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あおうま
#敬文×清矢 #[創作BL版深夜の60分一本勝負]

お題:「紅葉」「秋」

 学校から帰ってくると、敬文が「清矢くん、ちょっと」と客間に引っ張り込んできた。俺は制服のまま敬文の根城に少しドキドキしながら入った。二人の間は恋人なんだか違うんだか、宙ぶらりんな感じ。敬文は楽しそうに、「目をつぶって」って命じた。どうしよ、キスされたら。そんな風に半分期待し、半分恐れながら瞳を閉じる。次に「手のひら、パーにして出して」と言われたので言われたとおりにしたら、掌に薄いかさかさしたものが置かれた。
「な、なに?」
「もう目、開けていいよ。手は握らないで」
 言われた通りにすると、手のひらに乗ってたのはきれいに色づいた楓の葉。こっくりした紅色で、見ているだけで頬がゆるんだ。葉脈を持って、ひらりと明かりに透かしてみる。他愛なく喜んでいる俺を見て、敬文も楽しそうにしてる。
「実はね……おそろいなんだ」
 そう言って、読んでた本(『カラマーゾフの兄弟』二巻)を開いて見せた。しおり代わりに落ち葉が挟まってる。こういう、少女漫画みたいな洒落臭いことを真顔でやっちゃうのが伊藤敬文って男の可愛いところだ。ずっと年上のひとなのに、そんな風に思って俺はにまにま笑みを浮かべる。
「もー。敬文。そういう憎いことして見せる~」
「だってもっと君にアプローチしたいもん。俺だって必死なんだよ……」
「はは。何か変なの。必死になんなくたって、俺は敬文が大好きなのに」
 そう言って葉っぱを持ったまま寄り添って、肩にすりすり頬ずりする。甘えてもいい大人の人、っていうのが近くにはあまりいなかった。父に甘えたことも数えるほどの俺は、十七歳よりも子供っぽく、敬文に求愛する。
「それとも美味しいもの食べるほうがよかった? 読書の秋ってよりは、食欲の秋がメイン?」
「読書は……最近あんまりしてない。敬文の読んでるそれ、面白い?」
「兄弟のキスシーンがある」
「ええ? 兄弟の? うーん、そんなのより……」
 俺は敬文の肩を抱いて、ちゅっと首筋にキスした。いっつも自分がされてる方だけど、何とも独占欲丸出しの行為だ。
「若いにーちゃんと高校生のキスがいい♡」
「し、知らないな、そんなの。あと、別にそういうキスシーンがあるから読んでるわけじゃないけど……!」
「苦しい言い訳ありがと。文学読んで妄想するより、ここに相手がいるじゃん?」
 そう言ってぎゅっと抱きつくと、とうとう敬文は降参して本を閉じて押し倒してきた。
「悪い子だな清矢くんは……! キスなら何度だってしてあげるよ。でもね、俺はね」
 敬文はそう言って真正面からキスしてきた。
「落ち込んだりグルグルしちゃってるときには、言葉よりキスちょうだい」
「思いっきりディープなやつしてあげる♡」
「い、いや触れるだけのやつでいいから……」
 同じ小説に手を出すのはちょっと恥ずかしくて(何せ居候してるからすぐバレちゃう)、俺はもらった葉っぱを大好きな詩集にはさんだ。よりによって簡単で真理語っちゃってる愛の詩のページに。いつか敬文も読んでくれたらいいのになって。
 翌日には蕎麦屋さん連れてってもらって、ちゃっかり食欲の秋デートまでしちゃってた。会話のツマに例の本の内容聞いてみると主人公はハチミツだいすきなロシアの純真な少年って、いやー、敬文さんも好きですねぇ、って笑いながら蕎麦湯すすった。(了)
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あおうま
万城目学著『あの子とQ』新潮社 二〇二二年#読書

嵐野弓子十七歳。実は吸血鬼である。現代の吸血鬼は、太陽光、ニンニク、銀製品なんかへの耐性を獲得し、人間に擬態して生きている。唯一、血の渇きについてはまだであったが、それも克服しつつあった。十七歳の誕生日の十日前、証人によって認められると『脱・吸血鬼化』の儀式への参加資格が与えられるのだ。ところが、弓子の前に現れたのは黒いトゲトゲのついた気持ち悪い浮遊球体。「Q」と名乗ったそれに監視される十日間がはじまった。

と言う感じの女子高生活躍ストーリー。このあいだも舞城の女子高生モノ読んだだけに、なんだか食傷してしまった。話もなんか、大したことないのに途中で終わってしまった感じ。でもギャグセンスが面白くて。


「きっと私、ものすごく緊張して、宮藤くんの前で、何も言えないと思う。だから、私が言いたいことをYoutubeに動画でアップして、そのURLを宮藤くんに伝えるの」
 いや、ヨッちゃん、それは――。親友がいきなり何を言い出すのかと混乱していると、
「大丈夫。限定公開モードだから。ちゃんと字幕もつけて、面白くしたから」
 とジャージのポケットから小さな紙を取り出した。(略)うん、新しい。新しいよ。ヨッちゃん。でも、未来を見据えすぎだと思う。こういうときは、もう少しアナログで、シンプルなほうがいいんじゃないかな。


親友・ヨッちゃんのキャラが強烈すぎて、ときどきウザいけど(笑)楽しい。
あと寛永生まれのヴァンパイア・佐久さん。いかにも阿部サダヲさんが演じてそうなキャラでそれも面白かった。

