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あおうま
ひっそりと夜空の話・第一話「万聖節の夜物語」を更新していました。
このブログに断簡をアップしてはいますが、
弟・清矢の話をプラスするので、夜空が悪役に変更になっています。
大きな変更は以下のとおり。

1.夜空が11歳当時に新月刀その他を父に無断で持ち逃げした。
2.故郷の幼馴染や軍閥の関係者はそれを追っている。

以前の仲良しマジシャンBLが好きだった向きには申し訳ないのですが、
夜空主人公だとなかなかボス「日の輝巫女」討伐までいかないので
こんな感じです。ただ、このシリーズは魔法学園物としてまったり続ける予定でもありますので
お手すきのときに読んでいただければ充分かなとも思います。
以上、ご報告でした。

清矢側の設定などのお話については今年中にあげられたらと思います。
ショタショタな熱血ワンコ攻め×クーデレ高飛車姫受け です。
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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #[詠×清矢]
お題:「抱擁」「ぬくもり」
櫻庭詠×祈月清矢(Arcadia Magic Academy Ver.)
11/25 23:02-23:57

 衝撃シーン。そう思ってしまったのは何でだろうか。家宝のほとんどを持ち逃げし、返さないと頑強に言い張っていた兄、祈月夜空が、「カナリアのような」と呼ぶ少年と愛を交わし合ってるのを見てしまった。
 それは一瞬だったけれど、段の入った長い髪を、さらりとウィリアムがすくいとった。そして頬に口づけする。軽いたわむれは、普段俺が詠(よみ)とするそれと変わりなくて、俺は何だかやりきれない気持ちになった。性格がいいタイプとは言えない俺は、ズボンのポケットに両手を入れてふらふらと歩み寄った。
「あ、清矢……」
 兄は気まずい様子で俺を卑屈な目で見た。そんな風にしなくても、幸せだって笑顔をつくったって本当は構わないのに。ウィリアム・マリーベルは金色の髪に翠色の瞳という恵まれた美貌で俺をにらむ。
「何か問題が? 君と詠(よみ)もずいぶんと親しいようだが」
「いや。この交友関係に口出しするほど俺も野暮じゃない。ウィル・マリーベル、夜空の悪事には巻き込まれないようにな」
「悪事って……! なんだよお前は」
「マフィアとの付き合いは悪事だろう。清算しなけりゃ不幸にするだけだぞ。祈月当主からの訓戒だ」
「君にそこまで心配してもらう必要はない、セイヤ」
 ウィル・マリーベルは涼し気にかわした。だが、三日後の授業「闇属性魔術論基礎101」の教室の奥に、彼は何気なく座っていた。
 俺は違和感を持った。だって、一年先輩のこいつは、こんな属性基礎の授業はもう取り終えているはずだからだ。何か夜空関係の話だと直感した俺は、彼の隣に席をとった。詠(よみ)も充希もやがて来るだろうが、授業前のざわつきの中で要件だけは聞いておきたい。
「ウィル・マリーベル。話なら次の授業、俺は聖属性塔の予定だ。空いてるならそこまで自然に付き合えるが」
「ああ。夜空のマフィアとの繋がりの件については私も問題と思っている。それに関して、我々は協力して当たらないか?」
「悪くない。善意の第三者を巻き込み続けるのは俺が申し訳ないし、家の恥だ」
「オーケー。だが私は次の時間も闇属性塔だ。あらためて安息日に話をしよう」
 約束をとりつけると、肩をぐっと押された。振り返ると詠(よみ)の精悍な顔があった。据わった目で俺を見つめている。
「清矢くん。二人で何の話?」
「ああ、まぁ、内密の話題だ。セイヤの瞳はスモーキークォーツに似ているな。美しい」
「……ウィル・マリーベル。あなたの瞳も美しいアクア・マリンだ」
 俺は調子を合わせる。ウィル・マリーベルはくすりと笑って軽くキスして去っていった。じゃあ、夜空との仲も深読みしすぎなのか? 俺は頬杖をついた。
 怒ったのは詠(よみ)である。
