万聖節の夜物語 アルカディア魔法大学逃亡編(1-11)
第四章
46
寮へ帰り着いたのは十二時を過ぎた夜半だった。学長側の監視役から真相の代弁者となったウィリアムは闇塔に収容され、事態収拾が成るまでは聖属性塔へは返さないことになった。夜空についても同様で、塔十階の使われていない職員用宿泊室を二人まとめて宛がわれた。
部屋のつくりは学生用と同じである。夜空は貸し出された療治用ガウンを着て、ベッドの下の段に収まった。ウィリアムもとなりに座った。ベッドメイクしたての綺麗なシーツに寝転がり、夜空がつぶやく。
「ウィル、俺にディアして……」
「わかった。少し……触れるぞ」
夜空はガウンの前をはだけて、鎖骨と胸を露わにした。ウィリアムはその膚に手のひらを宛て、ゆっくりと詠唱した。
「……我らが燃やす神秘の炎、知と力の命脈たる魔素と、微細なる生へ賛歌を捧げる。塵で作られし下僕への、限りなき祝福と我が愛において、疵を繕い、停止せぬ歯車となせ。回復魔法・ディア」
夜空はくすぐったさに身を固くしながら、魔素の注入を受けた。穏やかな声色の詠唱に応じて、毒々しささえある柘榴色の輝きが火花のようにはじけ、ウィリアムの手から夜空の素肌に直接染みとおっていく。温たんぽを抱いたような熱と痒みを感じたが、脳の曇りが晴れるように、すっと意識がクリアになった。肉体が安らいで、重くベッドに沈み込む。ウィリアムはそれだけ済ませると、二段ベッドの上に黙って上がって行こうとした。夜空はその肘を捕まえた。
「どうした? もう夜も遅い」
「ウィル。一緒に寝よう」
ウィリアムは面食らった様子で、しかしベッドの端に腰を落ち着けた。夜空の前髪を払って、額に手を当てる。
「……夜空。その前に……すべて謝らせてくれ。本当にすまなかった」
夜空は身体を起こし、膝をかかえて座り込んだ。本当にハードな一日だったのに、ウィリアムの『ディア』のおかげで、疲労も嘘のように消えていた。
「君を愛す。そう決めたのに、ずっと裏切ってしまっていた。厳しく当たっていたのは、学長やシスター・グラジオラスが君を疑うのを避けたかったというのもあるが、その実はやはり……自らの出自の闇を君に投影し、憎んでいたのだろうな」
「鏡写しみたいに?」
「……そうだ。君は私のつまらない嫉妬に対して、愛まで捧げてくれたのに」
夜空はそっとウィリアムとの距離を詰めた。腿が触れあう。わずかに体温まで感じられ、無事を噛み締めた。夜空はウィリアムの横顔を覗き込んで問いかける。
「俺は……俺だって不手際がいくらでもあった。だけどそんなことよりもさ、俺はまだ、君の恋人だって己惚れていいの? 犯されてはいないけど……確かに、娼館にはいたことがあるんだ」
ウィリアムは夜空を見つめ、小さくつぶやいた。
「君が犯されていないだなんて私には信じられない」
「どうして」
「君が……ああ! 君がとても可愛いからだよ。実技入試で見つけた時から美しいと思っていたんだ。あのマフィアたちと同じような、汚れた目で私は君を……!」
顔をそむけて言うウィリアムに、夜空は全力でぶつかっていった。肩をぎゅっと抱きしめて、頬にキスする。そしていつかのように押し倒し、めちゃくちゃに頬擦りした。
尻尾を大げさに振って、耳も前に倒して、瞬きの暇も惜しんで強く見つめる。
「好き。大好き。俺はウィリアムが大好き。俺のことを可愛いだなんて褒める人は、みんなただ利用しようとしているだけだったよ。だけど君は違う……俺を愛しいと思って、芯から大事に可愛がってくれていたんだ」
ウィリアムの頬が目に見えて紅潮した。くっきりした緑の瞳が泳ぐ。夜空はウィリアムの滑らかなおとがいに短くキスを繰り返した。子犬が盛んに毛づくろいをしてやる。そんな気持ちで、わさわさと尻尾を振った。
お堅いウィリアムは慌てて押しとどめる。
「よぞら、その……ダメだ、ハウス! 違うだろう、今はもっと大事な話をしていて……!」
「俺って今、ウィルのお嫁さんなんだよね?」
「それは……だって、そうすれば君をロンシャンからも救いだせると思って……! 二人で自由に、羽ばたいていけると……!」
夜空は今度こそ逸る気持ちで強く頬に口づけた。人耳の裏に唇を滑らせ、くぼみに吸い付く。ウィリアムはびくんと身体を震わせて、首を振って逃れようとした。夜空は耳たぶに噛みついて離さなかった。垂れた犬耳のほうにも標的を変えて、撫でながら金髪に鼻をくぐらせる。
