Entries

Icon of admin
あおうま
池波正太郎『夜明けの星』文春文庫 一九九八年

父を殺され、仇討ちのため仕官もできなかった足軽の子・堀辰蔵。江戸にたどりついた彼は、飢えのため父の形見の銀煙管を引き取ってもらおうとしたが、叶わず、逆上してその煙管師を殺してしまう。辰蔵はその後、裏社会に拾われ、剣の腕で生きる暗殺者となった。しかし、煙管師にはひとりの娘がいた。彼女の名はお道といい、やがて小間物問屋・若松屋の鬼女将に拾われ、苦難のはてに幸せをつかむ。一方、辰蔵は殺人者に身を落としていたが、彼女の無事だけは唯一の良心で気にかけつづけていた。

という話である。さて、お道と辰蔵の人生はいかに交わるか。そこが見どころのはずだが、辰蔵の仇討ちのほうが気にかかってしまい、延々とそっちを期待していたwwww
筆致は簡素で、わかりやすさ優先である。だからプロット命のはずだが、そういう熱い展開はあんまりないまま最後までいってしまう。これは元は短編だったらしく、圧縮した尺ならば運命の妙や深い人情にしんみりできたはずだが、文庫本一冊という長さなので、もっと違う胸躍る展開を……期待してしまった……あと作中の女に対する男の視線がちょっとなぁ、今読むにはキツイ感じがする。

一瞬、佐吉は何ともいえない眼つきになり、まじまじと女房の顔を見つめたものだから、おさわが、
「あれ、嫌な。何で、そんなに見なさるのさ」
「女という生き物は……」
「もう、およしなさいよ、生き物なんていいなさるのは……」
「いや、お前の、その肚の底にも、亭主のおれが到底わからぬ性根が隠されているとおもうと、何だか空恐ろしくなってきた」
「何をいってなさるんですよ、私の肚の底なんか、何もありゃあしない。からっぽにきまってますよ」
「そりゃ、いまのお前には何もあるまいが、いざとなったときの女という生き……」
「また生きものかえ、親分。いいかげんにしておくんなさいよ」


お道の玉の輿の裏にある女の策略というものを怖がる視線なのだが、江戸時代ということをさしひいても、まぁ当然の蔑視ではあるが、作中での正義漢によるものなので、キツイw
むしろ握りつぶされたいくつもの性暴力だってあったわけで……。
それを闇に葬らなかったのが、作中で皆に嫌われているパワハラお内儀・お徳なのである。彼女はやはり有能だったし、情ももっていて、しかも正義感まであったということか……。そのへんがやっぱり面白いね。あとは江戸の香具師たちの裏社会っていうのも楽しく感じた。剣戟については全然くわしくありませんwww