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あおうま
高瀬隼子『いい子のあくび』集英社

表題作と二つの短編が入っている小説集。帯のキャッチは『不合理な偏りだらけの、世の中に生きる女性たちの、静かな心の叫びを書く』とヒロイックな感じだが、もっと露悪的に言うと「主人公一人称語りで延々と人間を呪詛する」という感じ。キツすぎてヤバイ。「それなりにムカつく」程度のあんま問題なさそげな職場の人にも即「死なないかな」まで思ってるし……
マジで? そこまで思う? 飲み会付き合わされるの嫌なら行かなきゃいいだけじゃん。
表題作は、イイ子として感情を擬態して生きてきた社会的評価上のOLが「割に合わない」という被害者意識全開で「スマホ自転車運転」次はよりグレーな「スマホ歩き」をしている男性にぶつかっていくというお話。ドストエフスキー『地下室の手記』系統といえばいいか。
寄り添おうと思えばどこまでも寄り添えるのかもしれないけど、シリアルキラーものの主人公の心情に近いものを感じた。
痴漢ってやめられなくなるって聞くじゃん。ストレス解消のために他者を攻撃するようになることがクセになるとヤバイなあって怖くなる。
他二篇は「女同士の人間関係ってイヤだね~」という感想が真っ先に出てくる。結婚式に行かない、ってやばいよな~必ず揉めるやつ。
こういうものかもしれないけど、じゃあ女同士の人間関係にいったい何を求めているのだろうか。たぶんまっとうな友情であって、そんなもんめったに成立もしないし夢でしかないのに仲良くしてくれているってことだけでも感謝したほうがいいんだけど…とかいろいろ考えてしまう。呪詛のパワーだけはすごいから、代弁してくれたように思えてすっきりする読者もいるかもしれない。あと、人の飾らない本音って引き付けるパワーだけはすごいから、読ませる。愚痴スレとか愚痴アカとか見ちゃいがちな人にとってはよいかも。私の事ですけどね……気をつけなきゃいけないね、と反面教師にもなるのでした。

円城塔『世界でもっとも深い迷宮』2016年 Kindle

Kindle書下ろしなのかな? SF作家の短編。ゲームブックのプレイ体験を書いている。クールで即物的な描写は持ち味か。ただ、「ゲームブックに昔ハマったりした人」ではないんだろうか? あくまで突き放して無機物なシステムとして見なしている感じがする。その距離感が面白さを呼ぶこともあるとは思うが、ゲーマーとしてはちょっと物足りなかった。