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あおうま
お題「衝動」「ゼロ距離」

 俺は甘えん坊だって、清矢くんからよく言われる。自分でも恥ずかしいけどその自覚はある。極東の日本から遥か遠く、アルカディア魔法大の図書館。丸い監視機が音もなく飛び回り、天井までの飾り棚の中に書物が隙間なく並べられて、まるでそれ自体がひとつのダンジョンみたいだ。『アーカイビング基礎』の授業で、難しい課題を出された俺たちはグループ自習スペースを借りて、浮遊する半透明の円形部屋で勉強していた。
 竜語の授業受けてることもあって、俺はその観点からのレポートを書こうと四苦八苦してた。清矢くんはテキストから芋づる式に参考文献を積み上げて、ザッピングで読んでいってる。論旨を追うのも疲れた俺が清矢くんを眺めてると、彼はきつめのうつくしー瞳をふっと和らげて、猫撫で声で呼びかけてきた。
「どうしたんだ、詠。ちょい疲れたか? 休憩しよっか」
「えと、『充電』する……?」
 俺は後ろ頭をかきかき言った。『充電』は高等学校のころからのふたりの習慣で、ハグしてリフレッシュするってことの隠語だ。清矢くんは上機嫌でニコニコしながら椅子ごとすり寄ってきた。
「オッケ。詠、たっぷり『充電』してやるよ」
 そうして、立ち上がって俺の頭を胸にぎゅっと抱き寄せてくる。ポロシャツの胸に抱かれて、俺はすーはー深呼吸しちまった。ふわっとした筋肉の感触。手のひらでじっくりたぐると感じられる肋骨のカーブ。それにしなやかな背筋と、ちょっとへこんだ背骨のライン。ほのかな体温まで甘やかで、俺はぐりぐりと胸にこめかみを押し付けた。
「ん、ん、清矢くんっ……! まだ、俺、足りねっ……!」
 そう駄々こねて、襟元のボタン開けて、現れた鎖骨の尖りに吸い付く。なめらかなうっすい肌とこりこりした骨を、夢中で噛んだりしゃぶったり。なんで味もないのにおいしいと思うのかな? さわさわと筋肉の流れを知るように背を撫でまわす手だって、せわしなくて性的。
 ぜったいほかのカップルだってこの球体ガラス部屋の中ではこういう行為に耽ってるよ。
 俺は清矢くんの尻を押して、腿の上に座らせた。まじで破廉恥な体勢。清矢くんは俺の肩に捕まって、挑発的に微笑む。
「あれ? ここでもっと進んじまうの?」
「……俺ほんとは、今すぐ抱き合いてぇ」
「うん、じゃあリミットはそこまでな」
 釘を刺された俺は、衝動のままに顎をのけぞらせてフェイスラインに何度もキスした。清矢くんは、キスしやすいように少し屈んでくれる。そのおかげでふわふわした唇にやっとありつけた。ドキドキ高鳴る胸に急かされながら、ぎゅっぎゅって顔を押し付けて、頬擦りして。後頭部を押さえて、さらさら指を抜けてく髪の毛をうっとりとすくう。
「清矢くん、俺もう無理だよ……『充電』じゃあ済まねえ」
「うん、じゃあ、場所変えるか? 風塔戻ろ」
 甘えん坊の俺は、手まで引かれて図書館を出てった。ルームメイトが出払ってる寮部屋に急いで籠って、今度こそベッドに押し倒し、ゼロ距離で抱きつく。
 かすかに甘い、ひんやりした清矢くんの香り。肩や腹を張り付かせて、脚は絡めて甲を指でくすぐって。存在を全身で噛み締められるこの距離。産毛までさらさらと感じられる。首に頬に鼻にまぶたにキスしまくって、全身で甘えかかる幸せに溺れそうだ。
 レポートを提出できるのはまだ先になりそうだった。
#詠×清矢 #[創作BL版深夜の60分一本勝負] #ComingOutofMagicianYozora