「清矢くん。説明して」
「何が? ここは外国だぞ。あの程度でいちいち目くじら立ててちゃあ……」
「俺はムリ。ぜってームリ。日本人だからさあ」
 詠(よみ)はそう居直って隣に座ってぐっと距離をつめる。そして、並んだまま肩を露骨に抱いてきた。チャラい男がするようなあつかましい仕草が気に障って、俺は顔を背けてふりほどく。詠(よみ)はすごむ。
「何なわけ」
「どうしたんだよいきなり。もう授業始まるぞ」
「清矢くんはいつもそれだろ。俺の気持ちくらい考えろよ!」
 マスターウィザードのマーキュリオが入ってきて口論は一時お預けになった。詠(よみ)は授業終わりまでずっとカタカタと机を指でたたいてた。鐘が鳴って課題が出され、同級生たちが引けていく。詠(よみ)は半ば、期待通りに、俺の手を強引に引いてくれた。 闇属性塔の大教室を出て、廊下の袋小路までたどりつく。そこの非常口のドアの内鍵を開けて、塔のほとりに出た。俺を壁に追い詰めて、両腕で閉じ込める。
「何でマリーベルにキスさせたの」
「もののはずみだよ。夜空にもしてた。別に、大した意味じゃ……」
「じゃあ俺とするキスもみんな大した意味じゃないって言うの? 清矢くん。俺お前の事殴りそう」
「……」
 俺は逃げ場がなくて詠(よみ)の胴をぎゅっと抱きしめた。厚い胸板とぬくもり。一気に後悔と切ない想いがこみ上げる。こんな風にフラフラしてたらすぐに失ってしまう。
「ごめん。ホントに。お前がしてたら怒るくせに」
「マジでムカつく。じゃあ自分からお詫びして」
 その言葉に応える方法はいくつかあるだろう。でも俺はいちばんシンプルなものを選んだ。
「愛してる。こんな異国の任務にまで詠(よみ)に付き合ってもらってるのは俺のほうだ。何でも言うこと聞く。ふたりだけのときは……」
「本気だな? 絶対逃さないから」
 詠(よみ)の声も瞳もぎらついたナイフみたいだ。俺は、観念して耳のあたりにキスする。肺まで締め付けるぐらいにきついきつい抱擁が来る。ホントは殴りつけたいんだろう。
「明日、軍事訓練の後。好きなだけヤラせて」
「……わかった」
 俺はうなだれてしおらしく了解する。……まったく、とんだ火中の栗だ。(了)
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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #[詠×清矢]
お題「余韻」「残香」
櫻庭詠×祈月清矢(Arcadia Magic Academy Ver.)
11/23 18:27-19:33

 俺の清矢(せいや)くんは軍で働くために鍛錬もするけど、いつもデオドラントにまで気を使ってる。日本での神兵隊訓練の後はよく拭きとってハッカ油のスプレーをしてたし、自分でくんくん匂いを確かめてる。使い過ぎてハミガキ粉みたいな香りになっちゃって、目にしみる、なんて言って笑ったりとか。詠みたく汗臭せーよりいいだろ! とか、怒って顔が赤いのも可愛かったりして。
 海外に来てからもそれは変らない。清矢くんの兄で、大泥棒の夜空っていうやつはぜいたく好みだから、土属性塔からハーブを分けてもらっては、せっせと錬金房で蒸留させてオイルを作ってた。何でも「魔法薬の世界」っていう教養授業で習ったらしく、風属性塔サロンにまで出向いては、俺にも練り香水を分けてくれたけど、レモンの香りじゃ石鹸みたいだ。
 清矢くんはいかにも興味ぶかそうに言う。
「これにミント混ぜたらどうだよ」
「別に可能だよ。ミントのオイルをプラスすればいい。でも俺は、ローズマリーのほうがいいと思うけど……」
「渋みも加わるからそっちだな」
「レモンとローズマリーの組み合わせは肉料理の香りづけでも定番ですね。でも、両方作って比べてみては?」
「詠(よみ)はどっちが好みだ?」
「えっ? 俺、わかんねー……」
 そんな女々しいこと知るわけねー。後半の文句は言わなかった。
 一緒にアルカディア大に留学した充希に愚痴ったらこう言った。
「そう? 俺、レモンなんかいかにも初心者向けだしお断りだけど」
