Post
Entries
お題「年上」「無防備」
目下祈月家に居候している年上の軍閥参謀、伊藤敬文が年末にはいなくなるというので、清矢は多少ながら憂鬱だった。もちろん、父親も帰省してくる。上司の家庭に入りびたりといった状況は居心地が悪かろう。寒くなってきた十一月の田舎町を、ふたりで買い出しに歩いた。母たちに言いつけられた買い物リストは全て補充できたはずだ。
「敬文。クリスマスはまだいるの?」
「えっ……と。そうだね、恋人になって初めてのクリスマスだから、清矢くんと一緒にいたいかな」
そう言って小さくはにかむ姿は年上ながら可愛い。それからあれこれ話をした。プレゼントは欲しいだとか、そのリクエストだとか。敬文はちょっといいマフラーをくれると言った。「清矢くんはハンカチとかでもいいよ」。そう言って薄曇りのグレーの夕焼けを見あげる姿に、なんだか切なくなる。
十歳差っていう不便さはいつだって感じている。清矢からすれば、もっと特別なアクセサリが贈りたい。イヤーカフとか、ブレスとか。あとはクラッシック曲のレコードとか、豪華な装丁の海外小説とか。だけど高校生が自由にできる金額は悲しいかな少ない。イチャコラ甘えてても微笑ましいで済んでるのはいいが、その先こそに興味があるのに、男は性的なふれあいには首を縦に振らない。
「同い年がよかったなぁ」
しみじみとつぶやくと、敬文はぱちくりと目をまたたかせた。
「あの、それって俺も高校生だったらって意味?」
そのパターンを想像していたわけではなかったので清矢は面食らった。だけど、何だか恥ずかしくて……大人になった自分についても想像なんかできなくて、思わずうなずいてしまう。敬文は少し目を伏せて、自嘲ぎみに否定した。
「それなら多分、君は俺の恋人になってくれなかったよ」
「そっかな……? 気になったと思うし、好きになったかもしれないじゃん」
「あの頃の俺は今に輪をかけてバカだった。剣しか取り柄もなかったし。俺なんて、君を教室の後ろから眺めて終わりだよ。詠に嫉妬したりさ」
「嘘だよ。そんなことない。敬文と遊んだりしたかったよ」
本音だったが、男は押し黙ったままだ。穏やかな顔つきに影がさしている。夕焼けが急ぎ足で去っていって暗くなってきて、道も田舎じみてきたところで、小首をかしげて尋ねてきた。
「ほんとうに? たとえば俺が告白したら、OKしてくれた?」
その姿は心細そうで、普段の穏やかながら頼もしい感じとは違っていた。IFにしても相当に無防備でナイーブな問い。清矢はもぞもぞしながらうなずいた。
「うん。だってやっぱり男同士の恋愛には興味あったろうし。今みたいに優しい敬文なのは変わらないと思うから……」
「ちゃんと優しくできたかな。例えば……なんか歯止めとか効かない気がする。あっという間に君に手を出しちゃったりとか」
「えー? ってことはやっぱり敬文は俺とそういうことがしたかったりして?」
「からかうなよ。ほんとに、高校生同士だったら……」
伊藤敬文は溜息をついて、清矢の肩を抱き寄せた。
「守れたかどうかだって怪しい。俺はその言い訳で、詠から君を奪ったのに」
このひとはわるいひとだ、と清矢は再三思い知る。清矢たちをめぐる政治情勢は微妙だった。父が敵対する鷲津総将はスキャンダルがでて解任寸前だ。海外に高飛びして家宝を持ち逃げしている兄は行方不明で、近所には魔族の女を信仰する眷属たちの集落がある。そんな中、高校生じゃ君を守れないんだ、と言って幼馴染カップルを引きはがしたのがこの伊藤敬文だった。彼にとっては清矢を守るのは、贖罪である。魔法を使った戦のために、清矢をはじめとした若者を従軍させた。清矢はすべての駆け引きにYESと答え、ブレーンを文字通り抱きこんだ。敵方からすれば、ほんとにわるいふたり。
「ん……敬文、あったかい」
