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あおうま
水瀬結月『和菓子よりあまい求婚 (アズ・ノベルズ) 』 イースト・プレス. Kindle 版.

和菓子職人は、持てる技のすべてを駆使して菓子を語り手に仕立て、 またその物語を際立たせるために、 漆職人の粋を凝らした盆を用いる。 そうした技と技のぶつかり合いが、 本物を極めていくのだろう。

辻占六華(つじうらりっか)は老舗和菓子屋「辻占堂」の長男。しかし、天性の不器用のために職人の道を諦め、実家モデルの「甘味庵」を舞台にした刑事と探偵のバディものミステリで生計をたてている小説家である。職人になれなかったことを悔いつつも、家族を愛するが故に実家にとどまっていた。東京から越してきた幼馴染・石衣桂心(いしいけいしん)は新鋭の若手職人として工場でも一目置かれていた。六華は桂心に密かに想いを寄せていたが、ある日父と桂心が妹・香菜への求婚の創作菓子について話しているのを聞いてしまう。

商業BLも読んでいかないとなと思っていたので和ものを選びました。文章は軽妙で、話も軽快。一般の小説を読んでるのに近かった。お話はひねったところもなく可愛らしいです。和菓子の描写も美味しそう。攻めもスーパーマンではなく、不器用だが実直でかっこいい人って感じで自分ごのみだった。ただ、受けの六華の鈍感さはどうなのか……それがないと話が成立しないとはいえ……独り相撲が多いように感じる。それが両片思いってやつなんだろうか。
それと、六華たちが「義理の息子」っていう設定必要だったんだろうか? 普通に血のつながった実子でよかったんじゃないか。辻占堂のために手伝いする六華のシーンは読者にとっても嬉しいシーンだから。面白かったはずなんだけどなんか批判ぽい感想になってしまった。恋愛シーンよりもその他の部分が面白かったので、作者さんの力量は確か。

#[商業BL]
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あおうま
工藤重炬校注『詞花和歌集』岩波文庫

院政期初期の勅撰和歌集。なんでこれを読んだかというと「崇徳院の時代」だから。
藤原摂関期の主人公たる道長、その後継者であった頼通が没したのち、後三条天皇の親政をはさんで白河天皇が即位する。応徳三年〔一〇八六〕年十一月、八歳の皇子善仁親王(堀河天皇)に譲位し、以後堀河~鳥羽~崇徳朝にわたって白河上皇の院政期となる。
崇徳院は実は白川院の子であるという説も根強く、また父・鳥羽院や摂関家の分裂問題と絡んで、保元の乱に発展していく。源平合戦の前史である。敗北した崇徳院は出家したがそのまま讃岐に流された。配流後は懊悩し、経文血書によって行く末を呪い、日本三大怨霊という恐ろし気な伝説と化していったというさまがサブカル好きには印象深い。
そんな『詞花和歌集』だが、歌風としては『古今集』ののどかさから『後拾遺集』を経ていわゆる新古今調へと変化するまさにその直前である。撰者は藤原顕輔。父修理大夫藤原顕季は白川院の近臣として栄え、和歌に堪能で「人麿影供」という儀式を創始した。これが歌の家としての六条藤家のスタートである。顕輔は三男だったがこの人麿像を継承して正統を継いだ。院政期初期には源俊頼らの六条源家を凌ぐ勢いがあったようだ。この時代の政治状況は鳥羽院派と崇徳院派で対立していたため、同時代人の入集は少なく物議があり、また以後の御子左家・二条家流(=俊成流)による批判もあった。
そんな感じなのだが、新古今風に慣れた身からすると、ずいぶん読みやすいものである。歌数も全部で四一五首とコンパクトなのもうれしい。寛和元年〔九八五〕に圓融院子の日の遊びに御召もないのに推参し追い払われたなどという奇行をあげつらわれた曽禰好忠が十七首と、入集数一位。あっさりと詠みなしたような歌風が読みやすく、さわやかである。
また「別」の部もあり、任官やさまざまな理由でお別れしていく人々の餞の歌がそろっているのも当時の風習を伺わせて面白い。「忘れないでくれ」「ずっと寂しく思っているよ」系が多く、別離の心理というのに共感ができるw 今では通信が発達しているので、逆に新鮮だろうか。稚児への恋憐を歌う僧侶の作もある。
「新院位におはしましし頃」と始まる詞書も多く、時代を感じられる。崇徳院自身の入集数は少ないが、百人一首「割れても末にあはむとぞ思ふ」をはじめとしてどれも込み入った技巧でつくられた珠光の作である。春の部が次の御製でしめくくられるとき、惜春歌という行為そのものの空疎さを歌う皮肉にただ泣けてしまう。

をしむとてこよひかきおく言の葉やあやなく春のかたみなるべき
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あおうま
高瀬隼子『いい子のあくび』集英社