途切れそうだった橋が再び通ったのだ。
いったんは諦めさえした。その後も何度も振り切ろうとした。美しく聡明で、真面目で熱意を秘めている。そんな彼への慕情が堰を切ってあふれていた。夜空はもう後悔したくなかった。話なんて、明日だってできる。だから、たとえ娼婦みたいでも思いきって口にできた。
「夜にしかできないこと、しよう……?」
誘い文句に、ウィリアムは激しく抵抗をした。すり寄ってくる夜空を押しのけようとする。
「マイディア、やめろ、私は君を汚したくない!」
拒絶されたがその台詞すら甘美だった。勝手なのは夜空のほうだ。一人芝居で恋を諦め、話し合いすらもとうとせずに、彼を辛い立場に置き去りにした。溝を駆けずりまわっていたのは夜空のほうだ。娼館に入る前だってストリートで暴力や性の悲惨さに晒されてきた。人殺しをしたのだって、シリルの魔力を奪ったのだって、葉兄妹を買収したのだって夜空が選んできたことなのに、ウィリアムはなお『汚さない』なんて台詞を吐く。
夜空を綺麗だと思ってくれている。
「汚されないよ。俺はね、君といっしょに作りたいんだ。誰もが大切にしてる親愛の儀式を。ウィルに恋してるし、愛してる。だからこそ、ほかでもない君と……二人で乗り越えたいんだよ」
夜空の提案に、ウィリアムは赤らんで恥じ入った。腕を上げて、顔を半ば隠している。薄着のガウンで明るい白肌をのぞかせつつ耐える様は、カソックを乱さず着込んだ普段の姿とは対照的で、そこはかとない色気まであった。
唇に正面からキスをして、身体をしなやかにひねった。ウィリアムはとうとう陥落し、夜空の腰を掴んでさらりと尻の丸みを撫でた。
「ひゃっ……くぅーん、ウィル、俺……くすぐったいよ」
「す、すまない、今のは違う……! 偶然だ」
「故意でいいよ、お尻触って♡」
夜空は腰をはしたなく振った。ウィリアムはやけになったのか、ぐっと尻を掴んできた。夜空は素直にそこを突き出した。自然と前が凝ってくる。そこを撫でられるのが気持ちイイだなんて、今まで知らなかった。ぞわっ、ぞわっと鳥肌まで立たせて、夜空は尾を高々と上げる。尻のへこみに添うように、指がぎゅっと食い込む。それだけで尻尾の付け根がきゅんと疼く。夜空の真っ白な尾がふんわりと膨らむ。
「ん、ん、ウィル、ウィル♡ 何でもして、君のしたいこと。夜空は全部受け入れたいよ……♡」
そう言って、夜空はウィリアムの唇を奪い、舌先をとがらせて針を通すように口内に侵入させた。おずおずとディープキスを楽しむ。『ゴースト』の前で見せつけるようにしたそれよりも、生ぬるい唾液の味が舌を痺れさせた。ウィリアムは両目をぎゅっと閉じていた。べったりと触れあわせた身体の前面、プライベートゾーンでは、夜空よりも熱く己を主張する欲があったが、夜空が自分のそこを少しだけ押し付けると、おののくように腰が引いた。
夜空の切れ長な瞳にちらりと理性が戻った。下を向いているから、表情は長い髪で隠れるだろう。夜空は舌を抜き、ウィリアムの頬を撫で、全て押し隠すつもりでにこりと笑った。
「ごめん。ウィル。嫌だったね」
のしかかった身体から降り、夜空はしゅんとうなだれた。離れて寒気が吹き抜けると、唐突に恥ずかしさが募る。暴走してしまった。ウィリアムはきっと厭らしいことなんか知らないのに。どれだけ彼を失望させたら済むのだろう。ウィリアムも起き出してきて、めくれてしまった犬耳を直し、すり寄って慰めようとまでしているのが気配で分かった。夜空は自分の愚昧を認めた。
「俺ね……君よりもだいぶ淫乱みたい。やらしい事も知っちゃってるし……苦しくさせたね。ちょっと醒まそうか」
狼耳を水平に寝せ、年上ぶってそう告げる。ウィリアムは上気した顔で夜空を睨みつけ、黒髪を手でかきあげてくれ、そのまま肩を押してきた。ガウンの隙間から手を入れて、平たい胸を撫でまわす。夜空はぺたりと座りこんだまま、その愛撫を受けた。ウィリアムは夜空のウエストに指を食いこませ、胸の盛り上がりに指の腹を添わせて、最後には明らかに意思をもった強さで体重をかけて押し倒してきた。夜空は戸惑いながら倒れこみ、少し身をすくめる。
ウィリアム・エヴァ・マリーベルは愛らしく端正な美少年。作り物めいた美貌の彼が、熱い吐息とともに、驚くような直截さで、ディープキスを挑んできた。形のいい唇を押し付け、じっくりとではなく、強引に割開くように入ってくる。
