お題「羽目を外す」
俺は故郷からしたらとんだ裏切りものだった……弟の清矢たちがグランドマスターを味方につけ、堂々と手続きを踏んでアルカディア魔法大学に入学し、持ち出していた妖刀、新月刀を奪い返されてしまってから、俺は輝き...
俺は故郷からしたらとんだ裏切りものだった……弟の清矢たちがグランドマスターを味方につけ、堂々と手続きを踏んでアルカディア魔法大学に入学し、持ち出していた妖刀、新月刀を奪い返されてしまってから、俺は輝き...
大晦日、クリスマス休暇で多くの学生が寮を出ている時期だ。夜空の弟の清矢と友達の充希は居残り組を集めて風属性塔でオールナイトパーティーを開くことになっていた。夜空も誘われており、夕暮れのどこかほぐれた空...
俺は夏が好き。冷え性で冬は末端が冷えるから。風属性塔のサロンでそう言ったらルームメイトの充希は反論した。 「えー、清矢くんに似合う季節って冬じゃない。夏男は俺でしょ? 海辺のアバンチュール、階段でかじるオ...
同室の黒須イアソン先輩が風邪で熱なんか出したので、俺が寮の仕事を代わってあげることになって。五時に起きてカセラドルに集合したらそこにいたのはサボリに厳しいウィリアム・エヴァ・マリーベル。何でイアソンが...
アルカディア魔法大学はクリスマス休暇だ。俺たち極東からの入学生は、たった一か月半の休み程度で日ノ本に帰るわけにはいかないから、居残り組に入っている。だけど世話になってる黒須先生とその息子さんのイアソン...
クリスマス休暇が始まった。全寮制かつグローバル規模のアルカディア魔法大学では、一ヶ月程度の休みでは里帰りには充分でなく、とくにアジア圏の学生たちにとっては、聖属性塔カセラドルで行われるミサに参加し、故...
金曜は同室の黒須イアソンが全コマ授業の日で、俺は餌付けかよって思いながらもガムとかロリポップとかジュースとか、ともかくしゅわしゅわ甘いものを用意して、あとは念のため、一応念のためにハンドクリームの残量...
衝撃シーン。そう思ってしまったのは何でだろうか。家宝のほとんどを持ち逃げし、返さないと頑強に言い張っていた兄、祈月夜空が、「カナリアのような」と呼ぶ少年と愛を交わし合ってるのを見てしまった。 それは一瞬...
俺の清矢(せいや)くんは軍で働くために鍛錬もするけど、いつもデオドラントにまで気を使ってる。日本での神兵隊訓練の後はよく拭きとってハッカ油のスプレーをしてたし、自分でくんくん匂いを確かめてる。使い過ぎ...
兄・夜空から無事御家の重宝を取り戻し、アルカディア魔法大学に入学した祈月清矢(きげつ・せいや)は、土曜一時限目の授業、「アルカディア島講義」に出席していた。新入生必修授業である。魔法の専門教育ではなく...
アルカディア魔法大学は新入生の入寮をひとしきり終え、後は入学式を待つばかりとなっていた。魔力選抜十二番通過の櫻庭詠(さくらば・よみ)は聖属性塔を出て、ちょうど学園都市中心部に位置するローク神殿付属・風...
時は七月、時刻は四刻半。アルカディア魔法大学闇属性塔ではクラウス第一王子殿下の発令により特別賓客室にて会合が行われていた。列席者はロンシャン亡命者である草笛・K・夜空、そして彼の留学時からの道連れであ...
相対した恋人が、無骨なロッドを振りかざして叫ぶ。 「Magica!」 彼の右手のひらに埋め込まれた魔方陣が光り、単純な魔力の圧がウィリアム・エヴァ・マリーベルに襲いかかる。ウィリアムはにやりと笑い、天使の...
クリスマス休暇が近いある日、ウィリアム・エヴァ・マリーベルは喉の痛みに悩まされていた。クリスマスは聖属性塔では当然、重大なイベントで、ウィリアムもミサに劇にと引っ張りだこであった。硬い金髪に翠の目、勇...
故郷、クイーンズアイランドのミルヴァイルから戻ってから、ちょうど一か月が経った。夏は盛り、小麦は実る。 空きコマができて寮の個室に帰ってきたウィリアム・エヴァ・マリーベルは窓際に見慣れない紙細工が下げら...
