お題「共有」#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #詠×清矢
「なーなー清矢くん、コレ使っていい?」
B組の詠が清矢の机に置いてある英和辞典を手に取った。清矢はもちろん文句を言う。
「詠、前回も俺から借りてったろ? いい加減自分のを使えよ」
「へへ。これは俺と共有ってことで……」
詠はそう言って軽やかに清矢の辞書を持って去っていった。清矢のクラスでは英語の時間は終わったから問題はないが、詠の成績のほうが心配になってくる。予習とかしてねーんじゃねぇのかアイツ。
恋人関係を解消してからしばらく、詠とは話をしなかった。だけど、ふいに昼休みにやってきて、辞書を借りていくようになった。これは詠なりの関係の修復なんだと、清矢は気づいている。だからそんな甘えを許していた。
もともと二人の関係は、恋人関係といっても親しい友人の域をそんなには出ていない。学生だから、自制がきいていた。乗り換えた軍閥参謀の敬文とはどうかというと、際どい戯れは多いものの、決定的に性的な時間を過ごしたことはない。詠が何をどう思っているのか、語り合ったことはなくて、謎だった。
「ありがと、清矢くん」
詠は放課後に辞書を返しに来た。清矢はうなずき、それを持ち帰った。家に帰り、ピアノやらハープやら剣術やらの訓練があった後、机上に辞書を持ちだす。明日の長文読解の予習をしなければならなかった。
「あれっ」
見ると、手紙がはさまっていた。ずいぶん古風なことするんだなと思いながらもそれを読んでみる。
「清矢くん。俺ホントは、恋人に戻りたい。清矢が敬文さんのこと好きになったのは分かったけど、でも十歳も年上じゃん。俺ともっと遊ぼうぜ。歌謡曲の話したり、剣で試合したりとかさ。清矢くんの特別じゃなくなっちまったって思うと、腕がちぎれそうだ」
清矢は困り、だけどしっかり手紙を抽斗に保存した。そして考えに考え抜いて返事を書く。
「詠へ。詠が特別じゃなくなったってことはねぇぜ? 歌謡曲の話だって、剣の試合だって、恋人じゃなくたってできることだ。ってか、友達としてはやっぱ一番大事って思ってる。それじゃダメだって言われると俺は困っちまうけど……親友じゃ、ダメなのか」
そうして同じページに手紙を挟んでおいた。心変わりは清矢からだから、かなり虫がいいのは分かっている。だけど年上の男は庇護と知恵をくれる。情勢が目まぐるしく動く中、清矢は彼を手放せなかった。
次の日にも詠は素知らぬ顔で辞書を借りていった。挟まれていたのは単語カード。
「Lament,Love is Over」(愛は終わったと嘆く)
学校指定の単語帳の例文だった。清矢はその案外綺麗な字を見て考え込む。共有ってワケにもいかねーもんな。たっぷり残っている情に気づきながらも、清矢は辞書を今日も律儀に持ち帰った。(了)
「なーなー清矢くん、コレ使っていい?」
B組の詠が清矢の机に置いてある英和辞典を手に取った。清矢はもちろん文句を言う。
「詠、前回も俺から借りてったろ? いい加減自分のを使えよ」
「へへ。これは俺と共有ってことで……」
詠はそう言って軽やかに清矢の辞書を持って去っていった。清矢のクラスでは英語の時間は終わったから問題はないが、詠の成績のほうが心配になってくる。予習とかしてねーんじゃねぇのかアイツ。
恋人関係を解消してからしばらく、詠とは話をしなかった。だけど、ふいに昼休みにやってきて、辞書を借りていくようになった。これは詠なりの関係の修復なんだと、清矢は気づいている。だからそんな甘えを許していた。
もともと二人の関係は、恋人関係といっても親しい友人の域をそんなには出ていない。学生だから、自制がきいていた。乗り換えた軍閥参謀の敬文とはどうかというと、際どい戯れは多いものの、決定的に性的な時間を過ごしたことはない。詠が何をどう思っているのか、語り合ったことはなくて、謎だった。
「ありがと、清矢くん」
詠は放課後に辞書を返しに来た。清矢はうなずき、それを持ち帰った。家に帰り、ピアノやらハープやら剣術やらの訓練があった後、机上に辞書を持ちだす。明日の長文読解の予習をしなければならなかった。
「あれっ」
見ると、手紙がはさまっていた。ずいぶん古風なことするんだなと思いながらもそれを読んでみる。
「清矢くん。俺ホントは、恋人に戻りたい。清矢が敬文さんのこと好きになったのは分かったけど、でも十歳も年上じゃん。俺ともっと遊ぼうぜ。歌謡曲の話したり、剣で試合したりとかさ。清矢くんの特別じゃなくなっちまったって思うと、腕がちぎれそうだ」
清矢は困り、だけどしっかり手紙を抽斗に保存した。そして考えに考え抜いて返事を書く。
「詠へ。詠が特別じゃなくなったってことはねぇぜ? 歌謡曲の話だって、剣の試合だって、恋人じゃなくたってできることだ。ってか、友達としてはやっぱ一番大事って思ってる。それじゃダメだって言われると俺は困っちまうけど……親友じゃ、ダメなのか」
そうして同じページに手紙を挟んでおいた。心変わりは清矢からだから、かなり虫がいいのは分かっている。だけど年上の男は庇護と知恵をくれる。情勢が目まぐるしく動く中、清矢は彼を手放せなかった。
次の日にも詠は素知らぬ顔で辞書を借りていった。挟まれていたのは単語カード。
「Lament,Love is Over」(愛は終わったと嘆く)
学校指定の単語帳の例文だった。清矢はその案外綺麗な字を見て考え込む。共有ってワケにもいかねーもんな。たっぷり残っている情に気づきながらも、清矢は辞書を今日も律儀に持ち帰った。(了)