お題「ハロウィン」「悪戯」伊藤敬文26歳×祈月清矢16歳
十月末日。文化祭が終わった後に祈月清矢はイライラしながら帰途についた。実家にたどりついて、おばあちゃんや母親がお茶菓子を薦めてくるにもかかわらず、即座に自分の部屋に引っ込んだ。ひょこり、と男が顔を出す。居候している軍閥の参謀、伊藤敬文だった。
穏やかで人畜無害そうな、だけど精悍で整った。そんな十歳年上の男である。
「どうした、清矢くん。今日はハロウィンだろ、チョコの詰め合わせ買ってきたってよ」
「敬文。あのさ、俺……恥ずかしい」
「学校で何かあったのか。俺になら話せる?」
敬文はともかく清矢を甘やかした。ベッドに寝転んでしまった清矢のそばに座り込んで、頭を撫でてくれる。清矢は目を細めて愚痴を言った。
「今日、文化祭って言ったっしょ。俺ね……女装させられた。お菓子くれなきゃ何とやらをやれって。詠も広大もバカ受け」
「えーっと……」
敬文は目線をうろつかせて困る。そしてそっと耳うちする。
「可愛い、と思うけど、恥ずかしかったんだね。だって清矢くんは男の子だしな」
「俺、女装しろって言われるのマジやだ。だからって吸血鬼とかミイラとかもさ……そんで、結局メイドの真似事」
「可愛そうに、って言っておけばいいんだろうけど……ちょっと見たかったな」
清矢はがばっと起き上がって敬文を釣り目で睨みつけた。女顔で外見を褒められるのはいいのだが、いざ女装しろと言われると怒るのがこの少年のプライドだった。
「じゃあ敬文も女装してよ。フリフリのドレス着ればいい。俺はね、そういうのヤなの」
「俺がフリフリのドレスは視覚の暴力だと思うけど、清矢くんのは可愛いかもしれないじゃないか」
「違うもん。だって女の子ほどかわいくねーじゃん、ごついし」
そう言って顔を覆う少年の隣に座り込んで、敬文は鋭い肩を抱きこんだ。
「でも今しか似合わないよ?」
「に、似合ってねぇよ! 敬文。俺怒るよ。結局女の子の代わりが欲しいの?」
クリティカルな質問を投げかける。伊藤敬文はたっぷり困ったみたいだった。
「ええと、要はスカートがイヤなんだろ。だけど、ハロウィーンは仮装なわけだし、魔物の恰好するよりはメイドの方がましじゃないか」
「スカート。履いてほしいの」
そう聞くと、敬文は恥ずかしそうにうなずいた。
「あっそ、じゃあ着てあげる」
清矢はそう言って堂々その場でお着換えしはじめた。男子高校生の制服を勢いよく脱ぎ捨て、サブバッグの中に乱暴にしまいこまれたメイド服を身に着ける。タイツまでしっかり履いて、ヘッドドレスをつけてカテーシーの仕草をした。もはや、ギャグである。伊藤敬文は目線をよそにずらして後ろ頭をかいた。
「えっと……お菓子あげないと悪戯なのかな」
「タカフミさん。トリックオアトリート♡」
自棄になってにこっと微笑む姿は、上背のある美少女にしか見えない。有識読みの呼び捨てでなく名前をさん付けされて敬文は笑みを隠しきれなかった。
「お菓子は下の階だからそっちに行かない?」
「はぁ? この恰好で? ありえねぇ! ないなら悪戯だぜ」
「だ、だいたいどんな悪戯するの? 俺だって悪いから、男子高校生の妄想みたいな内容しか浮かばないけど……」
「えー?」
清矢はにやついて小首をかしげる。
「その男子高校生の妄想みたいな内容ってのは何? 教えてくれたら、悪戯しねぇ」
「あーっダメダメ! 大人をからかわない! だいたいスカートなんてダメだよな、やっぱり。だってめくったらすぐ脚に触れちゃうし……」
「下着も見えちゃうしな。なんで女子はこれで平気かね?」
スカートの前裾を持ってぺろりと持ち上げると、年上男の顔は剣呑になった。
「バカだなっ……! パンツは男物じゃないか」
「えーっ、じゃあ女物がよかったの? 敬文のスケベ」
「もうやめる! 下に行くよ、お菓子あるんだから!」
そう言ってせかせか階下に降りて大声で名前を呼んでくる。おかげで清矢は、女装姿をばあちゃんにもかーちゃんにも披露するハメになった。いつもお世話になってるんだから、敬文さんにお茶入れてあげなさいよ、ついでに母さんにもおばあちゃんにも、と給仕を言いつけられたのも、ご愛敬である。(了)