議論には付き合わず、清矢は甘えて頬ずりした。通り過ぎる家からは夕飯の準備の匂いがしてくる。クリスマスプレゼントはハンカチじゃないほうがいい。そう思った。手を拭う布よりは、たぶん、あたためるグローブのほうが。何も綺麗にならなくてもいい。俺だけが汚いわけじゃないってわかっていたいから。二人は恋人関係だと知っているのはお互いだけだったが、それでもほどけないはっきりした結びつきを腹の中で了解していた。
愛や思いやりよりも数倍強い依存めいた飢えをかみしめながら、帰路についた。夕空には星が輝き、しらじらとした美しさは打算的な恋に一時の慰めをくれた。(了)#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #敬文×清矢
目下祈月家に居候している年上の軍閥参謀、伊藤敬文が年末にはいなくなるというので、清矢は多少ながら憂鬱だった。もちろん、父親も帰省してくる。上司の家庭に入りびたりといった状況は居心地が悪かろう。寒くなってきた十一月の田舎町を、ふたりで買い出しに歩いた。母たちに言いつけられた買い物リストは全て補充できたはずだ。
「敬文。クリスマスはまだいるの?」
「えっ……と。そうだね、恋人になって初めてのクリスマスだから、清矢くんと一緒にいたいかな」
そう言って小さくはにかむ姿は年上ながら可愛い。それからあれこれ話をした。プレゼントは欲しいだとか、そのリクエストだとか。敬文はちょっといいマフラーをくれると言った。「清矢くんはハンカチとかでもいいよ」。そう言って薄曇りのグレーの夕焼けを見あげる姿に、なんだか切なくなる。
十歳差っていう不便さはいつだって感じている。清矢からすれば、もっと特別なアクセサリが贈りたい。イヤーカフとか、ブレスとか。あとはクラッシック曲のレコードとか、豪華な装丁の海外小説とか。だけど高校生が自由にできる金額は悲しいかな少ない。イチャコラ甘えてても微笑ましいで済んでるのはいいが、その先こそに興味があるのに、男は性的なふれあいには首を縦に振らない。
「同い年がよかったなぁ」
しみじみとつぶやくと、敬文はぱちくりと目をまたたかせた。
「あの、それって俺も高校生だったらって意味?」
そのパターンを想像していたわけではなかったので清矢は面食らった。だけど、何だか恥ずかしくて……大人になった自分についても想像なんかできなくて、思わずうなずいてしまう。敬文は少し目を伏せて、自嘲ぎみに否定した。
「それなら多分、君は俺の恋人になってくれなかったよ」
「そっかな……? 気になったと思うし、好きになったかもしれないじゃん」
「あの頃の俺は今に輪をかけてバカだった。剣しか取り柄もなかったし。俺なんて、君を教室の後ろから眺めて終わりだよ。詠に嫉妬したりさ」
「嘘だよ。そんなことない。敬文と遊んだりしたかったよ」
本音だったが、男は押し黙ったままだ。穏やかな顔つきに影がさしている。夕焼けが急ぎ足で去っていって暗くなってきて、道も田舎じみてきたところで、小首をかしげて尋ねてきた。
「ほんとうに? たとえば俺が告白したら、OKしてくれた?」
その姿は心細そうで、普段の穏やかながら頼もしい感じとは違っていた。IFにしても相当に無防備でナイーブな問い。清矢はもぞもぞしながらうなずいた。
「うん。だってやっぱり男同士の恋愛には興味あったろうし。今みたいに優しい敬文なのは変わらないと思うから……」
「ちゃんと優しくできたかな。例えば……なんか歯止めとか効かない気がする。あっという間に君に手を出しちゃったりとか」
「えー? ってことはやっぱり敬文は俺とそういうことがしたかったりして?」
「からかうなよ。ほんとに、高校生同士だったら……」
伊藤敬文は溜息をついて、清矢の肩を抱き寄せた。
