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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #ComingOutofMagicianYozora #詠×清矢

お題「眼鏡」「意外」櫻庭詠(さくらば・よみ)×祈月清矢(きげつ・せいや)

 その時の俺の内心は「何故」「可愛いんだが」「詠×メガネで好き×好きの無限大」「詠視力悪くなったのか?」「メガネっこサイコー!」と風雲急を告げていた。黒ぶちの角ばったオサレメガネを装備した詠は俺の方を振り返って、ニッと得意気に笑った。いかんいかんぞけしからん、世界が恋に落ちてしまう!
 俺こと祈月清矢は何を隠そうメガネっこ好きだ。詠以外に告白されたことのある素敵な女の子がメガネだった影響もあるのかもしれない。メガネの「世の中のあらゆるチャラからは身を守ります」っていう無駄な防御力、醸し出される真面目キャラ、外したときの「本当のアタシ」感、視力よくないっていう若干の守ってあげたくなる度、ともかくフェチとして完璧だと思うんだよな俺は! 木曜日の「アーカイビング実習」に現れた詠はあざとく俺の興味をかっさらった。
「どう?  清矢くん。俺賢そうに見える?」
 詠はハタハタと尾っぽを振りながら得意気にブリッジをくいっと上げる。飾り気のない短髪に人懐こそうなくりくりした瞳の愛すべき詠。俺はやにさがってしまうのもこらえてとなりの席に座った。
「詠、視力悪りーの? なんか気づいてやれなくてゴメンな」
 詠はそれを聞くと頬をふくらませてニヤニヤ笑いを強くした。
「へへ。伊達メガネだって~! 清矢くんメガネ好きだろ、だから俺もイメチェンでかけてみようと思って……」
「よ、詠……!」
 俺の恋人はなんて可愛いっ! その場でギュッと抱きしめたくなったがエミーリアもドリスも充希もいるからやめといた。シオン先生がやってきて本日の「アーカイビング実習」座学が始まる。古くてきったない魔導書の切れ端なんかを訳してく地道な作業に涙が出そうだが、メガネ装備の詠は心なしか立派な学徒に見えた。
 授業が終わって俺はソッコーで詠を寮部屋に連れ込んだ。ベッドに座らせて両肩をがしっと掴む。
「詠っ、俺な、俺……実はメガネフェチなんだ。そんで『キスのときも取らない』派閥なんだっ……! 頼む、俺に夢をかなえるチャンスをくれっ……!」
 いつもは詠がワンコっぽくおねだりばっかりなのに、俺は身も世も捨ててマジ顔で頼み込んだ。詠はこくんとうなずいてレンズの奥のまぶたを閉じる。俺はドキドキしながら顔を近づける……! 思った通りメガネが邪魔でまつ毛にかすっちまう。俺は弦をつまんで、ちょっとズラして鼻と鼻をくっつける。マジで夢見たとおりの仕草だっ……! ぎゅうっと抱きすくめてそのままベッドに押し倒すと詠がちょっと焦った。
「清矢くん、何コーフンしてんだよ~! やっぱメガネ取ろーぜ、邪魔だよこれ」
「だ、ダメだっ! メガネは乱れてこそ花! 取るなんてとんでもねーよ!」
「ヤダよ、壊れちまうじゃん! このまんまエッチすんの……? な、なんかヘンタイくせーな」
「いまさら何言うんだよっ♥ なー詠、一生の願いだ! メガネっ子との妄想叶えさせてくれよぉおお!」
「んー、じゃあフルコースでお願いな。俺溜まってるから……入れさせて……くれるよな?」
「もちろんオールオッケー!! その代わり絶対はずすなよ! メガネが本体っ!」
 俺は勇んでジャケットとシャツを脱ぎ去り、もったいつけてそう簡単にはヤラせない普段とは別人のように鼻息荒く詠を襲い始めた。ずれたメガネ越しにあえぐ詠はサイコーに可愛かったね。思わず新しい境地に目覚めそうになっちまった。やりたがりの詠は翌日もメガネかけてくるかと思ったけど、調練場で元気に跳ねながらバッチリ裸眼だった。
「なぁ詠ー、今日はメガネじゃないのか?」
「さすがにメガネが本体っていうのはなくね……? たまの楽しみってことで」
「何でだよぉお! 俺に毎日トキメキをくれよ!」
「だって俺運動するしキスもしづらいもん……」
 詠はそう言って俺の腰を抱き寄せ、キスに及びそうになったが俺は両手でブロックした。
「何往来でことに及ぼうとしてるんだよ」
「清矢くん、ここは流されるシーンだろ? メガネかけてたらオッケーだったのか?」
「うん。メガネっこのすることなら何でもオッケー」
「それって俺よりメガネが好きってこと……」
「まぁ当然だろ。対清矢サマの強烈なバフだよメガネは!」
 そう本音を告げてしまうと詠はふくれて俺を離した。
「……もう二度とかけねえ」
「えーっフェチなんてそんなもんだろ! お願いだよ詠~! まだ俺の最高のエロ展開コンプリートしてないじゃん!」
「ダメっ、ダメだ。俺の清矢が歪んじまう!」
「厳しいママかよお前は! もう歪み切ってるからー! な、お願い! メガネ男子のシチュだけでも俺何通りも考えられるから!」
「じゃあ俺のお願いも聞いてくれる? 今日も山小屋行って二人っきりでしたい」
 俺は上目遣いの詠に問われて思わずうなずいてしまった。ダメだねー男のフェチは即物的だよ。これからしばらく俺の腰大丈夫かな? 普段と立場が逆転しちまったけど、満身創痍でも俺は叫べるぜ。『メガネかけた詠サイコー!』ってな。(了)
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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #マリーベル×夜空 #ComingOutofMagicianYozora