ウィリアム・エヴァ・マリーベルは困っていた。 なぜなら、隣で恋人の祈月夜空が寝ているからである。 ここは寝台ではなく、アルカディア魔法大学の図書館だ。天井に至るほどの高い本棚が連なり、古代の印刷物や魔術師...
第四章 46 寮へ帰り着いたのは十二時を過ぎた夜半だった。学長側の監視役から真相の代弁者となったウィリアムは闇塔に収容され、事態収拾が成るまでは聖属性塔へは返さないことになった。夜空についても同様で、塔十階...
第四章 41 それからの夜空は元のように快活になった。『ゴースト』からの要求にはあえて乗らなかった。ウィリアムやシスター・グラジオラスに餌を与えたくはなかったし、シャドウウォーカー支部にとどまっている彼らが...
第四章 36 交易多層都市ロンシャンの中央帯は垂直積層型の線状都市である。エトランゼ・タウンはその最下層にあった。夜でも空は見えず、闇には時代遅れの燃料ランプだけが輝いていた。廃墟じみた教会のそばには噴水広...
第三章 31 五日後には毎週恒例、マスター・アジャスタガル率いる早朝戦闘訓練が行われた。冬の到来を感じさせる曇り空のその日もまた飛び入り参加があった。 質問状を送り付けてきたジョージ・ヒューゴである。もしやシ...
第三章 25 アジャスタガル率いる早朝実戦演習には、目付け役としての責任からか、ウィリアムも律儀に参加し続けていた。彼は新顔のフローレンスを見るなり夜空に不審な目を向けた。 「彼女は一体どうしたんだ?」 「ああ...
第二章 22 アルカディア魔法大学の生活も一か月が過ぎ、八月になった。農家では収穫祭が営まれ、太陽がもたらした豊穣に感謝の供物をささげている。ヒョウガ男爵の授業の終わりしな、いつもなら素早くいなくなるヴェル...
第二章 17 翌週、いよいよアルカディア島のランドマーク、ゴント山での早朝実戦訓練が行われた。参加者はマスター・アジャスタガルの元に集った闇属性塔の新入生全員と、ウィリアム・エヴァ・マリーベル、クリストフ・...
第二章 13 入学式の翌日から授業が始まった。夜空たちはクラウス殿下の近侍として、なるべく同じ授業を受講することになった。学生たちは所属属性塔の『魔法学基礎』のほかに、別属性の同名授業を最低一つは受講しなく...
第一章 9 十日後、最終合格者の名簿と所属寮がアルカディア魔術大学学院本部の掲示板に張り出された。ロンシャンから一緒だった葉海英イェ・ハイィン は六位で、妹の葉貞苺イェ・チェンメイ も十五位という快挙である。...
第一章 4 気が付くとそこは懐かしき日ノ本の渚村、草笛屋敷だった。 古びたアップライトピアノが置かれた六畳の個室で、洋風にしつらえられている。職人手製のオルゴールからは『風の歌』の旋律だけがノスタルジックに...
第一章 ここに一通の手紙がある。 『夜空へ。 突然の便りで驚いたと思う。私は日ノ本で十七歳になった。 夜空はどうしてる? みんな心配してる。 六年前のあの約束を、覚えてるかはわからない。 でも、あなたは新月刀ととも...
その二 この頃はやりのおとこのこ(2) 3 煙草臭い1LDK十二畳の新築マンションに足を踏み入れた瞬間、ハルは忌憚なく評した。 「相変わらず汚いな」 「男一人ならこんなもんだろ」 毒づいたものの、ハルの刺すような...
その二 この頃はやりのおとこのこ 1 この世こそが地獄だ。これが、「吾郎・G・マクスウェル」の信念だった。十二まで日本で暮らしていたからこそ、無常観にも似たそんな信念を持つに至ったのかもしれない。無論、カト...
その一 グッバイ私の初恋 4 カイと吾朗は授業が終わるとすぐに帰って行った。普段なら軽く雑談をして二人をねぎらうのだが、今日は諍いもあった。カイも負担を強いたと反省したようで、律儀に謝罪していた。次回は小テ...
その一 グッバイ私の初恋 1 坂本晴樹は家から歩いて二十分の神社で剣道の自主練をしていた。深夜三時、心が妙にざわついて目が覚めた。眠りなおすことも出来なくて、兄にも父にも断らずジャージに着替えて家を抜け出し...