「守れたかどうかだって怪しい。俺はその言い訳で、詠から君を奪ったのに」
このひとはわるいひとだ、と清矢は再三思い知る。清矢たちをめぐる政治情勢は微妙だった。父が敵対する鷲津総将はスキャンダルがでて解任寸前だ。海外に高飛びして家宝を持ち逃げしている兄は行方不明で、近所には魔族の女を信仰する眷属たちの集落がある。そんな中、高校生じゃ君を守れないんだ、と言って幼馴染カップルを引きはがしたのがこの伊藤敬文だった。彼にとっては清矢を守るのは、贖罪である。魔法を使った戦のために、清矢をはじめとした若者を従軍させた。清矢はすべての駆け引きにYESと答え、ブレーンを文字通り抱きこんだ。敵方からすれば、ほんとにわるいふたり。
「ん……敬文、あったかい」
議論には付き合わず、清矢は甘えて頬ずりした。通り過ぎる家からは夕飯の準備の匂いがしてくる。クリスマスプレゼントはハンカチじゃないほうがいい。そう思った。手を拭う布よりは、たぶん、あたためるグローブのほうが。何も綺麗にならなくてもいい。俺だけが汚いわけじゃないってわかっていたいから。二人は恋人関係だと知っているのはお互いだけだったが、それでもほどけないはっきりした結びつきを腹の中で了解していた。
愛や思いやりよりも数倍強い依存めいた飢えをかみしめながら、帰路についた。夕空には星が輝き、しらじらとした美しさは打算的な恋に一時の慰めをくれた。(了)#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #敬文×清矢
長野まゆみ著『ゴッホの犬と耳とひまわり』 講談社 二〇二二年
とある豪商がフランスから持ち帰った一八八〇年代の帳簿には、Vincent van Goghの署名があった。本物の書簡かそれとも贋作か。
河島教授から翻訳を頼まれた小椋は、ためらいつつも依頼を引き受ける。真贋の謎は幼い頃父が読み聞かせてくれた絵本や上海租界、フランス本国へと深遠につながっていく。
少年愛ものが多かった著者の作品だが最近のは現代のも多いらしい。ゴッホの真偽から、知人の伝手をたどってひとつの近代家族史が描かれていく。
どれが誰の親戚だったかわからなくなってくる。謎解きは安楽椅子探偵的で、蘊蓄も豊富。ペダンティズムに酔いたいなら。#読書
とある豪商がフランスから持ち帰った一八八〇年代の帳簿には、Vincent van Goghの署名があった。本物の書簡かそれとも贋作か。
河島教授から翻訳を頼まれた小椋は、ためらいつつも依頼を引き受ける。真贋の謎は幼い頃父が読み聞かせてくれた絵本や上海租界、フランス本国へと深遠につながっていく。
少年愛ものが多かった著者の作品だが最近のは現代のも多いらしい。ゴッホの真偽から、知人の伝手をたどってひとつの近代家族史が描かれていく。
どれが誰の親戚だったかわからなくなってくる。謎解きは安楽椅子探偵的で、蘊蓄も豊富。ペダンティズムに酔いたいなら。#読書
お題「共有」#[創作BL版深夜の60分一本勝負] #詠×清矢
「なーなー清矢くん、コレ使っていい?」
B組の詠が清矢の机に置いてある英和辞典を手に取った。清矢はもちろん文句を言う。
「詠、前回も俺から借りてったろ? いい加減自分のを使えよ」
「へへ。これは俺と共有ってことで……」
詠はそう言って軽やかに清矢の辞書を持って去っていった。清矢のクラスでは英語の時間は終わったから問題はないが、詠の成績のほうが心配になってくる。予習とかしてねーんじゃねぇのかアイツ。
恋人関係を解消してからしばらく、詠とは話をしなかった。だけど、ふいに昼休みにやってきて、辞書を借りていくようになった。これは詠なりの関係の修復なんだと、清矢は気づいている。だからそんな甘えを許していた。