「香水なんか臭いだけじゃん」
「でも俺だってデートの時くらいカッコつけたいもん。そこはもう、バイトしてプロがブレンドした香水買う。裸になったらそれしか纏えないし」
「誰とデートすんの。清矢くんだったらキレるから」
「んなワケねーでしょ。気になる?」
 充希はんべっと舌出して、風みたいに去ってった。
 寮では「みだらな行為は禁止」だし、俺は充希・清矢ペアとは所属塔を離されてる。必然的にエッチができない。清矢くんは充希に気を使うし、充希も「俺がいないときに二人でセックスしないでねん」と釘をさすからだ。そんなの知らねーって思うけど、チクられたら退寮だからピリピリしてる。かといって、観光客用のホテルは普段使いには高すぎる。ようやく堂々とエッチできる年齢になったのに、俺はいつだって欲求不満だ。毎日だってしたいのに。
 それでどうしてるかというと、退魔用の戦闘訓練で使う、ゴント山の山荘でデートしてる。全十三層のうちの三層まで行かなきゃならないんだけど、敵なんかほとんどスルー。逃げたりなんやで、管理人に挨拶して、割安な利用料を渡して、ソッコー二人用の部屋にこもる。後はパラダイス。
 清矢くんはシャワー浴びるとかなんだとかで忙しい。二人一気にしちゃっても管理人は疑いもしないから、もうそこからしてセックスは始まってる。水だけのシャワーで冷たさにすくみながら、互いに抱き合って汗だけ流す。持ってきた石鹸で軽く洗って、指にたっぷり泡を塗り付けて、後ろの穴の中まできれいにする。我慢できなくてそこでヤっちゃうこともある。ベッドに押し倒して、普段生意気で凛としてる清矢くんを貫きながら喘がせられるのは世界中でホントに俺だけの特権。
 その日も終わった後、なんとなく戦衣に袖を通すのがおっくうで、裸のままだらだらしてた。清矢くんはもうセックスの余韻そのものの肌の赤みもひいて、リュックの中を漁ってた。ばーちゃん手作りの巾着の中からリップクリーム出して、乱雑にクチビルに塗った。俺は顔を近づけた。即わかる、バニラの匂い。
「これ……甘すぎない?」
「ああ、ドリスがそう言ってたんでどうせだからもらった。詠にもおすそわけしてやるよ」
 そう言って、清矢くんは俺にキスしてきた。俺はねっとりしたクチビル(気のせいで甘い味までする)を夢中でむさぼった。黒目がちな目が愉しみに細められて、品のある古都のお嬢様って感じの顔が不敵に笑う。
 微妙に段を入れた髪をかきまわして、クチビルだけど言わず頬にも鼻にもキスされる。クリームのべたべたが顔じゅうにひろがって、清矢くんはそれを塗り広げさえする。
「ニキビとかできたらどーすんだよ」
「詠もそれは気にするんだな。じゃあ、顔は洗っちゃえよ」
 俺は服を着ると、言われたとおりに石鹼借りて顔だけ洗ってきた。肌がキシキシする。清矢くんは俺の短髪の中に鼻つっこんでくんくん嗅ぐ。
「んー、汗くさいな。でもいい匂い。まだ俺もエロエロモードか」
「もっかいする?」
「いや。暗くなったら降りられなくなる。詠は先に支度しろ、カモフラージュのために二層で少し狩るぞ」
 清矢くんはそう言って、再度のシャワーに出てった。俺は神兵隊の黒衣をつけて、黒耀剣を持って落ち着かず待った。
 最後風属性塔の前で別れるとき、清矢くんは笑って、俺の首の前側、胸鎖乳頭筋? の筋をかるく人差し指でなぞった。
「俺だけのマーキング。メスにとられないように」
 リップクリームが首筋にまるでクレヨンみたいにぬるっと塗られた。自分でもわかっちゃうバニラの残り香。これから帰るだけなのに、集中が途切れてどうしようって思った。エッチの時間がまだ続いてるみたいで、ダニールなんかにバレやしないかとホントずっと恥ずかしかった。
 俺、やっぱり、香りって苦手だ。
(了)
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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #[詠×清矢]
お題「朝ごはん」「おはよう」
櫻庭詠×祈月清矢(Arcadia Magic Academy Ver.)