「ひゅう、んぅ……くぅうっ、んっ……!」
夜空は喉だけで喘ぎながら、必死でウィリアムの舌に応えた。口内をこそげるように動く舌を自分のそれで追いかけ、絡み合わせ、口も目いっぱい開く。
歯がぶつかり、互いの欲情の強さにようやく思いが至った。息継ぎで離れると、ウィリアムは夜空の胴を両腕で抱きすくめて胸に顔を埋めた。
顔面全体を胸板に擦り付けて、ウィリアムが酔った声色で言う。
「君に触れる、君を裸にする、こんなことも、もっと罪深い行為だって……!」
言いながら、蒼白い膚をちゅくりと吸った。濡れた感触に、夜空はひゅっと息を飲む。吸い付きながら、ウィリアムが告白する。
「私が想像していなかったとでも? ……君は何度私の前で膚を曝したと思ってるんだ! その度に、どれだけ情けない思いで目を反らしていたか……!」
腰骨のラインを執拗に撫でさすって、ウィリアムは泣き言を漏らした。
「たまらない、もう。君を抱きたい。ソドミーなのは分かってる。だけど夜の君は……艶やかすぎる」
夜空は芯から照れてしまった。ウィリアムの昂りが鼠径部に押し付けられている。こんなに素直な情を、どうして分かってあげられなかったのだろう。硬い金髪に指で櫛を入れ、ごしごしと撫でた。脚を蓮っ葉に絡めて、小刻みに腰を上下運動させる。 急所への、わずかな刺激。ウィリアムは一瞬で快楽にとろけた。
「ううっ♡ あっ、あっ……!」
「ウィル……俺ね、我慢させた分、君に奉仕したい。今から大事なところに触れるね。挿れるのはちょっと、手間取っちゃうだろうから……」
はにかみつつ予告して、手を股間までするりと下ろした。自分は少しだけ腰を引いて、空いた隙間に潜り込ませる。薄いガウンの裾を割り、張り付けた性器を指を揃えてできるだけ優しく包み込んだ。
「はうっ……!あ、あ、夜空っ……!」
いきなり生の粘膜に触れる。棒のようにこわばったその器官は彼らしくとびきりの熱を秘めていた。夜空は愛おしさで胸がいっぱいになり、やわやわと繊細に指を動かした。ウィリアムがくたりと胸にうつ伏してくる。喉で声を殺して、震えながらすがりついている。夜空は与える特権に酔った。心が外部に飛び出してしまったような敏感なそこを、慰めてやりたい。先端とのくびれをきゅっと締め付ける。剥き出しになった粘膜の球を指の腹でくすぐる。ねとつく先走りを五指にまといつかせ、薄い背中を抱きしめて支えながら、くしゅくしゅと棒をしごいてやった。
「あっう……ふあ、ぐ、ううっ、ダメだっ、よぞらっ……! いけない……!」
ウィリアムは口では拒否を繰り返したが、性器はぐんと反り返り、どんどん芯が入ってガチガチに怒った。夜空は丸い頭を抱きすくめ、母のようになだめる。
「大丈夫、全部、吐き出して……? 気持ちよくていい。俺に教えて、ウィルがどんなに求めていたのか……」
ウィリアムはぐったりと夜空に沈みこみ、尻を時おり断続的に震わせた。
はぁはぁと息を荒げつつ、甘えるようにこめかみを擦り付けてくる。情人可愛さに、夜空は自身の性欲を忘れた。根から先端まで手首を返してじっくり刺激を与えてやる。ぬらついた切っ先が傘を開いて、性器の硬さが生々しい。
つむじにちゅっとキスをして、夜空はうっとりと囁いた。
「ウィリアム、大好き」
シンプルな告白とともに、丸くふくれた亀頭を握りしめ、出口を親指でくじった。ウィリアムはぐぐっと弓なりに反って、急角度で突きこんできた。
「よぞらっ、あ、あ、っう、あああっ、好きだっ……♡」
欲を極めた瞬間にも、信愛を告げてくれるウィリアム。手のひらにどぷりと温かい精液がしぶいた。頭のてっぺんに、何度もキスを繰り返し、茎を搾って愛してやった。数度の決壊を見せて、ウィリアムはひくつきながら静まっていった。雫を手でぬぐってやり、手指にまとわりついた重たい液塊を、舌ですくって口に納めた。青臭い匂いが呼吸器にたまる。深い好意が突き抜けてしまった夜空は、肉体の深奥の味までも魅力的に感じ、唾液と混ぜて呑み込んでしまった。
ウィリアムは泣きそうな顔でそれを眺め、額を擦り付けて小さく申し出た。
「君は……君の方はどうなんだ。射精……したいんじゃないか」
夜空は恥ずかしくなり、少し耳を伏せた。
「俺はいいよ、ウィル。自分で何とか出来るし」
ウィリアムは伸び上がってきて、両目をつぶって頬にキスした。そしてまだ熱の残る手で夜空の顎をなぞり、かすれ声で哀願した。