もともと二人の関係は、恋人関係といっても親しい友人の域をそんなには出ていない。学生だから、自制がきいていた。乗り換えた軍閥参謀の敬文とはどうかというと、際どい戯れは多いものの、決定的に性的な時間を過ごしたことはない。詠が何をどう思っているのか、語り合ったことはなくて、謎だった。
「ありがと、清矢くん」
詠は放課後に辞書を返しに来た。清矢はうなずき、それを持ち帰った。家に帰り、ピアノやらハープやら剣術やらの訓練があった後、机上に辞書を持ちだす。明日の長文読解の予習をしなければならなかった。
「あれっ」
見ると、手紙がはさまっていた。ずいぶん古風なことするんだなと思いながらもそれを読んでみる。
「清矢くん。俺ホントは、恋人に戻りたい。清矢が敬文さんのこと好きになったのは分かったけど、でも十歳も年上じゃん。俺ともっと遊ぼうぜ。歌謡曲の話したり、剣で試合したりとかさ。清矢くんの特別じゃなくなっちまったって思うと、腕がちぎれそうだ」
清矢は困り、だけどしっかり手紙を抽斗に保存した。そして考えに考え抜いて返事を書く。
「詠へ。詠が特別じゃなくなったってことはねぇぜ? 歌謡曲の話だって、剣の試合だって、恋人じゃなくたってできることだ。ってか、友達としてはやっぱ一番大事って思ってる。それじゃダメだって言われると俺は困っちまうけど……親友じゃ、ダメなのか」
そうして同じページに手紙を挟んでおいた。心変わりは清矢からだから、かなり虫がいいのは分かっている。だけど年上の男は庇護と知恵をくれる。情勢が目まぐるしく動く中、清矢は彼を手放せなかった。
次の日にも詠は素知らぬ顔で辞書を借りていった。挟まれていたのは単語カード。
「Lament,Love is Over」(愛は終わったと嘆く)
学校指定の単語帳の例文だった。清矢はその案外綺麗な字を見て考え込む。共有ってワケにもいかねーもんな。たっぷり残っている情に気づきながらも、清矢は辞書を今日も律儀に持ち帰った。(了)
「なーなー清矢くん、コレ使っていい?」
B組の詠が清矢の机に置いてある英和辞典を手に取った。清矢はもちろん文句を言う。
「詠、前回も俺から借りてったろ? いい加減自分のを使えよ」
「へへ。これは俺と共有ってことで……」
詠はそう言って軽やかに清矢の辞書を持って去っていった。清矢のクラスでは英語の時間は終わったから問題はないが、詠の成績のほうが心配になってくる。予習とかしてねーんじゃねぇのかアイツ。
恋人関係を解消してからしばらく、詠とは話をしなかった。だけど、ふいに昼休みにやってきて、辞書を借りていくようになった。これは詠なりの関係の修復なんだと、清矢は気づいている。だからそんな甘えを許していた。
もともと二人の関係は、恋人関係といっても親しい友人の域をそんなには出ていない。学生だから、自制がきいていた。乗り換えた軍閥参謀の敬文とはどうかというと、際どい戯れは多いものの、決定的に性的な時間を過ごしたことはない。詠が何をどう思っているのか、語り合ったことはなくて、謎だった。
「ありがと、清矢くん」
詠は放課後に辞書を返しに来た。清矢はうなずき、それを持ち帰った。家に帰り、ピアノやらハープやら剣術やらの訓練があった後、机上に辞書を持ちだす。明日の長文読解の予習をしなければならなかった。
「あれっ」
見ると、手紙がはさまっていた。ずいぶん古風なことするんだなと思いながらもそれを読んでみる。
「清矢くん。俺ホントは、恋人に戻りたい。清矢が敬文さんのこと好きになったのは分かったけど、でも十歳も年上じゃん。俺ともっと遊ぼうぜ。歌謡曲の話したり、剣で試合したりとかさ。清矢くんの特別じゃなくなっちまったって思うと、腕がちぎれそうだ」
清矢は困り、だけどしっかり手紙を抽斗に保存した。そして考えに考え抜いて返事を書く。
