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あおうま
お題「海」「日焼け」

 海行って遊んで、オーシャンビューのバルで乾杯して、バジル添えた真鯛のムニエル食べて観光客向けのホテルに泊まった。八月の第二日曜日使ってのちょっとしたバカンス。翌日にはまた生真面目な大学生に戻んなきゃいけなかったけど、ようやく海外留学を堪能できた気がする。三日後、空きコマが多かった俺は風塔に向かって、清矢くん誘おうとした。清矢くんはいつも通り風の魔石が鎮座する翡翠色基調の涼しげなサロンで勉強してた。
 ここは風が通ってくから、夏は気分が良い。無言で隣に座って長い机に突っ伏す。清矢くんも無言で俺のけもみみをくしゃくしゃと撫でた。尻尾をパタリと振る。すり寄りたい気分を抱えたまま、しばらく撫でられるに任せた。
 外で蓄えてきた熱気が覚めると、清矢くんはパタンと魔道書を閉じて、寮部屋に来るよう促した。俺はついてく。
 ベッドに腰かけて、シャワーブースに入った清矢くんを待つ。半裸で出てきた姿を見て、俺はドキッとした。
 浜辺ではキザっぽくラッシュガードなんて着込んでた清矢くん。でも遊ぶときはサーフパンツ一丁だったからか、肌が日焼けしてちょっとワイルドめになってる。上半身裸で濡れ髪のまま、スキンローションの瓶を渡してきた。
 ハーブの香りのするローションを手のひらにとって、塗り込んでやる。男らしい広くて骨ばった背中は熱をもってた。
「……ちょい染みるな。詠は日焼けあとも大丈夫っぽい?」
「ヒリヒリはするかも」
「じゃあコレ使ってもいいぜ。保湿した方が肌ダメージ落ち着くらしい」
「俺よか先に、清矢くんだろ。顔も塗ってやるよ」
 俺は液をパシャっと手にとって、清矢くんの頬にヒタヒタ当てた。清矢くんはおとなしく目をつぶってる。形の良いまぶたも、すっと通った鼻も、ぽってりした可愛い唇も、全部に手のひらで触れることができてドキドキする。
 軽くマッサージまでして両手を離すと、褐色に染まった肌をつやつやさせて清矢くんはどさりとベッドに身体を投げ出した。
「ん……気持ちよかった。あんがと、詠」
「あっあの、俺もシャワー浴びてきていい?」
「いいけど、早くしねえと充希帰ってきちまうかもしれないぜ? 詠ちゃん……」
 色気たっぷりの流し目に恥ずかしくなりながら、俺もシャワーブースに急ぐ。焼けてひりつく肌を冷たい水が洗ってく。壁に手をついて、火照り、冷めるまで待つ。この後の展開にすっげえ期待が高まってく。
 焦りながらの睦みあいは、真夏の残り香に満ちてた。名残惜しいはかなさまで感じながらことが終わると、清矢くんは寮部屋を出ていって、共同キッチンからライムジュースを持ってきてくれる。
 窓を開けて、風を入れて涼みながら、柔らかい夏の夕べを楽しんだ。
「清矢、また海行こうな」
「来年もな。約束だぜ?」
 炭酸で割ったジュース飲みながら、小指と小指をからめあう。来年はもう俺たちはここを卒業してるから、舞台はきっと日ノ本の海だ。スイカに麦茶、花火に浴衣なんていう定番を、めいっぱい楽しみたい。返事がわりに、俺は恋人の額に上からキスした。(了)

#ComingOutofMagicianYozora #[創作BL版深夜の60分一本勝負] #詠×清矢
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あおうま
お題「衝動」「ゼロ距離」