11/04 22:50-23:46

 兄・夜空から無事御家の重宝を取り戻し、アルカディア魔法大学に入学した祈月清矢(きげつ・せいや)は、土曜一時限目の授業、「アルカディア島講義」に出席していた。新入生必修授業である。魔法の専門教育ではなく、アルカディア島の公用語およびその歴史を学ぶ総合教養科目だ。
「清矢くん! おはよう!」
 小学生からの幼馴染、櫻庭詠(さくらば・よみ)が勇んで隣に座る。常春殿神兵隊所属という共通点はありながらも、今まで学区が違ったために、同級生となったのは初めてである。ベリーショートに前髪まで刈りながらも、くっきりとした二重にまっすぐな目つき。姿勢もよく素直そうで、実に鮮やかな日本男児ぶりである。内面は堅物で、熱心。二人きりのときでさえ控えめな表現しかまだできなかったが、清矢はこの男のすべてを愛でていた。
 リーディング指定のあった本を飛ばし読みしながら清矢がさりげなく褒める。
「おはよう、詠。こうして見るとお前って結構男前だな」
「……清矢くん、その副詞いらないよ。俺、清矢くんのことそんなふうに褒めたことない」
「へー、じゃあどうやって」
「えっと……清矢くんってすごい可愛いとか、クールでカッコいいとか、女の子より綺麗とかオシャレだとか」
 ナルシスト気味の清矢は笑みを抑えきれない。既にディスカッションを始めている者もいたが、柔らかく微笑みかけた。詠は顔を赤くしながら話題を変える。
「そういや、清矢くん朝ごはん食べた?」
「充希は塔付属の食堂で食べてから行くって言ってたけど、どう考えても遅刻するだろ。キッチンで自炊するならともかく……」
「俺も食べてない。でも、午後は軍事演習だろ。どう考えても無理めじゃない?」
「……うーん、土曜の朝だけは作るか」
 祈月家への嫁であり、清矢と夜空の祖母である頑固な人物、さくらは、清矢のアルカディア大学派遣の際にも世話をやき、荷物の中にいくらか食材と調味料とを入れていた。味噌、醤油、鰹節や白米などである。重くなると言ったが、「男なんだからそれくらいでグダグダ言うな」と一喝されてしまった。「夜空にはやるんじゃないよ」とのダメ押しつきだ。十一歳でロンシャンに亡命した際、御家の重宝を全て持ち逃げした方の孫に対し、辛辣であった。
 詠は目を輝かせた。
「えっ、清矢くん料理とかするの?」
「ああ、一応な。得意なのはビーフストロガノフだ」
 祈月軍閥次期当主として、アルカディア留学のために、ピアノ・剣術・魔術・英語に明け暮れていた清矢のあからさまな嘘だったが、詠は信じたようだった。
「味噌も持って来たし、しばらくはそれでしのぐか~」
 適当に顔を背ける清矢を、詠は無理やり肩を掴んで振り向かせた。新入生全員が集合しているというのにイチャつき開始である。清矢は絶望に目を見開いてされるがままになった。えっ、もうホモの噂が立つわけ? 図書館でキスしたからコイツ調子づいてる? 詠はどこで覚えて来たのか古典的なプロポーズの台詞を言い切った。
「せ、清矢くん、俺に……毎朝味噌汁を作ってくれっ!」
「は?」
 清矢の表情が寸時に険しくなる。そして慈愛すら感じさせる余裕の笑みを浮かべる。
「お前……いわゆる良妻賢母がヨメに欲しいタイプだったのか」
「えっ、そんな、清矢くん……俺、そんなつもりじゃ」
「是非、さくらと再婚してやれよ。孫の俺じゃあ無理だからさ。老後が不安だし。そうしたらお前、俺の爺ちゃんになるんだな。憧れの耀サマにますます近づけるじゃん」
 詠の胸板を小突きながら、清矢は曇りのない笑顔だ。詠は半ばヤケで笑っている。耀は清矢と夜空の祖父だが、若くして謀殺されていた。宮家から臣籍降下を行い、神兵隊特別兵として特殊任務をこなしていた祈月初代。さくらは彼のヨメである。詠は宮家初代・嘉徳親王の妹である桜花が嫁いだ家の子で、耀の使っていた黒耀剣を操ることができる。清矢はべらべらと皮肉を口にする。