お題「スーツ」「イメチェン」ウィリアム・エヴァ・マリーベル×祈月夜空

 大晦日、クリスマス休暇で多くの学生が寮を出ている時期だ。夜空の弟の清矢と友達の充希は居残り組を集めて風属性塔でオールナイトパーティーを開くことになっていた。夜空も誘われており、夕暮れのどこかほぐれた空気のなか、ジャケットだけ羽織ってお菓子片手にサロンへと急いだ。
 風属性のエメラルドグリーンの魔法石が鎮座する大理石造りのサロンには、紙のモビールやバルーンで飾りつけがされていた。清矢と充希がいないので探したが、彼らはどうやらキッチンで何かご馳走をこしらえているようだ。夜空は教えてくれたミル・サルーマやマリアンヌといった綺麗所と共にロゼシャンパンを片手に待つことにした。
「今夜、マリーベル先輩はお越しになるんでしょうか?」
「誘ってたし来ると思うよ」
「わたくし、信仰について先輩とお話したいですわ! 普段は何か避けられていて……」
「気のせいじゃないかな? ウィルは理由なく人を遠ざけるようなことはしないよ」
 噂をすれば影というもので、四半時も待たないうちにウィリアム・エヴァ・マリーベルが花束片手に登場した。場が華やぐとはこのことだ。普段はお仕着せの修道服だが、カーキグリーンのスーツに、濃いブルーのファッションシャツを合わせ、ノーネクタイで決めている。金髪緑眼、意思の強そうな美貌の青年が鮮やかに着飾って現れ、ミルもマリアンヌも修道女という立場なのに浮かれ騒いだ。
「きゃぁあああっマリーベル先輩! スーツお似合いですわっ」
「素敵ですね、モデルさんみたいです」
 あっという間に女の子ふたりに囲まれている。夜空も頬を紅潮させながら取り巻きに加わった。
「ウィル、素敵だよ! 君もそんな恰好をするんだな」
「夜空……いや、パーティだと言うから。セイヤやミツキはまだか?」
「キッチンで何か準備してるみたい。俺たちは先にお酒いただいてるよ」
「私はビールがいい」
 ウィリアムはポケットに手を入れつつ夜空のとなりに座った。清矢・充希・詠の三羽烏が大皿いっぱいのミートローフを持って登場する。料理のにおいをちょうど嗅ぎつけたのか、葉海英・貞苺兄妹といったアジア組、またオルク・ジェド・アースシーといったアルカディア島出身者なども集まり始めた。詠が聖属性塔制作のワインを栓抜きで開け、清矢の号令でパーティの幕が切られる。女の子は花に引き寄せられるミツバチがごとくに着飾ったマリーベルに声をかけていく。
「夜空、切り分けるの手伝ってくれよ!」
 弟のくせに態度がでかい清矢が上から目線で言いつけてくる。恋人の美しさに浮ついた気持ちになりながら、夜空は日本人グループの輪に入っていった。
 ……一年をしめやかに追想するといったまじめさとは程遠い、騒いだパーティが始まった。レコードでジャズやオールディーズがかかり、ロンシャンで勉強漬けだった夜空は曲目をいちいち清矢に教えられる。気づくと、ウィリアムと話す機会はほとんどなかった。ニューイヤーカウントダウンがはじまり、特別に図書館で鐘が鳴らされると同時にクラッカーがはじける。みな酔いまくっていて、笑い上戸の清矢などは詠の一言一句をからかって楽しそうだ。
 手洗いに行って熱を冷ましたくて階下に降りると、ウィリアムもやってきた。暗がりに明るい色合いの青年が浮かびあがる。ファッショナブルな装いに身を包んでも、育ちの良さは隠せずに、姿勢はよく所作も丁寧だ。階段に座っていた夜空はへにゃっと笑って手をこまねいた。
「ウィル。君も酔いざましかい?」
「ああ。夜空、君を追ってだ。まったくマリアンヌは軽薄な……修道女だという立場を分かってるのか」
「君のことが好きなんだよ、かわいいものじゃないか」
「……私の恋人は君だ」
 仏頂面になりながら、ウィリアムはそう言った。生真面目なその物言いがくすぐったく、夜空はいきなり唇にキスした。とたんにウィリアムは赤くなってそっぽを向く。
「あけましておめでとうございます。来年もよろしく」
「……ああ、君には来年も驚かされそうだ」
「えへへ。こんなサプライズなら任せて」
 笑いながらそう言って頬を小突く。横から思いっきり抱き着いて、ぬいぐるみにするように頬ずりした。汚れなんてなさそうな美貌も、ひたむきなまっすぐさも、照れ屋なところだってみんなみんな、今だけは、俺のもの。パーティを抜け出した二人だけの幸せに酩酊しながら、夜空は特別な夜に感謝し、ウィリアムの肩に頭を預けた。(了)
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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #詠×清矢 #ComingOutofMagicianYozora