 俺は甘えん坊だって、清矢くんからよく言われる。自分でも恥ずかしいけどその自覚はある。極東の日本から遥か遠く、アルカディア魔法大の図書館。丸い監視機が音もなく飛び回り、天井までの飾り棚の中に書物が隙間なく並べられて、まるでそれ自体がひとつのダンジョンみたいだ。『アーカイビング基礎』の授業で、難しい課題を出された俺たちはグループ自習スペースを借りて、浮遊する半透明の円形部屋で勉強していた。
 竜語の授業受けてることもあって、俺はその観点からのレポートを書こうと四苦八苦してた。清矢くんはテキストから芋づる式に参考文献を積み上げて、ザッピングで読んでいってる。論旨を追うのも疲れた俺が清矢くんを眺めてると、彼はきつめのうつくしー瞳をふっと和らげて、猫撫で声で呼びかけてきた。
「どうしたんだ、詠。ちょい疲れたか? 休憩しよっか」
「えと、『充電』する……?」
 俺は後ろ頭をかきかき言った。『充電』は高等学校のころからのふたりの習慣で、ハグしてリフレッシュするってことの隠語だ。清矢くんは上機嫌でニコニコしながら椅子ごとすり寄ってきた。
「オッケ。詠、たっぷり『充電』してやるよ」
 そうして、立ち上がって俺の頭を胸にぎゅっと抱き寄せてくる。ポロシャツの胸に抱かれて、俺はすーはー深呼吸しちまった。ふわっとした筋肉の感触。手のひらでじっくりたぐると感じられる肋骨のカーブ。それにしなやかな背筋と、ちょっとへこんだ背骨のライン。ほのかな体温まで甘やかで、俺はぐりぐりと胸にこめかみを押し付けた。
「ん、ん、清矢くんっ……! まだ、俺、足りねっ……!」
 そう駄々こねて、襟元のボタン開けて、現れた鎖骨の尖りに吸い付く。なめらかなうっすい肌とこりこりした骨を、夢中で噛んだりしゃぶったり。なんで味もないのにおいしいと思うのかな? さわさわと筋肉の流れを知るように背を撫でまわす手だって、せわしなくて性的。
 ぜったいほかのカップルだってこの球体ガラス部屋の中ではこういう行為に耽ってるよ。
 俺は清矢くんの尻を押して、腿の上に座らせた。まじで破廉恥な体勢。清矢くんは俺の肩に捕まって、挑発的に微笑む。
「あれ? ここでもっと進んじまうの?」
「……俺ほんとは、今すぐ抱き合いてぇ」
「うん、じゃあリミットはそこまでな」
 釘を刺された俺は、衝動のままに顎をのけぞらせてフェイスラインに何度もキスした。清矢くんは、キスしやすいように少し屈んでくれる。そのおかげでふわふわした唇にやっとありつけた。ドキドキ高鳴る胸に急かされながら、ぎゅっぎゅって顔を押し付けて、頬擦りして。後頭部を押さえて、さらさら指を抜けてく髪の毛をうっとりとすくう。
「清矢くん、俺もう無理だよ……『充電』じゃあ済まねえ」
「うん、じゃあ、場所変えるか? 風塔戻ろ」
 甘えん坊の俺は、手まで引かれて図書館を出てった。ルームメイトが出払ってる寮部屋に急いで籠って、今度こそベッドに押し倒し、ゼロ距離で抱きつく。
 かすかに甘い、ひんやりした清矢くんの香り。肩や腹を張り付かせて、脚は絡めて甲を指でくすぐって。存在を全身で噛み締められるこの距離。産毛までさらさらと感じられる。首に頬に鼻にまぶたにキスしまくって、全身で甘えかかる幸せに溺れそうだ。
 レポートを提出できるのはまだ先になりそうだった。
#詠×清矢 #[創作BL版深夜の60分一本勝負] #ComingOutofMagicianYozora
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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #詠×清矢 #ComingOutofMagicianYozora