「俺は母さん似だって評判だし、母さん、料理下手だったから、お前の気に入るような家庭は築けないと思う……」
「ちっ、違う! 俺は構わないよ、清矢くんのことを、一生ずっと愛してる!」
 他の者には分からないと思ってか、日本語で宣言されたその台詞に、しかし清矢はドスの効いたとしか形容しようがないような強烈な蔑視を送った。
「味噌汁くらいお前が毎朝作るべきだろうが! この清矢サマに!」
 照れ隠しのキレだったが、詠は半泣きになっている。三人目の充希がクナッペというアルカディア島名物のミートパイを片手に遅刻で駆けこんでくる。ダイバーシティ豊かな同級生たちは失笑している。
「うるさいぞ日本人、初回から何をふざけている~!」
 講師が教室に入ってきて全員を叱りつけた。ちなみに味噌汁は具材が見当たらず、トマトとキャベツ入りの単なるミソスープとして完成し、風塔の同級生たちが試食したが、濃すぎる塩味がローク神殿の巫女たちにイマイチ不評であったのだった。(了)
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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #[詠×清矢]

お題「星月夜」
櫻庭詠×祈月清矢(Arcadia Magic Academy Ver.)10/29 0:36-1:32

 アルカディア魔法大学は新入生の入寮をひとしきり終え、後は入学式を待つばかりとなっていた。魔力選抜十二番通過の櫻庭詠(さくらば・よみ)は聖属性塔を出て、ちょうど学園都市中心部に位置するローク神殿付属・風属性塔に向かっていた。
 ベリーショートの短髪、きりりとした大き目の釣り目、涼やかな風情だが、体躯はがっしりとしている。ぴったりとした黒一色の戦衣に身を包んで、直剣を帯びている。
 朝の運動をかねて尾を振る勢いで駆けていく。ともに入学する祈月清矢(きげつ・せいや)を慕っての外出であった。もう一人、望月三郎充希も清矢のお付きとして入学する。詠はひとりだけ所属寮を離されてしまったのであった。
(清矢くん、清矢くん、清矢くん……!)
 余裕あるペースではなく息せききって走る。清矢と充希は昨晩、闇塔にて北欧軍事同盟パーヴァケックからの歓待を受け、日本勢の任務について仔細を話し合ったはずである。詠はその集まりに所属塔の違いから参加できなかったのであった。夜の禁足時間、抜け出そうとしたがクルセイダーに取り押さえられた。
 ちょうど、曰くの闇塔を過ぎたあたりだった。戦衣姿の清矢がひとり塔前にたたずんでいた。見間違うはずがない、詠は急いで寄って行った。黒いさらさらのレイヤーショート、黒目の大きい曇り眼。淡雪のような真っ白な肌に、赤みの差す唇。彼は美しかった母親に瓜二つと評判の雰囲気ある少年であった。
「清矢くん! 昨日は大丈夫だった?」
「話し合いのほうは平気だ。夜空は犯罪者……物品を返さなければ国際司法に訴えるところだった。王子殿下もおおむね納得してくれたさ。当人は幽囚の宮様といった風情だ。これ以上の追及は無意味だろうな。持ち出していた品は全て日ノ本に返された」
 きびきびとした高めの声が報告する。詠はうなずき、清矢の手をとって性急に歩いた。清矢はついてくる。行き先なんか考えてはいなかったが、ともかく敵である夜空のいる闇塔から離れたかった。
「……なあ、図書館に行かないか」
「えっ、俺たち入学前なのに使えるの?」
「学生証は発行済みだ。俺たちの国の現代史についてこの地にどれほど資料があるのか調査したい」