「私にも、触れさせてくれ……! 許してほしいんだ、君の全てを知りたい」
まるで姫君を口説くような物言いがほほえましかった。夜空はハートマークまで飛ばす勢いで抱擁した。そして攻守交代と相成った。
「んっ、ん、ウィルぅ……♡ どこでも触ってね、夜空を全部だよ」
ベッドのヘッドボードにウィリアムがもたれ、座りこんだ脚の間に夜空が収まる。夜空は旅をする前のように胸を高鳴らせていた。ウィリアムはガウンの肩を引き、そっと夜空の肩を露出させる。寒さに震えた背を抱いて、そろそろと手を伸ばした。
初め彼は、遠慮深く胸元に利き手を滑り込ませた。やわらかくしなやかな筋肉を押し、手のひら全体で厚みを確かめる。そうして平たい夜空の胸を執拗に撫でまわす。同時にむき出した肩に顎を乗せ、髪に鼻先を突っ込んですんすんと匂いを嗅いだ。寝る前にハーブ水で清めてはいたが、匂いまで知られるのは恥ずかしかった。ウィリアムが首筋を鼻梁でなぞりあげ、唇でくすぐって、甘噛みして最終的には食らいつく。歯の硬さすら嬉しかった。
「はぁ、ん……いいよ、ウィル……♡ もっとして欲しい……♡」
夜空はわざと甘えて鳴いた。ウィリアムが乳首までつまむ。痛みに似た刺激が胸の奥まで貫いてくる。肩をすくめたら、なだめるように優しく撫でてくれる。首や鎖骨、それに人耳や獣耳、髪までもくわえられて味わわれる。
ウィリアムの愛撫は執拗なのにどこかおびえていた。薬指で乳首をこねる、押し込んでは摘まむ、だけれど夜空が反応すると、びくついて手を引いてしまう場面が何度もあった。夜空はいちいち手首をつかんで、もう一度心臓の上に添え直してやらなければならなかった。「好きだ、よぞら。愛している……」とひっきりなしに繰り返しているが、それは性的な触れあいに免罪符を求めているようでもあった。夜空はいちいちうなずいて、ウィリアムの左手を握ってやった。そしてささやく。
「嫌だったらね、『カナリア』って呼ぶから……そうしたらやめて」
「んっ、分かった。私の『Sugar』……こう言ったら夜空も止めてくれ」
目配せしあうとウィリアムの左手は離れていき、ウェストを掴んでまたお尻に回った。あつかましく撫でられても、彼からなら快感になる。飢えが嬉しい。与えてやれるから。ウィリアムは夜空の尾にも触れたかったようだ。きゅっといたずらっぽく掴んで、毛の中に指を梳き入れている。
夜空の性器も今や腹につくほど屹立していた。しかし、相手のペースに合わせたくて、何も言わず、内ももを秘かに擦り合わせていた。胴をぎゅっと抱きすくめたり、狼耳を舐めあげたり、うなじに鼻をうずめたり……時には、再び勃起した男性器を、尻の割れ目に食い込ませていた。ウィリアムの心臓の動悸は密着した背中からも感じ取れるほど著しく速くなっていた。
「ウィルぅ……もう一回、してあげていい? 俺、まだヴァージンだから。ここにはジェルもないし……入れてあげられない」
「え? あ……だ、ダメだ、『Sugar』! それは完全にソドミー行為だ!」
「ん、だからもう一回。俺ね、ウィルのそこにだってキスできるよ」
「な、なにを……よぞら……そんな行い、堕落そのものだ……!」
「だ、だってウィル、切なそうじゃないか。でもごめん、嫌なんだもんな」
ウィリアムは子供のようにいやいやをして、夜空の黒髪に顔を突っ込んだ。胸の尖りには指をかけ、下腹を撫でまわして、いっそうぴったりと密着してくる。
「よぞらを、犯したくない……!」
その涙声自体は彼の高潔を示すものだったが、裏には膨れ上がりすぎた強い欲望が透けて見えた。夜空はガウンの腰をまくりあげ、彼にそっと尻の膚を押し付けた。「くうう♡」とウィリアムが鳴く。はぁはぁと低い息だけが響き、尖り切った肉棒が柔らかな部分に食い入ってきた。
「ウィル……♡」
夜空は甘ったるく呼んで誘惑した。
「俺のお尻にいっぱいかけてね。いつか包んであげるからね♡」
修道士として禁欲と貞淑を旨としてきたウィリアムも、そこまで直截な誘いには耐えられなかった。腹部にするどく爪を立て、熱くなりきった性器で尻たぶをこねあげてくる。そうしてついに、ウィリアムは夜空の勃起にまで指をからめてきた。夜空は振り向いて、礼を言う。
「はは……ありがと。俺もね、すごくセクシーな気分なんだ。ウィルとね、セックスがしたい」