お題:「お花見」「花びら」櫻庭詠(さくらば・よみ)×祈月清矢(きげつ・せいや)

 三月初旬、そろそろ試験だって言うんで授業も追い込みが始まったころ。トモダチの充希が俺にこっそり耳打ちしてきた。
「レダ・アチュアンの実家に行く約束したんだけど、疑われないよーに清矢くんと一緒に来てくんない?」
「どうせ荷物持ちだろ。気があるなら一緒に行ってやればいいじゃん。俺たちなんて邪魔なだけじゃね?」
「いや、レダってローク神殿の巫女さんだしさ、変な噂が立つとヤバい訳。清矢くんもなんかピリピリしてるし、詠ちゃんデートぶって途中で連れ出しちゃってよ。ちょうど花盛りの時期で綺麗らしいよ」
「べつにいいけど……レダが好きなら男らしく最初から隠さねえほうがいいと思うぜ」
「うーん、詠ちゃん、芸もなくまっすぐならカッコいいって思ってる? 女の子はそんなんじゃ乗ってこないよん。レダがその気なら俺も考えなきゃいけないこといっぱいあるし、本心探りたいの」
 俺はしぶしぶ了承して、その週の休日は四人でレダの実家に行った。「夢見」の占いをつかさどる巫女さんだし、充希になんか脈はないんじゃないかなーと疑りながら。車や馬車よりも牛が荷車を引いてる広い舗装されてない道路ぞいに、アーモンドが街路樹に植えられて咲きほこってる。どこか懐かしい桜そっくりのたたずまいに、俺の心は踊った。
「清矢くん! 花盛りだぜ、ちょっと見ていこうよ」
「ここの花は取っちゃダメ、実を収穫するから」
 テンションを上げた俺たちに、レダがまなじりを吊り上げる。充希が諭すと、レダは納得したようだった。
「じゃあお二人さんはここで待ってなよ。俺が荷物持ってくから」
「充希、平気か? 一人で全部はけっこう重たいぜ」
 俺たちが裏で通じてるなんてまったく知らない清矢くんは目をぱちくりさせた。俺はレダの本を持ってた清矢くんの手を引く。
「なぁ、お花見しよーぜ。俺、清矢くんとデートしたいよ」
「でも……帰りでいいじゃん? まず荷物運んじまおうよ」
「清矢くん、だいじょーぶだから。俺力持ちだし♪」
 にこっと笑う充希は、ボストンバッグを無理やり背負って本まで持つとあからさまにフラついてた。でもまあ恋のためだもんな。ちょっとわざとらしい一幕を挟んで、俺たちはその場にとどまった。
「……おおかた、充希に頼まれたってとこ? レダとなんか恋仲になったら大変だぞ、打ち首でもおかしくない」
 鋭い清矢くんは気づいちゃったけど、俺はアーモンドの幹に清矢くんの背を押し付けて、両腕で閉じ込めてキスした。ワーオ! って子供がはしゃぐけど聞いちゃいねぇ。俺の箱入り王子様、清矢くんは眉をひそめてる。
「なーにやってんだよ、詠。そだな……ギャラリーもいるし、ここは外だし……」
 清矢くんは柔らかく俺の腕から抜け出すと、木の根元に座り込んで服の中からハーモニカを出した。そして形いい唇を湿らせて、錫の楽器にそっと滑らせる。祈月の家に伝わる『風の歌』の不思議な旋律だけが透明に響いた。
 とたんにざっと吹きわたる、無慈悲な風。舞い散るピンク色の花びら。散りかかるきらきらした花弁に彩られて、細面でうつくしー清矢くんの憂い顔は完璧に絵になっていた。
「悪戯しちゃダメだな、別の曲にするか」
 俺は落ちてきた花びらを器用につかまえて、清矢くんに見せようとした。ようやく微笑んで、清矢くんは俺の前髪に手を伸ばす。
「ついちゃってるぞ、花びら……ベタなアピールすんなよ」
 そうやってつまみ出されたほうも手のひらにのせて、ふっと吹き飛ばす。魔法の曲で呼び出された風のショーに、子供たちはきゃあきゃあはしゃいでる。俺も座り込んで、清矢くんの肩を抱いた。
「ほんと可愛いのなー、詠は。俺は幸せものだよ」
「清矢くんそれ、俺のセリフ。全部取っちまうのやめろよな」
 そう言ってほっぺにももう一度キス。心の中まで全部がうすくれないだった。遥か海を越えても、それは幸せの色だった。(了)
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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #詠×清矢 #ComingOutofMagicianYozora
お題「エイプリルフール」櫻庭詠(さくらば・よみ)×祈月清矢(きげつ・せいや)