「詠へ。詠が特別じゃなくなったってことはねぇぜ? 歌謡曲の話だって、剣の試合だって、恋人じゃなくたってできることだ。ってか、友達としてはやっぱ一番大事って思ってる。それじゃダメだって言われると俺は困っちまうけど……親友じゃ、ダメなのか」
そうして同じページに手紙を挟んでおいた。心変わりは清矢からだから、かなり虫がいいのは分かっている。だけど年上の男は庇護と知恵をくれる。情勢が目まぐるしく動く中、清矢は彼を手放せなかった。
次の日にも詠は素知らぬ顔で辞書を借りていった。挟まれていたのは単語カード。
「Lament,Love is Over」(愛は終わったと嘆く)
学校指定の単語帳の例文だった。清矢はその案外綺麗な字を見て考え込む。共有ってワケにもいかねーもんな。たっぷり残っている情に気づきながらも、清矢は辞書を今日も律儀に持ち帰った。(了)
お題「ハロウィン」「悪戯」伊藤敬文26歳×祈月清矢16歳
十月末日。文化祭が終わった後に祈月清矢はイライラしながら帰途についた。実家にたどりついて、おばあちゃんや母親がお茶菓子を薦めてくるにもかかわらず、即座に自分の部屋に引っ込んだ。ひょこり、と男が顔を出す。居候している軍閥の参謀、伊藤敬文だった。
穏やかで人畜無害そうな、だけど精悍で整った。そんな十歳年上の男である。
「どうした、清矢くん。今日はハロウィンだろ、チョコの詰め合わせ買ってきたってよ」
「敬文。あのさ、俺……恥ずかしい」
「学校で何かあったのか。俺になら話せる?」
敬文はともかく清矢を甘やかした。ベッドに寝転んでしまった清矢のそばに座り込んで、頭を撫でてくれる。清矢は目を細めて愚痴を言った。
「今日、文化祭って言ったっしょ。俺ね……女装させられた。お菓子くれなきゃ何とやらをやれって。詠も広大もバカ受け」
「えーっと……」
敬文は目線をうろつかせて困る。そしてそっと耳うちする。
「可愛い、と思うけど、恥ずかしかったんだね。だって清矢くんは男の子だしな」
「俺、女装しろって言われるのマジやだ。だからって吸血鬼とかミイラとかもさ……そんで、結局メイドの真似事」
「可愛そうに、って言っておけばいいんだろうけど……ちょっと見たかったな」
清矢はがばっと起き上がって敬文を釣り目で睨みつけた。女顔で外見を褒められるのはいいのだが、いざ女装しろと言われると怒るのがこの少年のプライドだった。
「じゃあ敬文も女装してよ。フリフリのドレス着ればいい。俺はね、そういうのヤなの」
「俺がフリフリのドレスは視覚の暴力だと思うけど、清矢くんのは可愛いかもしれないじゃないか」
「違うもん。だって女の子ほどかわいくねーじゃん、ごついし」
そう言って顔を覆う少年の隣に座り込んで、敬文は鋭い肩を抱きこんだ。
「でも今しか似合わないよ?」
「に、似合ってねぇよ! 敬文。俺怒るよ。結局女の子の代わりが欲しいの?」
クリティカルな質問を投げかける。伊藤敬文はたっぷり困ったみたいだった。
「ええと、要はスカートがイヤなんだろ。だけど、ハロウィーンは仮装なわけだし、魔物の恰好するよりはメイドの方がましじゃないか」
「スカート。履いてほしいの」
そう聞くと、敬文は恥ずかしそうにうなずいた。
「あっそ、じゃあ着てあげる」
清矢はそう言って堂々その場でお着換えしはじめた。男子高校生の制服を勢いよく脱ぎ捨て、サブバッグの中に乱暴にしまいこまれたメイド服を身に着ける。タイツまでしっかり履いて、ヘッドドレスをつけてカテーシーの仕草をした。もはや、ギャグである。伊藤敬文は目線をよそにずらして後ろ頭をかいた。
「えっと……お菓子あげないと悪戯なのかな」
「タカフミさん。トリックオアトリート♡」
自棄になってにこっと微笑む姿は、上背のある美少女にしか見えない。有識読みの呼び捨てでなく名前をさん付けされて敬文は笑みを隠しきれなかった。