「うう、うっ、ふっ、ううう、夜空、こんなに溜めて……! 私のだ、全部私のだ……あああ、もうっ、耐えられないっ……!」
ウィリアムはわなわなと震えて、とうとう露骨に尻の谷間へと性器を滑らせた。実際挿入していないだけのきわどい体勢で、ぐっぐっと前後に擦り始める。夜空のそれを握る手つきは想像以上に巧みだった。夜空は待ち望んでいた快楽を与えられて、自分も腰を使い始めた。肉竿をしごきあげる指は非常に的確だ。裏に浮いた筋に親指を宛てがい、きゅちきゅちと迷いなくしごきあげる。くっきりした快美感が暴力的に叩きこまれてくる。
「んっ、んっ、くぅうんっ、ウィル、ウィルぅ……! 好きだよう、気持ちイイよ、激しくていいからもっとちょうだい……!」
夜空は甘ったるい声をあげて狂おしく悶える。先走りのおかげで滑りやすくなった会陰をウィリアムの欲望が擦り上げる。きゅっと力をこめて双丘を寄せ、お尻で挟んでやった。ときおり互いの男性器が触れあうのも楽しかった。夜空は焦って股間に手をやり、先っぽを意地汚くくじって絶頂まで昇り果てる。
「あっあっ、ひあああっ、ウィル、俺、出ちゃうよぉ……♡」
「よぞらっ、おっ、おおっ、夜空、夜空、よぞら……!」
互いを呼び合う甲高い声。二人は忙しくしごきあい、凍り付いたかのように数秒、静止していた。全体重を遠慮もなくかけあって、のけぞり、顎で押さえ込む。中心の茎から真っ白なしぶきがびゅるるるっと放出される。シェイクしたシャンパンの栓を切ったかのようだった。勃起の角度が急すぎて、二人の精は夜空の胸元まで吹き上がり、ぱたたっと音まで立てて肌を染めた。
股間から脳天までを一直線に繋いで、快楽がはじける。オーガズムへの到達。祝杯の泡がはじけていくみたいな、濃密で喜びに満ちた瞬間だった。わななく性器がしだいに落ち着きを取り戻す。マスターベーションとは違って、索漠とした事後はなかった。パートナーの肌の温かみが、覚醒の寂しさを癒してくれる。ウィリアムはまだ夜空の頭皮を鼻や舌で味わっている。ぬるまった愛欲の残滓。立ち上る性の匂い。夜空はしばらく脱力して、心地よさそうに顎をあげた。
「ねぇ、ウィル……俺でよかったら、まだ一緒にいてね」
「何を言ってるんだ……君は私のステディだ。別れたつもりなんかなかったぞ」
自分たちの遠い先祖がしていたように、滑らかな頬をぺろぺろ舐めあげながら、夜空は懺悔した。
「俺は君を理想化しすぎ、怯えも、欲望も、背負っていたものも無視してた……はしゃいでいただけで、不実者だったんだ」
ウィリアムは答えずに夜空を後ろから抱きすくめた。夜空は瞼裏から涙がにじむのをこらえつつ、語りかけた。
「本当は君もただ一人の、孤独に震える少年だったんだな……もう大丈夫。君はもともと運命に立ち向かう意思をもった人だし、俺もそれを手伝いたい」
夜空の台詞に、ウィリアムは強くうなずいた。
「誰かに命じられて人を呪い殺すような将来は選びたくない。私とてそう決めていたんだ。それなのに、学長の命令には忠実でありつづけ、君に要求ばかりしていた。その……ずっと考えていたことなんだが」
夜空はウィリアムに抱かれたまま、のびをして振り返った。彼はごく真面目な顔付きで、狼耳を撫でながら申し出てくれた。
「君の故郷の『日の輝巫女』という魔物。その排除に協力したい。君ほどの力を秘めたマジシャンなら、夢物語ではないんじゃないか?」
夜空は改まってウィリアムに向き直る。膝を突き合わせ、正座して両手指を突き合わせ、深々と頭を下げた。馴染みのない礼をとられた彼は戸惑ったが、それでも意味を察したか威儀を正した。
夜空はウィリアムの両手をまとめて握りしめた。そして、屈託なく笑う。
「ありがとう。闇は常に光と共に……ウィリアム・エヴァ・マリーベル。君のすべてが、俺の希望だ」
悲劇の晩の小さな約束。
それは、過ちばかりだった夜空の生涯における更生の第一歩であった。
47
ダークメイジ・カルリーニ伯爵のその後の対処は鮮やかだった。学園祭の事件に関する闇属性塔からの償いとして、週末の晩にサロンを解放して夜会を行い、決闘制度の是非について学生が話し合うという場を提供したのだ。
『決闘制度の廃止』。これは夜空たち闇搭の一年生が、ウィリアムも加えて出した結論だった。上級生の中には、シリルのような不穏分子を学生間で排除できなくなると反対する声もあった。また、三年時に行われる『術師対決』についても懸念が上がった。『術師対決』では、練習や本番で夜空の実技入試に似た不幸な事故が起こる場合もあった。今までは『決闘制度』により不問の処理をされていたのだ。