お題「夏の風物詩」

 長い水平線を望むビーチに、シートを引いて水着姿の人々がごろごろと横たわっている。
 みんなサンタンスキンを手に入れようと、のんびり体を焦がしているのだ。
 べつに焼けたくない俺は借りたビーチパラソルの下でサングラスをかけなおし、あくびをした。
 アルカディア魔法大学にやってきてから三度目の夏である。今年は日本に居座らず、早めにこの国に戻ってきた。
 充希はヨーロッパ旅行に出てしまっててまだ合流してない。波打ち際で遊んでた詠(よみ)が、手を振ってくる。
「せいやくん! なぁ、一緒に泳ごうぜ! ブイまで行ってみようよ!」
 俺はラッシュガードを脱ぎ捨てて、無邪気な笑顔の詠のほうへ歩き出した。詠の肌は今日の海遊びでちょっと日焼けして、波に濡れて光ってる。剣士らしく肩の筋肉が盛り上がり、割れた腹やむっちりした胸、太ももまでバッチリさらけ出したサービス満点の水着姿だ。波打ち際で気前いい半裸のにーちゃんがキラキラ笑う姿に、俺は一瞬クラっと来た。
 下心を隠しもせずに微笑んで、水向ける。
「詠、なぁ、ちょっと浜辺で休まねぇ? お前ずっと泳いでただろ?」
「別に疲れてねぇし。なあ、一緒に競争しようよ」
 二十歳も過ぎたってのに詠は元気で無邪気だ。俺は苦笑しながら詠をじっくり眺めてた。いやぁ、ケモミミもぴょこぴょこしてるし、くっきり二重の精力的なお顔は全力笑顔。振られてるしっぽは濡れて細くなってる。俺の恋人はカワイイねぇ。
 箱入りの俺はゴーグルないんだよなとか思いつつ、詠とともに沖合へ駆けてった。押しかけてくる波に逆らいつつ、ストイックに泳いでく。ブイのそばで立ち泳ぎしながら、笑い合って浜辺までターン。足の裏を波にまかれてく砂の感覚にぞわぞわしつつ、戻ってドリンク飲んだ。詠はタオルで体を拭こうとする。俺はそれをちょっと押しとどめて、ふんわりした胸のなだらかな山をぺろっと舐めた。海の塩味が強烈だ。
「せ、清矢っ! 何やってんだよ!」
「んー? 詠が見せびらかしてくるから、味見♥」
 詠は照れたのか、ちょっと体をねじって避けて、俺の頭を押さえつけ、熱くキスしてきた。唾液の甘い味。この後は夕暮れに、オーシャンビューのバーで海鮮食べながらの乾杯までがセットなんだ。火照る身体もてあましながら、俺たちは夏を満喫中だった。(了)
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あおうま
清矢くんたちの話の番外編を更新しました。

First aid panic

アルカディア魔法大一年修了のお祝い飲みで、フェチは何?と聞かれたフェチのない詠ちゃんが地雷を踏んでしまい、仲直りエッチをします。ばんそうこうを乳首に貼ったり清矢くんの清矢くんをリボンで縛ったりしますがあくまで清矢くん大好きな詠ちゃんは何にも目覚めません!

さっさとこの時間軸まで原作を進めるべく頑張っています。詠ちゃんもハスハス
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あおうま
お題「イケボ」#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #詠×清矢 #ComingOutofMagicianYozora