 四月になり、アルカディア魔法大も春休みに入った。雪深いヨーロッパのこの地では、春はじめのこの時期が長期休暇にあてられる。ともあれ、直前までテストだの進級だので慌ただしかったから、気候のいい時期にたっぷりと自由時間を貰えて、俺はウキウキしていた。夜空と一緒に故郷に帰ろっかとも言ってたが、やつは一か月くらいは働いて資金調達をしたいらしい。充希も同様で、まぁ俺と詠はとくに計画も立ててなかったんだけど、何となーく警備のバイトについた。時間も融通が利くし、アルカディア魔法大の学生はモンスターが出る危ないとこ担当でも大丈夫だろっていうすごい理屈だ。
 警備員の紺色の制服に身を包んだ詠が、雑誌片手に休憩室でのんびりしている。そういや今日はエイプリルフールだ。でも大した嘘も思いつかない。「俺、ドリスと付き合うことにしたから詠とは別れよーぜ」なんていうのは二重に悪質だし。「今日ローク神殿で施餓鬼やってるらしいよ、お菓子貰えるらしい」っていうのも、そんな回りくどいデートの誘い方…って感じだ。詠はロリポップ舐めながら、なんとなく手持ち無沙汰でいる俺のことをじっと見てきた。
「なぁ清矢くん。俺ね、ちょっと言いたいことあって……」
「何だ? 俺、詠になんかしちまってたか?」
 まぁ、屋台のパン買いに行かすとかゴント山での鍛錬の帰りに背負わせるとかぐらいはやってたけど。詠はちょっと考えた風な顔で言った。
「エミーリアとかドリスとかとイチャつくのやめろよ。俺このままだとマジ清矢くんのこと嫌いになりそー」
「え、えっと。詠。まずは話し合おうぜ。エミーリアはともかく、ドリスはあっちも俺に気はねぇから迷惑だって。それにエミーリアともたまには付き合わねぇと、拗ねて俺に当たってきちまうし。つーか詠だってテヌーとかといい感じなんじゃねぇの? それに俺って性格重視派だし、その理屈で言うとステファニアとか陽気でいいんだよな……って何言わすんだよ! エイプリルフールだからってさ!」
 俺は冷や汗かきながら弁解になってない弁解した。詠はぬっと寄ってきて、しげしげと俺の顔を見つめる。
「清矢。俺に甘えんな。その……ベタベタすんのとか、ヤダから」
「えっ? マジで? ってか、抱き着くのとかヤなの?」
 へったくそな嘘だなーと思った。いつだって「清矢くん清矢くん」って尾っぽ振って抱き着いてくるのが詠なのに。でも俺ってあんまり性格よくねーから、詠のひねりのない嘘にとりあってやった。
「うん、やだ。これから無しにしよーぜ」
「じゃあ詠って俺のこと嫌いなんだ」
「う、うん……つうか、何か気持ち悪いかなって思って……」
「そっか。それもしょうがねーな。恋人同士からただのトモダチに戻ろっか?」
 そこまで芝居に乗ってやると、詠はもじもじと下を向いた。
「やっぱヤダ。俺の嘘、清矢見抜いてるだろ? ホントに戻っちまうの? やだよ、何か口にするだけで悲しくなっちまった……」
 その様子はまさに捨てられた犬。クーンって鳴いて肩落としちまって、ほんとこういう詠も可愛いなって思う。もしかしたら俺が可愛いって思うのも計算ずくだったりして。俺はご主人様然としてふんぞり返って笑った。
「詠。じゃあ、お詫びに撫で撫でと抱っこな? ほっぺにチューも追加でな♡」
「オッケ、バイト終わったらでいい? 俺やっぱ清矢といっぱいじゃれ合いてえ」
 詠は笑顔になったが、次にそっと目を細めた。
「でも女友達とイチャつくなっていうのはマジだから。特にエミーリア許さねーから!」
 詠はそう釘をさすのも忘れなかった。俺は笑いながらごまかす。
「あ、そういやローク神殿で今日は法要だってよ。お菓子配るって言ってた。詠貰ってきてくんね?」
「嘘だろー。つうかもうエイプリルフールってネタバレみたいなもんじゃん? もーふざけんなよ清矢」
 俺たちはくだらない嘘を言い合って互いを小突きながら警備に戻った。互いに下手すぎて笑える。あー、特別でない平凡な日だわ。好きって気持ちには嘘なんてつけねーもんな。(了)
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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #[創作BL] #詠×清矢 #ComingOutofMagicianYozora