続編よりは、同じ人の『悟浄出立』が読みたいかも。
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あおうま
お題「年上」「無防備」
 目下祈月家に居候している年上の軍閥参謀、伊藤敬文が年末にはいなくなるというので、清矢は多少ながら憂鬱だった。もちろん、父親も帰省してくる。上司の家庭に入りびたりといった状況は居心地が悪かろう。寒くなってきた十一月の田舎町を、ふたりで買い出しに歩いた。母たちに言いつけられた買い物リストは全て補充できたはずだ。
「敬文。クリスマスはまだいるの?」
「えっ……と。そうだね、恋人になって初めてのクリスマスだから、清矢くんと一緒にいたいかな」
 そう言って小さくはにかむ姿は年上ながら可愛い。それからあれこれ話をした。プレゼントは欲しいだとか、そのリクエストだとか。敬文はちょっといいマフラーをくれると言った。「清矢くんはハンカチとかでもいいよ」。そう言って薄曇りのグレーの夕焼けを見あげる姿に、なんだか切なくなる。
 十歳差っていう不便さはいつだって感じている。清矢からすれば、もっと特別なアクセサリが贈りたい。イヤーカフとか、ブレスとか。あとはクラッシック曲のレコードとか、豪華な装丁の海外小説とか。だけど高校生が自由にできる金額は悲しいかな少ない。イチャコラ甘えてても微笑ましいで済んでるのはいいが、その先こそに興味があるのに、男は性的なふれあいには首を縦に振らない。
「同い年がよかったなぁ」
 しみじみとつぶやくと、敬文はぱちくりと目をまたたかせた。
「あの、それって俺も高校生だったらって意味?」
 そのパターンを想像していたわけではなかったので清矢は面食らった。だけど、何だか恥ずかしくて……大人になった自分についても想像なんかできなくて、思わずうなずいてしまう。敬文は少し目を伏せて、自嘲ぎみに否定した。
「それなら多分、君は俺の恋人になってくれなかったよ」
「そっかな……? 気になったと思うし、好きになったかもしれないじゃん」
「あの頃の俺は今に輪をかけてバカだった。剣しか取り柄もなかったし。俺なんて、君を教室の後ろから眺めて終わりだよ。詠に嫉妬したりさ」
「嘘だよ。そんなことない。敬文と遊んだりしたかったよ」
 本音だったが、男は押し黙ったままだ。穏やかな顔つきに影がさしている。夕焼けが急ぎ足で去っていって暗くなってきて、道も田舎じみてきたところで、小首をかしげて尋ねてきた。
「ほんとうに? たとえば俺が告白したら、OKしてくれた?」
 その姿は心細そうで、普段の穏やかながら頼もしい感じとは違っていた。IFにしても相当に無防備でナイーブな問い。清矢はもぞもぞしながらうなずいた。
「うん。だってやっぱり男同士の恋愛には興味あったろうし。今みたいに優しい敬文なのは変わらないと思うから……」
「ちゃんと優しくできたかな。例えば……なんか歯止めとか効かない気がする。あっという間に君に手を出しちゃったりとか」
「えー? ってことはやっぱり敬文は俺とそういうことがしたかったりして?」
「からかうなよ。ほんとに、高校生同士だったら……」
 伊藤敬文は溜息をついて、清矢の肩を抱き寄せた。
「守れたかどうかだって怪しい。俺はその言い訳で、詠から君を奪ったのに」
 このひとはわるいひとだ、と清矢は再三思い知る。清矢たちをめぐる政治情勢は微妙だった。父が敵対する鷲津総将はスキャンダルがでて解任寸前だ。海外に高飛びして家宝を持ち逃げしている兄は行方不明で、近所には魔族の女を信仰する眷属たちの集落がある。そんな中、高校生じゃ君を守れないんだ、と言って幼馴染カップルを引きはがしたのがこの伊藤敬文だった。彼にとっては清矢を守るのは、贖罪である。魔法を使った戦のために、清矢をはじめとした若者を従軍させた。清矢はすべての駆け引きにYESと答え、ブレーンを文字通り抱きこんだ。敵方からすれば、ほんとにわるいふたり。
「ん……敬文、あったかい」
 議論には付き合わず、清矢は甘えて頬ずりした。通り過ぎる家からは夕飯の準備の匂いがしてくる。クリスマスプレゼントはハンカチじゃないほうがいい。そう思った。手を拭う布よりは、たぶん、あたためるグローブのほうが。何も綺麗にならなくてもいい。俺だけが汚いわけじゃないってわかっていたいから。二人は恋人関係だと知っているのはお互いだけだったが、それでもほどけないはっきりした結びつきを腹の中で了解していた。
 愛や思いやりよりも数倍強い依存めいた飢えをかみしめながら、帰路についた。夕空には星が輝き、しらじらとした美しさは打算的な恋に一時の慰めをくれた。(了)#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #敬文×清矢
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あおうま
長野まゆみ著『ゴッホの犬と耳とひまわり』 講談社 二〇二二年

とある豪商がフランスから持ち帰った一八八〇年代の帳簿には、Vincent van Goghの署名があった。本物の書簡かそれとも贋作か。
河島教授から翻訳を頼まれた小椋は、ためらいつつも依頼を引き受ける。真贋の謎は幼い頃父が読み聞かせてくれた絵本や上海租界、フランス本国へと深遠につながっていく。

少年愛ものが多かった著者の作品だが最近のは現代のも多いらしい。ゴッホの真偽から、知人の伝手をたどってひとつの近代家族史が描かれていく。
どれが誰の親戚だったかわからなくなってくる。謎解きは安楽椅子探偵的で、蘊蓄も豊富。ペダンティズムに酔いたいなら。#読書