 清矢の母親の雫という女は、慎ましやかで内にストレスを溜めるタイプだったらしい。二重まぶたで長い睫毛。名前どおりの、視線を感じづらい曇り眼をした静かで風情のある女。詠の母親は、「豪華だった」という印象だけを語る。サファイアの首飾りがよく似合ったというひとは、清矢が幼い頃世を去った。詠はいつも清矢に見とれるたび、その佳人の幻視をしている気にもなるのだった。
 清矢は予定だけ言うと繋いだ手をするりとほどいてしまった。詠は仕方なく、となりに並ぶ。本当はいつだって自分が先導したいのだ。清矢くんは、俺と手をつないでたくないんだろうか。
 学生証を出して図書館に入ると、清矢は予定とは逸れて美術書の書架に向かった。分厚い図録を出して、見分している。ゴッホの画集だった。にじんだレンズでぼやかしたような大きな星々と黒い炎のような糸杉がむらむらと燃えている。タイトルは「星月夜」で、詠も見たことがあった。無論、留学前、清矢の部屋でだが。
「懐かしいな、この絵。お前が遊びにきたときに見た」
「うん……いかにも魔物が出そうな夜だ」
 清矢は画集を開きっぱなしのまま、窓辺にある閲覧席に腰かけた。デスクに本を置き、詠の肘を引く。何か密談かと察して縮こまった詠は、唇に軽くキスをされて驚愕した。
「清矢くん……! えっと」
 嬉しいという気持ちと、こんな場所でという戸惑いが入交り、詠は狼狽したが、大好きな清矢からのアプローチである。わくわくしながら見つめていると、清矢は捨て鉢に言った。
「ここでディープキスまでしたい?」
「……」
 詠は辺りを見回し、誰もいないことを確認するといそいそと誘いに乗った。舌を出すことはあったが、清矢が応えてくれたことは今まで数えるほどしかなかった。「だってそれに慣れちゃったら次はセックスだろ」が清矢側の言い分だったが、詠にとっては納得できない。ふっくらした唇を存分に味わったあと、差し込む気持ちで舌を出す。清矢も口を開けてくれ、意思をもって動くそこをわずかに絡ませあった。唾液がひどく刺激的な味だ。清矢がほのめかす「次の段階」が待ち遠しくてならない。
「清矢くん! 大好きだ」
「……声量を落とせ。ほんとに、詠はかわいいな」
「かっこいい、だろ。馬鹿にすんなよ……!」
「俺、やっぱりお前とがいい」
 清矢はさらりと言った。詠は違和感をもった。居直って、じっと見据える。
「どういうこと」
「充希と同室だといろいろ危ないんだよ。男同士なのにイマイチ拒めなかったってのがよくない。お前とのじゃれ合いで慣れ過ぎた」
「は? 何それ。正直に全部言って」
 詠は本気で凄み、清矢の肩を掴んで詰め寄った。何でも昨晩、パーヴァケックとの会合で酔った充希が帰投後に清矢に「けっこう過激にキス」してきたらしかった。
「どうして嫌だって避けなかったんだよ!」
「なんかいきなりでどうしようもなかった。ごめん。嫌なら別れていいから」
「あのさ、そんなことしたら清矢くんのこと充希にとられるだろ!」
 小声でささやきながらの痴話げんかだった。天国からいきなり地獄へ突き落されてしまった。詠は耐えきれずに椅子に座っている清矢を思い切り抱きしめた。顔に荒く頬擦りしてめちゃくちゃにキスしまくる。ディープなんかより、自分のものだと何度もマーキングしなおしたかった。密室だったらこのままヤってるのに! 怒りと悔しさでおかしくなりながら、いつも誘ってやまないほの白い首筋に、ぐっと本気で噛みついてやった。(了)
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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #[充希×清矢]

お題「ワイン」「大人になんてなりたくなかった」
望月三郎充希×祈月清矢(Arcadia Magic Academy Ver.)