 アルカディア魔法大学三年次、聖属性塔の学祭の出し物はハレルヤコーラス。聖歌隊には入らなかった俺、櫻庭詠(さくらば・よみ)はバリトンに割り当てられて難しい楽譜に四苦八苦してた。風属性塔の音楽室で清矢くんがピアノに腰かけメロディを弾いてくれる。そしてテノールのパートを歌ってくれる。
「For The Load God omnipotent reignth,Halleluja! Halleluja!」
 ハレルヤから音が分かれるけど俺はつられてしまってまともにできなかった。清矢くんは苦笑して言った。
「まず俺の声につられない……ってとこからかな? 自分の耳ふさぐといいぜ」
 俺はケモミミと人の耳を両方腕でふさいでやってみた。でも今度はピアノが聞こえないから歌を入れられない。清矢くんは次はピアノでしっかり俺のパートを弾いてくれた。それでなんとか大丈夫。
「ちゃんと自分のパート覚えねぇと、詠。俺の耳元で歌ってみ?」
 清矢くんはそう言って折りたたみ椅子で唸る俺のほうへやってきた。そしてケモ耳をじっとこっちに傾ける。俺はこわごわ歌った。
「もっと腹に力入れてな。下半身どっしりって感じで……そうそう、上手いぜ、いい声♥」
 清矢くんはそうして俺をほめてくれる。俺はいい気になって朗々と歌う。遠し終わると、清矢くんはふわりとピアノの椅子に戻った。
「じゃあ仕上げな」
 そう言って伴奏を弾いてくれる。俺は楽譜を見て音程の上がり下がりを復習しながら歌った。ちょっとだけ自信がもてる。清矢くんはピアノのふたを閉めて、俺を寮部屋のほうに誘った。ベッドにふたりで腰かけて、俺は清矢くんの腰を捕まえ、じっと見つめ合う。
「なあ、清矢サマに愛ささやいて。超とろけちゃうスウィートボイスで♥」
「うん……今ならとびきりいい声でそう」
 そして俺は精一杯格好つけて、甘い声でこっそり告げた。
「清矢くん、愛してる……! 一生守り通すから、覚悟しとけ」
 上手く誘ってくれてほんと大好き。『ありがとう』の気持ちまで込めて、俺は恋人のきれーなカラダ、大事に大事に撫でまわしはじめた。(了)
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あおうま
母親生存バージョンで未成年設定のヨミ×清矢を書いてみました。生存させると大きく変更になるんでちょっとよく考えていこうと思います

お題「七夕」「願い」

 順和二十八年(AK 1312)七月七日、祈月家愛息・祈月清矢は七夕のその夜もアルカディア語の勉強に勤しんでいた。幼馴染の櫻庭詠が清矢を呼びに来たのは、七時を回ったころだった。
「清矢くん、家で七夕やってるから来ようぜ。花火もするし」」
「いいんじゃないか、広大と一緒に行ってこいよ」
 叔父の宗司が寛大な返事をした。
 肺病での長期入院から辛くも復帰を遂げた母親の草笛雫がやんわりと断る。
「夜に出歩かせるの、ちょっと心配……鷲津の勢力だってまだ家を見張ってるかもしれないし」
 雫がそう言うと、詠は少し赤くなりながら反論した。
「じ、じゃあ、清矢今夜ウチに泊まればよくね? 明日の学校の支度してさ……!」
「母さん、それなら行ってもいい?」
「うーん……」
 雫は少し考えて、曖昧にほほ笑んだ。
「気を付けるのよ。ハーモニカはちゃんとも持ってって」
「おばさん、俺、ぜってー清矢くん守るから!」
 詠は土下座して、明日の制服を着て学生カバンを持った清矢を連れ出した。夏の宵、まだ明るさの残る街や村を走って抜けていき、大社町の詠の家にたどり着く。軒端には大きな笹が飾ってあった。
「清矢くん! 来たかー!」
 普段は神官をしている櫻庭の家のお父さんもお兄さんも麦酒を飲んでくつろいでいる。昔は常春殿の巫女だった母親も瓶サイダーをふるまう。親戚の子供たちが花火で遊ぶ。清矢も持参していた浴衣に着替えて、遊びはじめる。
「はい、短冊」
 詠の母から渡された短冊に、清矢はこう書いた。
『兄に再会したい。 祈月清矢』
「清矢くん、それが願いなの?」
 詠はのぞき込みながら少し悲しい顔をした。清矢の兄、夜空は何年も前にロンシャンで行方不明になっているのである。内定が出ているアルカディア魔法大学への留学で、少しでも兄の足跡を追えればという願いがこめられた真面目な内容だった。
 詠の反応が意外だった清矢は首をかしげて聞いた。
「詠はなんて書いたの?」
 詠はこわごわと見せてきた。そこには『清矢くんと添い遂げる!』と書いてあった。
 清矢はくすりと笑って、詠の短冊に筆で書き添えた。
『Seiya Loves Yomi Forever』
「彦星と織姫にも見せつけてやろーぜ?」
 清矢はそう言って笹に短冊を結びつける。詠は愛しさで焦がれた気持ちを発散するように、勇んで清矢の背にじゃれついていった。(了)#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #詠×清矢 #ComingOutofMagicianYozora
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あおうま
#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #ComingOutofMagicianYozora #詠×清矢

