸から帰る途中に横顔にキスしたそうな空気出してたけど、俺はみんなに見られちゃうかなと思ってさりげなく避けた。
 きんようび。音楽仲間のドリス・メイツェンが負傷しちまって俺は自分を責めてた。ドリスだけを守るわけにはいかねぇけど、大事な仲間に怪我させた。前衛失格だ。ローク神殿の巫女たちは余所者のドリスには親身になってくれねーから、俺がヒールしてやって仕事を代わって上げ膳据え膳してやった。
 どようび。下山の日だ。結局目標の六層まで踏破することはできなかった。なんつーか、ドリスのことは怪我しても蚊帳の外みたいな、ロークヴァランドの位階は高いから飯炊きなんかできませんみたいな、巫女たちのお高く留まったところが問題なんじゃねーかなと思う。敵の構成を説明したり、役割を割り振るときにも、しれーっと聞いてるだけで食いついてくるぐらいの気概がみられない。叱れば俺は悪者にされる。特殊な位階らしいロークヴァランドとレダの前では戦士のボルィムールも畏まってしまって意見が通らない。
 そんでもう一回にちようび。詠に連れられてペンシル波止場まで出て行って、砂浜でまったりした後カフェでお茶しつつ俺はそんなこと愚痴った。詠は金曜日以降山に来なかったからか、耳を傾けつつもちょっと拗ねてみせた。
「清矢くんはそう思ってんだ。まぁドリスは美人だし、バイオリンもうまいもんな」
「美人とかバイオリンとかは何にも関係ねぇだろ」
「そっかな。清矢くん、ドリスにはすげー親切にしてるよな。仲もいいしさ」
 あんまりにも幼稚すぎる勘ぐりに俺は本気で腹立った。
「そういう話じゃなくね? 俺はローク神殿の巫女たちのことを批判してんの」
 ドリスの味方をした俺に、詠はしゅんとした。
「ゴメン……でも二人の付き合ってるって噂すげーし、俺だって普通にはしてらんねぇよ。だって清矢くん俺が訪ねていっても冷たいんだもん……」
 詠はそう言って小箱を差し出してきた。中には七つのキーホルダーが入ってた。木彫りでできた人形で、どれもデザインが違ってる。アルカディア島への観光土産みたいだった。詠がうなだれて打ち明ける。
「俺な、これ買ってきてた。風塔のみんながちゃんと合宿終われたら一人ずつに記念で渡してほしいって思って」
 ボルィムール、ロークヴァランド、レダ、ミル、ドリス、それに俺と充希。たしかに七つ分ある。詠は気まずそうに言って、中座しようとした。
「今、そんなことする気分じゃねーよな、ゴメン。早合点だった」
「詠、待て!」
 俺は弾かれたように立ち上がって、詠の頬を両手で抱え込み、真正面から堂々とキスした。カフェの客たちがひゅう、と口笛を吹く。
「せ、せいやくん」
 一週間が待ちきれなくて、火曜日にはもう俺に会いに来ちまってた詠。
 水曜日、テヌーを守りながら律儀にやってきてくれた強い詠。
 木曜日、二人きりになりたくてそわそわして、ちょっとした隙にはすぐにキスをねだってきたこらえ性のない詠。
 金曜日、ちょっと冷たくされただけでショックで姿を見せなかった詠。
 土曜日はこのキーホルダーを買いに街に出てたのかな。芸のないデートコースも一応は考えてたのかな。
 不器用でいじらしいまっすぐな詠が可愛くてたまらなかった。俺はキーホルダーの中で一番クールそうなオッサンを選んで、指にかけてくるくる回す。
「俺も半分、お金出すよ。詠ホントにありがとな。俺たち風塔のことまで想ってくれてさ」
「ん、でもさ、今日だけは清矢のこと全部、俺にくれない……? 全然一緒にいられなくってキツかった」
 コーヒーのにおいなんかさせて詠はあざとくおねだりする。否やはない。あるわけない。一週分の寂しさを埋めるために、俺たちは軽やかに喫茶店を出てった。(了)