 時は七月、時刻は四刻半。アルカディア魔法大学闇属性塔ではクラウス第一王子殿下の発令により特別賓客室にて会合が行われていた。列席者はロンシャン亡命者である草笛・K・夜空、そして彼の留学時からの道連れである大麗官吏・葉海英、そしてクラウス殿下自身と、新入生のトピアス・シルヴァノイネンとイシュトバーン・ラヨシュであった。日ノ本よりは夜空の同腹の弟である祈月清矢及び同格と目された望月『三郎』充希が同席していた。彼らも今年の新入生であった。
 策謀もできるということを側近の臣に見せつけたいクラウス第二王子が杯を上げる。グラスに給仕するのは海英の妹、貞苺。大麗留学生はふたりとも漢服であった。
「ありがとう、姑娘」
 ひとりだけ貞苺に礼を言った望月充希(もちづきみつき)は小袖に袴を合わせ、親密な笑みを浮かべてみせた。シャギーショートで軽快な空気をまとっている男だが、体躯は鍛えられ大柄だ。一方祈月清矢は母譲りの曇り眼の美貌のまま、冷たいまなざしを実兄に送っていた。服装は剣鞘だけを外した白色レザーの軍装で、その背には黒い新月紋が染め抜かれる。白狼族の獣耳には月桂樹の葉を模したパールとダイヤのイヤカフが輝く。正式な祈月当主であり、次期軍閥のトップで、亡き母堂・草笛雫の愛息たることを兄・夜空に対して誇示した装いであった。
「祝杯のち、入学前の家督争いについて余にも得心いくよう教えてもらいたい」
 クラウスが身を乗り出す。夜空は幽囚の宮様といった風情だ。充希は強気にほくそ笑んだ。
 臣籍降下した四代目でもあるまいに何を貴族ぶってるんだか。ルーシャンからの護身用の決闘禁止が成ったら、次はこの手の策略開始ってワケ。本当にやりたいのがあのルーシャンからの新米軍人たちでないなら、虎族の王子様の器量も知れたってものだけど。
 乾杯の号の後、諸人がグラスに口をつける。清矢は赤ワインに口もつけず、掲げるだけで卓に置いた。流れるごとき金の長髪に深い緑色の瞳をしたトピアス・シルヴァノイネン――灰狼族で非常に見目麗しい水塔新入生が近寄ってきて清矢の肩をやんわりと抱く。
「セイヤ、食前には胃を温めないと」
「酒はたしなまないので」
「ふうん? 同じボトルから注いだのに?」
 クラウス殿下と同じく反ルーシャン軍事同盟・パーヴァケックからの暗殺を警戒するなとの柔和な命であった。充希は素早く自分のグラスと清矢のそれを入れ替える。清矢は目配せを送り、それでもかたくなに口をつけなかった。
「辺境のアルカディアでポイヤックを味わえるなら余は充分だが」
 クラウス殿下はガウンなしの軍服姿でワイングラスを傾けながら鷹揚につぶやいた。清矢は入試後から何度も繰り返してきた簡潔な英語で十一歳当時の夜空による家督相続のための姑息な家宝盗難を糾弾しはじめた。
 風属性塔に戻るころには時刻は五刻ちょうどを回っていた。ローク神殿の巫女と神官による晩課も終了しており、あと四半刻もすれば消灯時間だ。同室に戻った充希は清矢のベッドに並んで座り、軽口をたたいた。
「旨い赤ワインだったよ、食事は手作りだったし」
「すべてハンガリアが用意したものだ。あくまで夜空を庇護するなら歓待を受けるわけにはいかない。すべての家宝を奪い返した今、用済みの夜空が北欧にまで高跳びしてくれるなら、そのほうが都合がいいんだが」
「カネかけてくれたロンシャンからも抜けるだなんて、夢想的見解」
 充希と清矢はじっと互いの瞳を見やった。灰狼と白狼、垢ぬけた印象の二人が向かい合う。眼光相通じ、充希がいきなり清矢の後頭部を鷲掴み、荒々し気にキスする。清矢は身を固くしてそれを受ける。舌まで出して唇の合わせ目に割り込ませると、意外にも応じてきた。たっぷり絡ませたあと離れる。きれいにメイクされたベッドに肘をついた清矢は愕然とつぶやいた。
「充希は俺のボーイフレンドじゃない……!」
「ワインを味見しただけだよ。俺も詠(よみ)ちゃんとモメまくりたくないし。あっちがやる気なら、あのゲイっぽい従者にこういう調略もかけなきゃダメかもよ、なんたって清矢サマだって水際立ったイケメンだし♥」
「性的同意年齢は越えたってわけか。大人になんてなりたくなかった」
 吐き捨てる清矢を慰めがてら肩を抱いて、充希は酔いのままに押し倒したい気持ちを抑え着替えに移った。新月刀と望月刀の所持者こと祈月・望月ペアでの初の海外任務は「夜空誅殺」。窓から見える月はちょうど十三月齢であった。