お題「一週間」櫻庭詠(さくらば・よみ)×祈月清矢(きげつ・せいや)

 にちようび、詠とふたりでゴント山デートをする。第三層にある山小屋の二段ベッド下段に横たわった詠は、半裸のままで誘いをかけてきた。
「清矢くん。もうちょっとイチャつこうぜ~。俺、まだ足りねぇ」
「ちゃあんと最後までしたのにもっと欲しいのかよ。腹八分目って言うだろ」
 俺は上半身に羽織ったシャツのボタンを閉めつつ、そんな風に突き放す。詠は歯まで見せてむくれた。
「ヤダ。もう一回抱きあわねぇと俺、山下りねえ」
「ワガママな詠だな~。ちょっとだけだぞ」
 俺はそう言ってベッドに戻ってやり、横たわる詠の短い髪をごしごしと撫でた。詠は心地よさそうに眼をつぶる。そして膝に頭をのっけてぱたぱたとしっぽを振った。俺は石鹸のにおいを嗅ぎながら詠に告げた。
「――そういや、来週はローク神殿の巫女さんたちの戦闘訓練に付き合わなきゃいけないんだ」
「ローク神殿の? どして?」
「風塔にいるやつらはまだ一度もこの山に来たことねーんだって。それじゃアルカディア魔法大学に入学した意味もないからって、合宿形式でって話になってるんだけど」
「ええ、じゃあこの山荘使うのか?」
「うん、風属性塔で貸し切りにするって。最初は一層からってどこまで行けるかって話だよ」
「そっか……じゃ、じゃあ俺一週間清矢くんとエッチできねぇのか?」
 詠はしゅんとする。所属塔が違うから、互いに同室の相手は別だ。この山小屋が埋まってしまえば、日常的に使える逢引の場所はなくなる。俺は軽く笑って詠のあご下を撫でた。
「仕方ねぇだろ。一週間後は期待してるから、とっておきのデートコース頼むぜ」
「うん、俺、考えとく……」
 ぽつぽつと答えた詠はしゅんとしていた。
 げつようび。風塔のメンツとともに、ゴント山三層の山小屋に移った。行軍なんかしたことない巫女さんたちはまず三層まで行き来するだけでも大騒ぎだ。ゴブリンに悲鳴を上げ、ウィル・オ・ウィスプに絡まれて逃げまわり、クランプス相手に鈍器で立ち向かったりもする。刺激しないよう𠮟りつけ、魔法で射貫いてやり、クランプスの注意を引くためにハーモニカで挑発したりした。山小屋についてからも料理係を押し付けられ、何もしないロークヴァランドやレダに苛立ちつつ、十人分以上のカレーを作る。飯食って体洗ったころにはもう疲れ果てて、充希とともに気絶。
 かようび。予定では四層以上を目指す予定だったけど、前日の惨状に首をひねった先生が、一層・二層での基礎トレを望んだ。剣士の俺、充希、そしてボルィムールが前衛として敵とやり合うすきに、後ろから詠唱して魔法を当てるだけの簡単なお仕事だ。だけど魔石を手にして顔を輝かせたり、属性を覚えて少しずつ自信をつけてく様なんかははたから見ていても充実感がある。午後になると詠がひとりでやってきた。充希が腕組みしながら首をかしげる。
「どーしたの詠ちゃん、一人で出稼ぎ?」
「え、えっとっ、手伝いに来た。剣士、足りてねぇだろ? 俺でよければ加勢するぜ」
 詠は目いっぱいこき使われて次は聖属性塔にいるローク神殿の巫女、テヌー・イリアンをつれてくるよう言われて帰ってった。
 すいようび。詠がテヌーを連れてきた。テヌーは聖属性塔の仲間に連れまわされてるみたいで、風塔にいる同僚たちよりは戦闘慣れしていた。
 もくようび。詠は俺と二人で水汲み役を買ってでた。自分も戦闘し通しで疲れてるはずなのに、詠はキラッキラな笑顔で「俺が代わりに運んでってやるよ清矢くん」と頼りになる。井戸から帰る途中に横顔にキスしたそうな空気出してたけど、俺はみんなに見られちゃうかなと思ってさりげなく避けた。