議論は闇塔内でも盛り上がりを見せ、廃止論代表としてクラウス殿下が触文を発し、署名が募られた。
その運動の実質は『決闘制度』を悪用して気に喰わぬ学生を葬り去ろうとした学長に対する牽制である。騒動への批判から目をそらす狙いもあった。
夜会は短い準備期間を挟んで、十一月下旬からクリスマス休暇の直前までの週末に催された。客足は盛況で、あらかじめ参加者名簿を作って人数を制限せねばならないほどだった。
サロン正面に本日掲げられた絵画は、一角獣にまたがる妖精たちの行進だ。蒼い湖水を遠景にして、ベリー実る金色の枝をかかげた妖精が、鳥たちとともに駆けぬけていく。金の馬具に鮮やかな馬衣、それはまさにたまゆらの幻視、異界からの麗しき凱旋。
壁に寄せられた長机には、街から取り寄せた豪華な夕食がずらりと並んだ。塩漬けのキャビアや、オリーブやピクルスの盛り合わせなど、前菜の時点で学生の身では手が届かないものばかりだ。メインディッシュは海産物が中心だった。タラと鮭のクリーム煮はあっという間に男子の胃袋に吸い込まれていったし、女子たちはイクラをグラスに盛り付けた宝石のような副菜を洒落た手つきで掲げて忍び笑いした。
飢えた若者には、文字通り参加するだけでも価値があったと言えよう。なにせ、普段の寮の食事は量をかさ増しした薄味トマトスープや大味なパンで、チーズがついていれば上等という水準なのである。水属性塔が学園祭に振舞ったアイスクリームの残りや、土属性塔が農家と協力して新開発した薬草膳、また聖属性塔が試飲会を開いていた今年のワインなども再登場した。学生たちは、台無しになった学園祭が永久に続いているような熱狂に酔っていた。
最終日のその夜には、二組の特別なゲストがあった。
重たいドアからルーシャンのヴェルシーニンが祖国の同志を引き連れて訪れた瞬間、万座は緊張に包まれた。彼は白の羽飾りがついた軍帽をかぶり、アンティークの金ボタンが輝くダブルブレストの上着を羽織った正装であった。冷たい印象のある風貌は年若き将校候補として、磨き抜かれた刃のようである。
一方、休戦中だが敵国の将であるクラウス殿下はカルリーニ伯爵とともに貴賓席に座っていた。こちらは燃えるような紅色をした詰襟の軍服で、フォレストグリーンのマントは四角形を組み合わせたシンメトリーなパターンで飾られ、輝く糸で刺繍された鳥や花が生きる喜びを可憐に謡いあげていた。胸には王家の勲章が光り、冬色のヴェルシーニンとは好対照をなしていた。
宿敵同士である二人は、互いに守兵を引き連れて向かい合った。殿下の隣に控えていたソフィア・リーフェンシュタール嬢が、テーブルクロスの上につと羊皮紙を広げる。ヴェルシーニンは敬礼し、かがみこんで羽根ペンで『決闘廃止』の署名にサインをした。
ピアノに坐っていた夜空は、その光景を見届けると、シューベルトの『12の高雅なワルツ』に取り掛かった。ホ長調の明るい主題が堂々たる強さで響き、舞踊の始まりを高らかに告げる。即席のカップルがそこかしこで生まれ、口笛が長く尾を引いた。自然な拍手がばらばらと起きる。ソフィアも神妙にスカートの端を引き、ヴェルシーニンの相手役をつとめた。サテンの白地に上品なレースを重ねたスカートが、ふわりと空気を孕んで揺れた。その可憐さはまるで雪山にエーデルワイスが開くようであったと、訳知り顔に品評する詩人志望もいた。
「夜空、彼女、来たみたいだぞ」
女子学生たちから多数のアプローチを受けてやにさがっていたバラデュールがいつの間にか戻ってきていた。夜空は弾き手を交代し、お目当ての人物の前に歩み出た。夜空の恰好は入学式と同じく、紫のクラヴァットにフード付きケープの学院正装だった。長い黒髪を背でひとつにまとめていた。対する少女のカクテルドレスは、澄み切った青空の色。
栗色の髪を二つのシニヨンでまとめた彼女は、メイクアップにも抜かりなかった。ピンクのルージュに、紺のアイライン。フィッシュテールの愛らしいドレスは色とりどりのビーズできらめく。
炎塔の女剣士、ズデンカ・ヴェルコヴァに連れられてやってきたその娘こそ、シリルの従姉であるフローレンス・クーリール・ド・リュミエールであった。二人は向き合い、夜空は軽く礼をして、手を差し伸べた。
「一曲、お相手いただけますか?」