お題「仲良し」「抱きつく」

 多数のベルトコンベアが置き去りになった広場を抜け、地下があることに気づいてピットまで降りてしまったのが運の尽きだった。中にいる魔物と懐中電灯の光の中で間一髪で渡り合い、退魔コンパスで安全を確認したまではよかったものの、工具でこじ開けた四角い進入口が開かなくなってしまったのだ。
 細い黒髪をセンターショートで切りそろえ、白銀の毛並みの獣耳と尾をもった白狼亜種・祈月清矢(きげつ・せいや)は、1メートル下から剣でがたがたと蓋を叩いたが、反応する者はなかった。
「やべぇな。ここには換気扇も通気口もない。早めに連絡しねぇと……」
 詠(よみ)の幼馴染であり、恋人でもある青年はそう言って愁眉を曇らせた。
 きっかけは、図書館で見つけた「BC遺跡散策ツアー」のビラだった。BC遺跡とは、ビフォアカタストロフ、つまりN2世界崩壊以前の建物で、現在放棄された廃工場などの施設を言う。魔素出現以前に作られた施設なので、物理演算に魔素係数を必要とする今となっては大規模生産には使えず、無用の長物として普段は閉鎖されている。当然、魔物が住み着き最悪の場合は人の入れない魔境と化している。まれに、マジシャンたるアルカディア魔法大学の学生からアルバイトが募られ、内部の調査と魔物の駆除が行われるのだった。
 一年年長のクリストフ・”アイフェン”・ホルツメーラーが散策隊のリーダーだ。清矢は獣耳にイヤフォンをつけ、テレパス通信を行って場所、人数、代表者名、キーワード、時刻、状況を報告した。入口にはベースが立てられ、随時情報検索を行っているはずだから、いつかは助けがくるはずだ。アルカディア魔法大運命塔の集合無意識監査室にも届けばよいのだが。
「清矢くんごめん、光量が少なすぎるって俺が気づいてれば……魔物、大丈夫かな」
「コンパスによればいちおう魔物は殲滅されてるみたいだ。仕方ない、しばしマッドティーパーティといこうぜ」
 頭上や背後を縦横にかけめぐる排水管に背を預けて、清矢が肩をすくめた。
 冷たい乾いたレーションを貪り食って、水筒にいれてきた砂糖入り紅茶を飲み、一息ついたその後、詠はどっと後悔に襲われた。まず、こんな場所を見つけたといっても、安直に降りていくべきではなかった。せめて他のバディと連携をとってからにすればよかった。真っ暗闇の中で魔物に襲われるなんてぞっとする話だ。冒険心が勝った選択は愚かなものだった。詠は清矢のそばに歩み寄り、白いレザーコートの戦衣の肩をおもむろに抱き寄せた。ぱちくりと清矢が瞬きする。
「詠? どうした……怖くなっちまったのか?」
「怖え。怖えよ、俺。清矢くんと一緒なのはいいけど、もし何かあったら……」
 退魔コンパスの精度には限界があるし、テレパス通信は受信側に大きな資質と注意深さが必要とされる、不安定な技術である。魔物の傷がもとになって、階段で転んで、ゴント山で遭難して……ひとが日常の裏側に落ちてあっけなく死ぬのは、毎日の新聞に欠かせないニュースだ。抱いた感触はレザーの冷やかさしかなかった。
「ん、詠……いい子いい子」
 清矢は憎いくらい落ち着いており、代わりにぎゅっと詠の鎧の胴を抱き返してきた。暗闇のなかでもわかる、相棒の気配。草っぽいさわやかな香りもする。デオドラントだろう。そうして詠の獣耳を搔き、頬の輪郭をさすって慰めると、リュックからブルーシートを出してコンクリートの床に引いた。
「座って休んでようぜ」