 きんようび。音楽仲間のドリス・メイツェンが負傷しちまって俺は自分を責めてた。ドリスだけを守るわけにはいかねぇけど、大事な仲間に怪我させた。前衛失格だ。ローク神殿の巫女たちは余所者のドリスには親身になってくれねーから、俺がヒールしてやって仕事を代わって上げ膳据え膳してやった。
 どようび。下山の日だ。結局目標の六層まで踏破することはできなかった。なんつーか、ドリスのことは怪我しても蚊帳の外みたいな、ロークヴァランドの位階は高いから飯炊きなんかできませんみたいな、巫女たちのお高く留まったところが問題なんじゃねーかなと思う。敵の構成を説明したり、役割を割り振るときにも、しれーっと聞いてるだけで食いついてくるぐらいの気概がみられない。叱れば俺は悪者にされる。特殊な位階らしいロークヴァランドとレダの前では戦士のボルィムールも畏まってしまって意見が通らない。
 そんでもう一回にちようび。詠に連れられてペンシル波止場まで出て行って、砂浜でまったりした後カフェでお茶しつつ俺はそんなこと愚痴った。詠は金曜日以降山に来なかったからか、耳を傾けつつもちょっと拗ねてみせた。
「清矢くんはそう思ってんだ。まぁドリスは美人だし、バイオリンもうまいもんな」
「美人とかバイオリンとかは何にも関係ねぇだろ」
「そっかな。清矢くん、ドリスにはすげー親切にしてるよな。仲もいいしさ」
 あんまりにも幼稚すぎる勘ぐりに俺は本気で腹立った。
「そういう話じゃなくね? 俺はローク神殿の巫女たちのことを批判してんの」
 ドリスの味方をした俺に、詠はしゅんとした。
「ゴメン……でも二人の付き合ってるって噂すげーし、俺だって普通にはしてらんねぇよ。だって清矢くん俺が訪ねていっても冷たいんだもん……」
 詠はそう言って小箱を差し出してきた。中には七つのキーホルダーが入ってた。木彫りでできた人形で、どれもデザインが違ってる。アルカディア島への観光土産みたいだった。詠がうなだれて打ち明ける。
「俺な、これ買ってきてた。風塔のみんながちゃんと合宿終われたら一人ずつに記念で渡してほしいって思って」
 ボルィムール、ロークヴァランド、レダ、ミル、ドリス、それに俺と充希。たしかに七つ分ある。詠は気まずそうに言って、中座しようとした。
「今、そんなことする気分じゃねーよな、ゴメン。早合点だった」
「詠、待て!」
 俺は弾かれたように立ち上がって、詠の頬を両手で抱え込み、真正面から堂々とキスした。カフェの客たちがひゅう、と口笛を吹く。
「せ、せいやくん」
 一週間が待ちきれなくて、火曜日にはもう俺に会いに来ちまってた詠。
 水曜日、テヌーを守りながら律儀にやってきてくれた強い詠。
 木曜日、二人きりになりたくてそわそわして、ちょっとした隙にはすぐにキスをねだってきたこらえ性のない詠。
 金曜日、ちょっと冷たくされただけでショックで姿を見せなかった詠。
 土曜日はこのキーホルダーを買いに街に出てたのかな。芸のないデートコースも一応は考えてたのかな。
 不器用でいじらしいまっすぐな詠が可愛くてたまらなかった。俺はキーホルダーの中で一番クールそうなオッサンを選んで、指にかけてくるくる回す。
「俺も半分、お金出すよ。詠ホントにありがとな。俺たち風塔のことまで想ってくれてさ」
「ん、でもさ、今日だけは清矢のこと全部、俺にくれない……? 全然一緒にいられなくってキツかった」
 コーヒーのにおいなんかさせて詠はあざとくおねだりする。否やはない。あるわけない。一週分の寂しさを埋めるために、俺たちは軽やかに喫茶店を出てった。(了)