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あおうま
#鏡花

泉 鏡花『照葉狂言』Kindle版
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 朝より夕に至るまで、腕車、地車など一輌も過ぎるはあらず。美しき妾、富みたる寡婦、おとなしき女童など、夢おだやかに日を送りぬ。
 日は春日山の巓よりのぼりて粟ヶ崎の沖に入る。海は西の方かたに路程一里半隔りたり。山は近く、二階なる東の窓に、かの木戸の際なる青楓の繁りたるに蔽おおわれて、峰の松のみ見えたり。欄に倚りて伸上れば半腹なる尼の庵も見ゆ。卯辰山、霞が峰、日暮の丘、一帯波のごとく連りたり。空蒼く晴れて地の上に雨の余波ある時は、路なる砂利うつくしく、いろいろの礫あまた洗い出いださるるが中に、金色なる、また銀色なる、緑なる、樺色なる、鳶色なる、細螺おびただし。轍の跡というもの無ければ、馬も通らず、おさなきものは懸念なく踞居いてこれを拾いたり。


泉鏡花の初期の短編のうちのひとつ。以前『薬草取』を読んで、つぎは『照葉狂言』を読もうと思っていたので。
というのも山尾悠子『迷宮遊覧飛行』の中に鏡花選集の解説があり(女史は卒論も鏡花だとか)その解説中より気になった編を読んでいる。
大学の近代文学ゼミでみんなが『外科室』を読み倦んでいた(笑)思い出があったりもするw
『照葉狂言』とは江戸時代後期から明治時代にかけておこなわれた能狂言に歌舞伎や俄、音曲などを加えた大衆演芸のこと。
娼館の忘れ形見、貢(みつぎ)は目が溶けるような美少年。母を亡くし叔母に世話される孤児の彼は隣家に住む年上の継子・雪に思慕を抱いている。
ガキ大将率いる男の世界からは隔絶し、ひたすら女に愛でられて過ごす彼は、ある日金沢にやってきた照葉狂言の一座で師匠小親に見初められる。
生家が花札賭博で捜査され、行く当てをなくした貢は卑賎とみくだされた芸人の世界に身を投じる。八年後帰ってきた彼が見たのは、洪水の被害で見る影もなくなった古郷であった。
ストーリーはこんなところ。とかく性とは無縁に女性に愛され満たされる母なし子の幼年期を描く。
姉様としたった雪も、牛若に扮して中性的魅力凛凛たる小親も、すでに女の弱さにとらわれ、婿にとった養子には折檻され、リュウマチで体はままならず、零落の瀬戸際にいる。
「男性ではない」貢は恩人のどちらも救いえず、おさなきもののまま成長した彼は、尼が謡う幻想の山寺にたどりついたのち、ただ一人出奔してしまう。
堕落ののちの貧窮や凄惨を長々と述べるのは鏡花の美学ではないのだろう。
次は『戦国茶漬』か『天守物語』を読みたいがたぶん『天守物語』かな。