 詠はうなずくと、清矢と並んで座り込んだ。コォン……と何かの衝突音が響くのに神経を高ぶらせながら、暗がりに肩を寄せ合う。しっかりと握りこんだ互いの手が、唯一の温もりだった。世界の終わりというなら多分こんな光景だろう。その妄想は悲劇的な甘美に彩られたもので、詠は何度も清矢の頬にキスした。
 ――ただひたすら待つだけの時間が過ぎた。半日も過ぎたと思ったが、実際は太陽の加減からして二時間も遭難してはいなかったようだ。クリストフとハインリヒ、それにエミーリア・ヘクタグラムカースとドリス・メイツェンが心配そうに進入口からのぞき込む。ヘッドライトの丸い光に照らされて、詠は顔をしかめた。
「セイヤ大丈夫? ああいった地下には、二酸化炭素や有毒ガスが充満して中毒の危険性もあるって先生も言ってた。念のためディアしておこうよ」
 エミーリアが金色のポニーテールを揺らしながらぺたぺたと清矢に触れてヘルスチェックをしている。ドリスもバブル・ガムをくちゃくちゃ噛みながら隣から離れない。当の本人は、悪ぶった笑みを浮かべてピースサインをした。
「地下の魔物も根絶完了。ひょっとしたら俺たちが成果ナンバー・ワンだな」
「よく言うぜ。半分以上暗がりでイチャついてたくせに」
 ハインリヒが間髪入れずに茶々を入れる。否定せず詠に向かってウィンクした清矢を、エミーリアがとたんに平手打ちした。
「何やってんのよ、こっちは泣くほど心配したのに! ホント、セイヤってばあたしのこと水栽培の花程度にしか思ってない!」
「男同士で地下にしけこむ前に、レディたちを護衛しなさいよね」
 ドリスも鼻を鳴らして清矢の頬を人差し指ではじく。そもそも渋面を隠していなかった引率のシオン図書館長はとげのある声で聴き返した。
「そうですか。遭難物のラブストーリーを演じた結果でしたか。アーカイビング演習の平常点から十点引いておきます」
「ち、違いますっ、わざとじゃないですよ! 図書館長~信じてください~!」
 それまでの冷静さが嘘のように、取り乱した清矢が図書館長を拝み倒す。ベースキャンプは笑いで包まれ、調査はお開きになった。帰り道、罰ゲームで女子ふたりのリュックまで持たされた詠は清矢に謝る。
「清矢くんごめんな。俺のせいだ」
「自分を責めるなよ。俺は、詠とふたりっきりで嬉しかったぜ? あと信じてたし」
「俺も……清矢くんとならなんとかなるって、信じてはいたけど。でも結局待ってただけだし」
「んー、詠! じゃあ帰ったら、清矢サマのこと肌で慰めてね♡」
「や、やめろよ! まだエミーリアが聞いてるかも……!」
 清矢は進行方向を反転させ、サムズアップしながら詠に笑いかける。
「俺たちって最強のコンビだって、ちゃんとみんな分かってっから! これからも頼むぜ、詠~!」
 夕日がきらきらと輪郭を透かした。逆光でいたずらっぽく微笑む恋人の顔に、詠は馬鹿みたいに見とれてしまった。しかし図書館長も律儀なもので、学期末に発表された『アーカイビング演習』の成績は見事に点が差っ引かれていたというのが、この話のオチである。(了)
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あおうま
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お題「記念写真」「撮影」
櫻庭詠(さくらば・よみ)×祈月清矢(きげつ・せいや)