(了)

・列席しているのはクラウス殿下、トピアス・シルヴァノイネン、イシュトバーン・ラヨシュ、葉海英、葉貞苺、夜空、充希、清矢
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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #[詠×清矢]

お題「カラオケ」「ラブソング」櫻庭詠×祈月清矢(現代バージョン)
20:20-21:03

 四畳半程度のカラオケボックスに火照った体の男子学生二名が乗り込んでくる。中性的なほうの青年が合皮のソファーに身を落ち着ける。黒髪のレイヤーショートで、スモーキークォーツのような眼が印象的だ。まっさらなカッターシャツにチャコールグレーのパンツを合わせてシックな恰好をしている。首元にはクロスが光る。
 続けて涼し気な目つきの体育会系の青年がソファに倒れこむ。こちらは黒基調のTシャツにブラックジーンズの素朴ななりだ。二人は中学時代からの幼馴染で、学部こそ違えど同じ国立大学に進学していた。新入生歓迎会におけるありがちな初飲酒の洗礼を受け、はやくも片方ノックダウンと言ったところだ。体調を鑑みてその後の三次会には赴かず、カラオケに居残るという選択をしたのだった。
「清矢(せいや)くん。俺、まだキツイ……ほんとに飲まなきゃよかった」
「詠(よみ)、少し休んでいこう」
 清矢と呼ばれた曇り眼の青年は慣れた手つきでワンドリンクオーダーし、タブレットを手繰り寄せて選曲をはじめた。酔っぱらって目元の落ち着かない詠はソファに沈み込みながらその様子を眺める。詠の知らないアーティストの曲が流れだした。
「『君のいいなりになって 僕は汚れた』」
 清矢はかすれ交じりのテノールで扇情的な歌詞を歌い始めた。光のない目がらんらんと燃え、サビに入る。歌われている情景はサディスティックなセックス。攻守が交代した興奮で声も凛と張る。詠は悪酔いで鈍く痛む頭にスタンガンで電流を注ぎこまれているような気持ちになった。清矢くんがやらしい曲を歌ってる。えっちなことまでほのめかしてる。剣道でずっと一緒だった綺麗で可愛くてかっこいい俺の清矢くんが……。間奏部分は暗喩的なギターソロ。黒髪を振り乱して歌い終わる清矢の肌はわずかに汗ばんでいた。香る、制汗剤だか香水のアクア。
「うーん……ストレスが解消した」
 歓迎会ではアイドルグループのヒット曲やら定番アニソンでお茶を濁していた清矢の本性である。詠は据わった目でにじり寄った。肩をぐいと抱かれ、清矢はきょとんと目を合わせてくる。
「清矢くん……エロい曲は止めて」
「詠とふたりだからだけど?」
「俺のこと誘ってんの?」
「この曲、カタストロフでいいだろ? よし、女性アー解禁!」
「なんで女の曲なんて……!」
「詠も知りたいだろ、清矢の乙女心」
 思い切って関係を進めてしまいたくても、清矢はそんな殺し文句でマイク片手に邦楽ロックの女性アーティストによる代表曲を音階調整して歌い始めてしまう。彼の学部は教育学部、ピアノ過程であった。乙女心どころではない蓮っ葉な歌詞にふたたび詠は怖気づいたが、今度の幕間ではマイクを握る手首を組み伏せて、強引にキスを迫った。清矢はつれなく顔を背ける。
「告白もしてないのにいきなりキス?」
「だって、清矢くん俺のこと誘ってる……」
「なんで? 単に攻めた選曲ってだけだろ」
 清矢はそう言って、自分のふっくらした唇に人差し指を当てがい、詠のそこをシールでも貼り付けるように封じてきた。
「ほら、間接キスからどうぞ」
 詠は屈辱の中唇に押し当てられる指を軽く舐めた。清矢の軽蔑のまなざしはすさまじいものがある。
「たとえ詠だってそんなに簡単にはヤラせない」
 清矢はきっぱり言って次の曲を選び始めた。詠はスネて言う。
「俺の事清矢くんの初カレにして」
「ん、わかった」
 その秀麗な横顔に赤みは一切ささない。躱された悔しさをばねに立ち直った詠はタブレットを引き寄せ、真剣に適当な曲を見繕いはじめた。恋人同士になれた記念に、ラブソングをいくらでも熱唱してやるつもりだった。(了)

※引用歌 スガシカオ「いいなり」