表題作と二つの短編が入っている小説集。帯のキャッチは『不合理な偏りだらけの、世の中に生きる女性たちの、静かな心の叫びを書く』とヒロイックな感じだが、もっと露悪的に言うと「主人公一人称語りで延々と人間を呪詛する」という感じ。キツすぎてヤバイ。「それなりにムカつく」程度のあんま問題なさそげな職場の人にも即「死なないかな」まで思ってるし……
マジで? そこまで思う? 飲み会付き合わされるの嫌なら行かなきゃいいだけじゃん。
表題作は、イイ子として感情を擬態して生きてきた社会的評価上のOLが「割に合わない」という被害者意識全開で「スマホ自転車運転」次はよりグレーな「スマホ歩き」をしている男性にぶつかっていくというお話。ドストエフスキー『地下室の手記』系統といえばいいか。
寄り添おうと思えばどこまでも寄り添えるのかもしれないけど、シリアルキラーものの主人公の心情に近いものを感じた。
痴漢ってやめられなくなるって聞くじゃん。ストレス解消のために他者を攻撃するようになることがクセになるとヤバイなあって怖くなる。
他二篇は「女同士の人間関係ってイヤだね~」という感想が真っ先に出てくる。結婚式に行かない、ってやばいよな~必ず揉めるやつ。
こういうものかもしれないけど、じゃあ女同士の人間関係にいったい何を求めているのだろうか。たぶんまっとうな友情であって、そんなもんめったに成立もしないし夢でしかないのに仲良くしてくれているってことだけでも感謝したほうがいいんだけど…とかいろいろ考えてしまう。呪詛のパワーだけはすごいから、代弁してくれたように思えてすっきりする読者もいるかもしれない。あと、人の飾らない本音って引き付けるパワーだけはすごいから、読ませる。愚痴スレとか愚痴アカとか見ちゃいがちな人にとってはよいかも。私の事ですけどね……気をつけなきゃいけないね、と反面教師にもなるのでした。

円城塔『世界でもっとも深い迷宮』2016年 Kindle

Kindle書下ろしなのかな? SF作家の短編。ゲームブックのプレイ体験を書いている。クールで即物的な描写は持ち味か。ただ、「ゲームブックに昔ハマったりした人」ではないんだろうか? あくまで突き放して無機物なシステムとして見なしている感じがする。その距離感が面白さを呼ぶこともあるとは思うが、ゲーマーとしてはちょっと物足りなかった。
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あおうま
山田詠美『タイニーストーリーズ 』 文藝春秋. Kindle 版

その状態を払拭したいがために、 目の前の快楽を貪ろうと腐心しているのかもしれません。 だって、 体から生ずるものだけは確実であると知っているから。 そこには、 共有出来なかった過去 も、 共有出来ないであろう未来も存在しない。

私は山田詠美が好きな根性の曲がった子供だった。でも長年生きてみると、彼女の小説に描かれる自由でイケてる女性像をなぞったわけではなかったと少し残念にもなる。そんな著者の短編集。話数がたくさん入ってお得だし、オチがどれも唐突、そしてシニカル。焼き直しのネタもあるけど、それはファンだから分かることかな…とも思う。「GIと遊んだ話」という、まさに山田詠美的なイメージ(黒人米軍兵と遊ぶ日本人女性)シリーズがあるけど、やっぱ面白いんだよなぁ。冒頭に引用したけど名言名句も連発。

彼女の作風って「シビア」であり「皮肉」でもある。しかし、人生が過ぎゆくものでしかなく、代わりに一時の感覚の強烈さ(快楽なりなんなり)を追い求めるというまさに刹那的な価値観で構成されているのは処女作『ベッドタイムアイズ』から変わらない。この世からはみ出した人たちの味方ではありえず、みんなエゴ全開で人を見くだしていて、慰撫のためのアジールではない世界。カッターナイフのように鋭く、使い終わればぱきんと折れて捨てられて切れ味をとりもどす。そんな感じ。

「クリトリスでバターを」は「限りなく透明に近いブルー」の原題だけど短編としてなかなか決まってる。主役の女性は魅力的だけど、令和の今となってはやや辟易もしたりとかw
ブランド名が連呼されて「素敵な恋愛」のフレーバーになってるところも古い感じがあるが、貧乏くさいのとどっちがいいかは分からんよねw

これを期に昔好きだった作家もちゃんと読んでいきたいな~
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あおうま
#告知

Waveboxから絵文字くれた方、ありがとうございます!その反応で頑張れます✌

★★ピクスクのオンイベ「創作BLオンリー関係性自論3」 に申し込みました。★★

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2023/8/26(土)23:00〜8/27(日)22:50の予定だそうです。スペースNo.は「R18b: き3」です。

この日に本編二話を出すとすると修羅場りそうなので、特設サイト+イベント合わせの短編あたりで何とか……ならないだろうかと思っています。
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あおうま
大原 まり子『ハイブリッド・チャイルド 』クリーク・アンド・リバー社. Kindle 版.

機械帝国と戦争中の人類はサンプルB群と呼ばれる兵器を開発した。核融合炉ユニットを原動力として遺伝情報を取り込み、その構造をサンプリングしてありとあらゆる生物に変容する。不死のそれはいつしか自我をもち逃亡、やがて虐待死した少女のAIと接触して彼女の心をものにし、しまいには「愛」を知るに至る……という話。二つの短編と「アクア・プラネット」という長編から構成されるシリーズで、群像劇としてえがかれているために全容がとらえづらい。
最終話は惑星ひとつを舞台にしてカタストロフィと再生が描かれ壮大である。よくあるAIものかと思いきや母子関係がテーマになっている点が特異で、描写は生物的、血が出まくりでひじょうにグロイです。内臓はあんまりないかも。アニメで見たいような見たくないような……エヴァンゲリオン耐えられない人は無理でしょうな。

文章は読みやすいので、猫テーマのやつとかは読んでみようかな~と思った

#SF