 祈月の家宝を持ち逃げした夜空っていうやつのために、俺たち櫻庭詠(さくらば・よみ)と祈月清矢(きげつ・せいや)、そして望月充希(もちづき・みつき)はアルカディア魔法大に留学することになった。地獄の受験勉強もひと段落して、今日はかの国に渡るための旅券を作成するために、証明写真を撮る予定だった。三人そろって写真館に行って、二階のスタジオで一人ずつ撮ってもらう。清矢くんも俺もあつらえてきた新しい戦衣、充希だけはオーダーメイドしたスーツだった。きれいにタックが入ったスーツできめた充希は文字通り『年上』って感じだ。清矢くんは家が特別に仕立てた白地のレザーの戦衣を着てた。立ち襟のコートと、細身の体を覆う黒の皮鎧だ。腰から腿はガーターで外からキュッと締め上げてあって簡単に脱げないようになってる。ポーチもゴテゴテついてるけど、何を入れとくべきかはけっこう議論がある。薬っていっても魔法薬までいれるとけっこう種類があるし、清矢くんは『櫛でも入れとくか?』なんつって冗談めかしてたけど。コート背面は漆黒で染め抜かれた新月紋。胸元についたきらびやかなチェーンやカフスなんか見ると、戦にいくための衣装っていうよりは、はっきりと晴れ着。
 俺なんか新しいとはいえ、いつもの神兵隊の黒装束だ。体にぴっちりフィットして、まぁダサくは見えないと思うけど上に重い鎧つけることが前提。だからか、体の線が出すぎてるんだよなコレ。俺もスーツにしてもらえばよかったよ。
 撮影は充希からで、清矢くんは手鏡で前髪いじったり俺に言わせれば女々しい仕草してたけど、十分くらいで充希が出てきて、次は俺の番ってなったらやっぱり俺も「鏡貸して」って清矢くんに言っちゃった。なんか情けねー。
 三人分の撮影が終わって、何枚も組になった証明写真の出来をチェック。充希と清矢くんは互いのマジ顔でゲラゲラ笑ってる。俺は警戒して即荷物の中にしまった。清矢くんが肩組んでのぞき込もうとしてくる。
「詠~! 詠も完成写真見せて♥ ひきつった笑顔しちゃってんじゃねーの?」
「ヤダ。清矢くん写り悪いって笑うもん」
「笑わねーよ。なー、一枚ちょうだい♥ 可愛い清矢サマのお願い聞いて~!」
 俺はなんか根負けしてしまって、一枚はさみで切ってあげた。男前に写ってるとはとても思えなかったけど。清矢くんはカードよりも小さい顔写真をしみじみ見て……ちゅっとキスしちまった!
 もどかしいような気恥しさが湧いて、俺は写真を取り返そうとする。
「や、やめろよ清矢! キスなら直接すりゃいいじゃん!」
「何度もしてると飽きがくるっていうか~。この詠はいわゆる『公式肖像』だろ? やっぱ俺のものってアピールしたいじゃん♥」
「清矢くんの独占欲ちょっとこわくない? 俺そこまで重いのパース」
「んだと充希お前のもよこせっ」
 乱暴にじゃれあい始める充希と清矢くん横目で見ながら、俺はちっちゃく清矢くんの袖掴んで言った。
「清矢くんのも俺にちょうだい」
「ん、好きに可愛がってね。一枚詠に預けるから♥」
 もらった写真をそれからどうしたって? ……手帳のカバーに挟んで、俺は時折眺めてる。新しめの戦衣を身に着けた清矢くんの鋭い眼光が決まってる。いかにも俺のあこがれてる祈月ん家の次期当主様って感じのスキのない写真だ。俺は普段の清矢くんも愛してるけど、立派なオフィシャルの姿見ると何だか奮い立つものがある。勉強の合間に見つめては、頑張るよ俺ってテレパシー送ってる。おでこくっつけたり、キスとかまでしちゃったかどうかは……トップシークレットだ。(了)
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あおうま
充電ネタがツイッタで流れてきて…
充電ネタ大好きなんですよね
前回とあんまり変わりないかんじですが詠ちゃんが甘えて清矢くんがよしよしする黄金の方程式を再開発してみました。今回もR18です

召しませ特製Energy Cell!

それとサイトデザインもリニューアルしました 詳しいレシピなんかは後で書くかも

どうぞよろしくお願いいたします。#ComingOutofMagicianYozora #詠×清矢
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あおうま
「鼻歌」「小さな幸せ」
望月充希(もちづき・みつき)&櫻庭詠(さくらば・よみ)&祈月清矢(きげつ・せいや)Arcadia Magic Academy Ver.