何を想っているのか、彼女は気の強いまなざしに涙を溜めていた。バラデュールが間を見はからって、ラヴェルの『高雅で感傷的なワルツ』を弾き始めた。二人は手をつなぎ、円を描いて踊り始める。抱擁は恋や愛にも似て非なるうやうやしさであった。二人は単なるビスク・ドール。主役級であるソフィアとヴェルシーニン、そして脇を固めるフローレンスと夜空のダンス……二組のダンスには政治的な意味しかなかった。万聖節の惨劇は過去となり、ルーシャンとハンガリアとの表向きの休戦は続く。それがダークメイジ・カルリーニ伯爵によるシナリオであった。
クリスマスと新年を控えた慌ただしい時期の、一分と二十秒にも満たない一齣。それは色彩魔術とロンシャンの和解を印象づけるための空疎な挿画。
夜空は勝手知ったる曲が終わるとフローレンスの手の甲にキスをして、シューベルトの短いワルツを弾き続けるピアニストに戻った。
ヒロインとして引き立てられたフローレンスはしばし呆としていたが、やがて己を取り戻した。高貴な方々や魔術師たちの前で、サーカスで磨いてきた色彩魔術の真髄を披露しはじめる。イリュージョンの始まりに、観客もまたはやし声をあげた。
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『決闘制度の廃止』の署名に連なった学生の名は優に百を超えた。院生も含め、過半数が賛成したということになる。中には『決闘廃止』の報にいちいち母校を訪問してきた卒業生たちの名までが加わっていた。その後、シスター・グラジオラスは停職処分となり、クルセイダー・エルヴィンの手により賢人機関に身柄を引き渡された。
学長はあっさりと彼女を見捨て、また愛弟子であったシオン図書館長は学長代理に就任した。シリル・クール・ド・リュミエールとフェリックス・チェンは退学処分になった。『スペルユーザー』としての資格を認定するための最終試験においても、彼は魔法を発動させることができなかったという。
三月末、ちょうど試験が終わったころに、夜空はウィリアムとともに、マスター・ヨナに連れられて、客船用のペンシル波止場に向かった。客を満載した船がゆっくりと滑り込んでくると、船のタラップから、銀色の毛並みをした猫亜種の少年が真っ先に駆け下りてきた。
うなだれるシリルとフローレンスの姿を見て、彼は安心したようだった。シリルは彼と入れ違いで足早に客船へと乗り込んでしまった。フランネルのコートを着た少年は、フローレンスの紹介により、夜空たちに丁寧なあいさつをした。
「アンリ・“インテンスバイオレット”・ロシェ・アロードと言います。レクサゴーヌ出身で、フローレンスとは許嫁です。彼女からの手紙で一連の事件について聞きました。その……父は病床で、お訪ねできなくてすみません」
彼は柔らかそうな黒髪をきれいに撫でつけた、大人しそうな人物であった。夜空は握手を交わし、シリルとのいきさつについて、フローレンスとともに説明した。彼は不安げに聞き入り、代わって頭を深く下げた。
「……本当は、シリルたちには入学をあと一年遅らせてほしかったんです。実技入試の事件は不可解だし、僕の父も病気がち。色彩魔術の次代を担うふたりには傍にいてほしかった」
アンリは船のほうを心配そうに見据えて、ちらりと本音を漏らした。
「シリルの父親はショーでもあまり稼げなくて。実は、ロンシャンの組織からいろいろな『仕事』を請け負うこともあったんです。あいつ、その反動もあったんだろうな。……どうか、ゴールドベルク様には宜しく伝えてください」
トレンチコートに身を包んだフローレンスも丁重なお辞儀をした。アンリに手を引かれ、彼女もタラップを渡っていった。夜空は感慨深くつぶやく。
「シリルは去ったね」
裏事情を知ったウィリアムは複雑そうにうなずいた。
「そうだな。更生できるといいが」
マスター・ヨナは次第を見届けると、出航を待たずに学院へと歩き出した。周囲を見回しながら、アルトの美声で告げる。
「ロンシャンのゴールドベルク氏からの手紙が届いている。何と、夜空個人宛てだ。シャドウウォーカー支部に寄るぞ」
49
寮に帰ってきた夜空とウィリアムは、扉を閉めたきり長いキスを始めた。祈月について知りすぎたウィリアムは、闇塔の所属に一時変更となっていたのだ。