#敬文×清矢 #[創作BL版深夜の60分一本勝負]
十月末日。文化祭が終わった後に祈月清矢はイライラしながら帰途についた。実家にたどりついて、おばあちゃんや母親がお茶菓子を薦めてくるにもかかわらず、即座に自分の部屋に引っ込んだ。ひょこり、と男が顔を出す。居候している軍閥の参謀、伊藤敬文だった。
穏やかで人畜無害そうな、だけど精悍で整った。そんな十歳年上の男である。
「どうした、清矢くん。今日はハロウィンだろ、チョコの詰め合わせ買ってきたってよ」
「敬文。あのさ、俺……恥ずかしい」
「学校で何かあったのか。俺になら話せる?」
敬文はともかく清矢を甘やかした。ベッドに寝転んでしまった清矢のそばに座り込んで、頭を撫でてくれる。清矢は目を細めて愚痴を言った。
「今日、文化祭って言ったっしょ。俺ね……女装させられた。お菓子くれなきゃ何とやらをやれって。詠も広大もバカ受け」
「えーっと……」
敬文は目線をうろつかせて困る。そしてそっと耳うちする。
「可愛い、と思うけど、恥ずかしかったんだね。だって清矢くんは男の子だしな」
「俺、女装しろって言われるのマジやだ。だからって吸血鬼とかミイラとかもさ……そんで、結局メイドの真似事」
「可愛そうに、って言っておけばいいんだろうけど……ちょっと見たかったな」
清矢はがばっと起き上がって敬文を釣り目で睨みつけた。女顔で外見を褒められるのはいいのだが、いざ女装しろと言われると怒るのがこの少年のプライドだった。
「じゃあ敬文も女装してよ。フリフリのドレス着ればいい。俺はね、そういうのヤなの」
「俺がフリフリのドレスは視覚の暴力だと思うけど、清矢くんのは可愛いかもしれないじゃないか」
「違うもん。だって女の子ほどかわいくねーじゃん、ごついし」
そう言って顔を覆う少年の隣に座り込んで、敬文は鋭い肩を抱きこんだ。
「でも今しか似合わないよ?」
「に、似合ってねぇよ! 敬文。俺怒るよ。結局女の子の代わりが欲しいの?」
クリティカルな質問を投げかける。伊藤敬文はたっぷり困ったみたいだった。
「ええと、要はスカートがイヤなんだろ。だけど、ハロウィーンは仮装なわけだし、魔物の恰好するよりはメイドの方がましじゃないか」
「スカート。履いてほしいの」
そう聞くと、敬文は恥ずかしそうにうなずいた。
「あっそ、じゃあ着てあげる」
清矢はそう言って堂々その場でお着換えしはじめた。男子高校生の制服を勢いよく脱ぎ捨て、サブバッグの中に乱暴にしまいこまれたメイド服を身に着ける。タイツまでしっかり履いて、ヘッドドレスをつけてカテーシーの仕草をした。もはや、ギャグである。伊藤敬文は目線をよそにずらして後ろ頭をかいた。
「えっと……お菓子あげないと悪戯なのかな」
「タカフミさん。トリックオアトリート♡」
自棄になってにこっと微笑む姿は、上背のある美少女にしか見えない。有識読みの呼び捨てでなく名前をさん付けされて敬文は笑みを隠しきれなかった。
「お菓子は下の階だからそっちに行かない?」
「はぁ? この恰好で? ありえねぇ! ないなら悪戯だぜ」
「だ、だいたいどんな悪戯するの? 俺だって悪いから、男子高校生の妄想みたいな内容しか浮かばないけど……」
「えー?」
清矢はにやついて小首をかしげる。
「その男子高校生の妄想みたいな内容ってのは何? 教えてくれたら、悪戯しねぇ」
「あーっダメダメ! 大人をからかわない! だいたいスカートなんてダメだよな、やっぱり。だってめくったらすぐ脚に触れちゃうし……」
「下着も見えちゃうしな。なんで女子はこれで平気かね?」
スカートの前裾を持ってぺろりと持ち上げると、年上男の顔は剣呑になった。
「バカだなっ……! パンツは男物じゃないか」
「えーっ、じゃあ女物がよかったの? 敬文のスケベ」
「もうやめる! 下に行くよ、お菓子あるんだから!」
そう言ってせかせか階下に降りて大声で名前を呼んでくる。おかげで清矢は、女装姿をばあちゃんにもかーちゃんにも披露するハメになった。いつもお世話になってるんだから、敬文さんにお茶入れてあげなさいよ、ついでに母さんにもおばあちゃんにも、と給仕を言いつけられたのも、ご愛敬である。(了)#敬文×清矢 #[創作BL版深夜の60分一本勝負]