 俺は夏が好き。冷え性で冬は末端が冷えるから。風属性塔のサロンでそう言ったらルームメイトの充希は反論した。
「えー、清矢くんに似合う季節って冬じゃない。夏男は俺でしょ? 海辺のアバンチュール、階段でかじるオレンジだよ」
「冷たい性格とかそういう俺への間違ったイメージじゃねぇだろうな?」
「うーん、お肌はもち白だし、瞳は紺色に潤んでるし、髪は真っ黒だもん、それに唇は紅玉リンゴ色なんだから、かんじき履いて雪かきしてなさいって」
 なんだそれ、って言い返しながら、持ってたココアを飲み干した。充希が追加してくれたオレンジリキュールのお陰でちょっとした豪華ドリンクになってる。氷のようだった指先はおかげで少しほぐれてる。
「なーなー、それって、清矢くんがかわいいってこと?」
 仕事の多い聖属性塔から避難してきてた詠が人懐こく会話に参加した。充希は長めの茶髪をちょっといじりながらうるさそうにシッシッと手を振った。
「あっひでー! 何厄介払いしてるわけ?」
「清矢『サマ』はさー、可愛いとか言われてうれしーの?」
「嬉しいかって言われると……」
 はっきり『美形』って言ってくれたほうが俺は嬉しい。充希は自分もオレンジ風味のココアを口にしつつ、詠をいじり始める。
「何かなー、自分の恋人が褒められると詠ちゃんは楽しい訳ね。気のいい男前に見えてそういうとこは重たいよね詠ちゃんって」
 そう評してから、ぐさりと返す刀。
「別にいいじゃん、俺がどう思ってても。詠ちゃんは清矢くんの一番のペットだし。詠ちゃんが可愛いって思ってればそれで充分でしょ」
「ペットじゃねー! 俺は清矢くんの親友で、恋人! 充希マジ訂正しろよな」
「バーカ。下らねーことでもめるなよ」
 俺はそう言って詠の短髪をわしわし撫でた。充希は何かわざとっぽく知らん顔してる。もしかしてナンパ失敗したんだろうか。それとも女の子目当てで参加してるサークルで冷たくされたとか?
 俺はそんなふうに思って、充希の肩をするりと抱いた。
「充希も詠もどっちも俺の下僕♡ 可愛いわんちゃんたちだぜー」
「あは、清矢サマ太っ腹♡ 俺も詠ちゃんみたいにクンクン甘えちゃおっかなー?」
「ざ、ざけんなマジ! 清矢くんは俺の!」
 詠が隣からぎゅうっと俺の胴に抱き着いてくる。同年代とベタベタする年は過ぎたって思うけど、俺はどっちも大好きだからばかに嬉しかった。
「充希、何かあったんだろー? 今夜は清矢サマが肌で慰めてやるから安心しな♡」
「キャー、清矢くんの熱で充希燃えちゃう♡ じゃーソフトドリンクなんかじゃなくて今夜はどっか飲みに行かない? もちろん清矢オゴリで♡」
「普段お世話になってるからそれくらい安いよなー、詠♡ 愛にケチケチすんじゃねーよお前ってやつはよ!」
「んーっ、三人でいっぱい仲良くしよ♡ 寄ってきたおねーさんは俺に回してね♡」
 充希はギリギリのネタも冗談めかして合わせてくれた。ほっぺに軽いキスまで追加である。俺はこいつのこんな柔軟さと器用なとこが好きだ。詠はそれ見て悔し気に眉を吊り上げて、涙目になって俺の脇腹に頬ずり。しっぽはきゅんっと高角度に上がってる。ホントわかりやすくて可愛いのな、こいつってば。
 男子三人でおしくらまんじゅう状態になったら、サロンで香炉だの祝符だの用意してたミル・イシュガルド・サルーマはビビってるっぽかった。ま、ローク神殿の巫女さんなんていう究極の箱入りはこれぐらいでも刺激が強いんだろーな♡
「……なー。それなら行く前にみんなで剣術の調練していかね? 身体もあったまるしさー、俺、充希に勝ちたい」
「へー、生意気言いますねぇ? 清矢くんどーする? 審判でもやりますぅ?」
「賄賂期待してる。さー充希くんは俺に何してくれるのかなぁ♪」
「うん、調練所十五周くらいマラソンしてくれればいいなぁっておにーさんは思ってるよ♡」
「もーホントどっちもバッカじゃねーの? ミル見てるじゃん、俺はずかしーよー」
 詠の文句なんか気にせずに俺は席を立って、マグカップの片づけは詠に任せちまった。充希も倣って、貧乏くじひいた詠は怒ってる。リクエスト通りに練習に付き合ってやるんだって圧かけて、笑いながら寮部屋に戻ってく。
 っていうか、やっぱりこういう瞬間がささやかだけど一番幸せかも。
 男子仲間特有の気だるい親密な空気をまとってサロンを後にする。『ウィリアム・テル序曲』なんて鼻歌しつつ、青春も一枚剝けばこんなもんだって、冬なのに寒さを気にせずにいた。(了)

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