ひとしきり抱き合った後は、二人でボスからの手紙を開いた。真紅の薔薇のプリザーブドフラワーが添えられたそれは、臙脂のシーリングワックスで堅牢に封がされていた。オリーブの小枝をくわえた小鳥とベルの印章。
中身はアルカディア魔法大学の学長がロンシャンに好意的な人物に交代したことへの歓びと、そして近く調査のためにもっと有能な人物を差し向けるという連絡だった。さらなる学問への激励で締めくくられたその手紙は、きわめて流麗な筆跡で書かれていた。
夜空はその栄誉に胸を張った。軟骨には銀のピアスも光る。ウィリアムはよく思っていないようだったが、夜空はゴールドベルク氏にはやはり恩義を感じていた。セバスチャンとミヒャエルが『パーパ』と仰ぐかの人は、柔よく剛を制す。雨糸のように砂礫へ染み込む計略は、ここアルカディア島にも通じている。
四月からの長い休暇については、解呪のためマリーベル家に赴くことに決めていた。返事を書く前に、士貴と通信をして、予定を擦り合わせなくてはいけない。
夜空は手紙を畳み、入念に隠すと、懐から『新月刀』を取り出した。ウィリアムの前で水平に構え、鮫皮鞘にほどこされた小窓をぱちりと開ける。中には紅の月紋が描かれていた。
「この隠し紋が太りきって満月になると、効力を失うんだ。新たな術者の血か、天山にある神泉で洗う必要がある」
ウィリアムは首を動かしてためつすがめつ眺めた。
「夏目雅の話によると、祖父・耀は、罪を忘れたがって何度も何度も洗ったんだって。今は俺の父、源蔵の血で動いている」
体の一部を捧げると術者には呪いがかかり、からくりの新月紋が視認できなくなる。それが日ノ本全土の魔術師を統括する、祈月一族の当主たる証なのだ。夜空はウィリアムの目前に刀を掲げて続きを語った。
「……だから祈月は常に信頼できる人物を傍に置いてきた。日ノ本の魔術軍総帥として国内の術師を統括するならば、この刀の呪力が命綱だからね。今はまだ父の力で動いてる……だから俺にも紋が見えるけど、いずれは必ず俺が代わる」
夜空は黒光りする脇差を突き付けたまま、ウィリアムに尋ねた。
「……ねえ、君が俺の相棒になってくれる? そして、この仕組みを誰にも秘密にしてくれる?」
ウィリアムは腕組みして、了承した。
「分かった。誰かを不幸にするだけの魔力なんかもともと私には必要ない」 「その意気だよ。裏切ったら俺は必ずそうするからね」
夜空は刀を下ろした。そして祖父の代からの闇の符丁を口にした。
「『満月までは、あと何夜?』」
ウィリアムはあやまたなかった。不敵に笑い、隠し紋の状態を告げる。
「……ハーフムーンといったところだ」
夜空は確認し、ぱちりとからくり扉を閉じる。長い苦難の生涯に、新たな友を得た瞬間だった。
50
さて、ここにもう一通の出されなかった手紙がある。
『セバスチャン・ゴールドベルク殿
初めまして、わたくしは夜空の弟、祈月清矢と申します。
今年十五歳で、日ノ本のジュニア・ハイスクールに通っております。
お便り申し上げた理由は、大統領の御子息たるあなた様にペンパルになってほしいという子供じみた願いではございません。わたくしの兄、祈月夜空に関するものです。
彼は六年前、我らの父・源蔵や親族から祈月の歴史ある品々をすべてロンシャンへと転送石で運び去りました。当人にはガールフレンドと父からの返却要求を送りつけておりますが、返答如何では盗難事件として捜査するつもりでおります。
持ち去られた品々のリストは以下のとおり。
- 新月刀(真打)
- 金蒔絵螺鈿竪琴 銘『飛鳥』伝嘉徳親王所持 祈月家伝来
- 白銀二色地新月紋流水文様陣羽織 伝祈月家初代・求徳公耀所持
- 白緋色二色地新月紋籠目文様退魔陣羽織 伝祈月初代・求徳公耀所持
- 夏目雅書写・『古今和歌集』光源院本複製写本 全二帖
- 扇子四面 『新古今和歌集』春夏秋冬 白燈光宮季徳書
すべて日本国の鑑定なしには正しい値がつかない品と思います。
運搬代は当方で負担いたしますので、調査ののちご返送くだされば幸いです。
真心とともに 祈月清矢 AK1309,August,3rd』
軍閥闘争に汲々とする父の代理としての、祈月家次男・清矢による信であった。この手紙は実は、当時十五歳の清矢自身の筆ではなく、その名を利用した結城疾風博士による策略で、いらぬ警戒を招くとして父・祈月源蔵によって却下されたが、内乱の隙を縫って宮家の歴史すべてを奪いさった夜空への反感は、国元で着々と育っていた。
(了)