「お菓子は下の階だからそっちに行かない?」
「はぁ? この恰好で? ありえねぇ! ないなら悪戯だぜ」
「だ、だいたいどんな悪戯するの? 俺だって悪いから、男子高校生の妄想みたいな内容しか浮かばないけど……」
「えー?」
清矢はにやついて小首をかしげる。
「その男子高校生の妄想みたいな内容ってのは何? 教えてくれたら、悪戯しねぇ」
「あーっダメダメ! 大人をからかわない! だいたいスカートなんてダメだよな、やっぱり。だってめくったらすぐ脚に触れちゃうし……」
「下着も見えちゃうしな。なんで女子はこれで平気かね?」
スカートの前裾を持ってぺろりと持ち上げると、年上男の顔は剣呑になった。
「バカだなっ……! パンツは男物じゃないか」
「えーっ、じゃあ女物がよかったの? 敬文のスケベ」
「もうやめる! 下に行くよ、お菓子あるんだから!」
そう言ってせかせか階下に降りて大声で名前を呼んでくる。おかげで清矢は、女装姿をばあちゃんにもかーちゃんにも披露するハメになった。いつもお世話になってるんだから、敬文さんにお茶入れてあげなさいよ、ついでに母さんにもおばあちゃんにも、と給仕を言いつけられたのも、ご愛敬である。(了)#敬文×清矢 #[創作BL版深夜の60分一本勝負]
十月末日。文化祭が終わった後に祈月清矢はイライラしながら帰途についた。実家にたどりついて、おばあちゃんや母親がお茶菓子を薦めてくるにもかかわらず、即座に自分の部屋に引っ込んだ。ひょこり、と男が顔を出す。居候している軍閥の参謀、伊藤敬文だった。
穏やかで人畜無害そうな、だけど精悍で整った。そんな十歳年上の男である。
「どうした、清矢くん。今日はハロウィンだろ、チョコの詰め合わせ買ってきたってよ」
「敬文。あのさ、俺……恥ずかしい」
「学校で何かあったのか。俺になら話せる?」
敬文はともかく清矢を甘やかした。ベッドに寝転んでしまった清矢のそばに座り込んで、頭を撫でてくれる。清矢は目を細めて愚痴を言った。
「今日、文化祭って言ったっしょ。俺ね……女装させられた。お菓子くれなきゃ何とやらをやれって。詠も広大もバカ受け」
「えーっと……」
敬文は目線をうろつかせて困る。そしてそっと耳うちする。
「可愛い、と思うけど、恥ずかしかったんだね。だって清矢くんは男の子だしな」
「俺、女装しろって言われるのマジやだ。だからって吸血鬼とかミイラとかもさ……そんで、結局メイドの真似事」
「可愛そうに、って言っておけばいいんだろうけど……ちょっと見たかったな」
清矢はがばっと起き上がって敬文を釣り目で睨みつけた。女顔で外見を褒められるのはいいのだが、いざ女装しろと言われると怒るのがこの少年のプライドだった。
「じゃあ敬文も女装してよ。フリフリのドレス着ればいい。俺はね、そういうのヤなの」
「俺がフリフリのドレスは視覚の暴力だと思うけど、清矢くんのは可愛いかもしれないじゃないか」
「違うもん。だって女の子ほどかわいくねーじゃん、ごついし」
そう言って顔を覆う少年の隣に座り込んで、敬文は鋭い肩を抱きこんだ。
「でも今しか似合わないよ?」
「に、似合ってねぇよ! 敬文。俺怒るよ。結局女の子の代わりが欲しいの?」
クリティカルな質問を投げかける。伊藤敬文はたっぷり困ったみたいだった。
「ええと、要はスカートがイヤなんだろ。だけど、ハロウィーンは仮装なわけだし、魔物の恰好するよりはメイドの方がましじゃないか」
「スカート。履いてほしいの」
そう聞くと、敬文は恥ずかしそうにうなずいた。
「あっそ、じゃあ着てあげる」
清矢はそう言って堂々その場でお着換えしはじめた。男子高校生の制服を勢いよく脱ぎ捨て、サブバッグの中に乱暴にしまいこまれたメイド服を身に着ける。タイツまでしっかり履いて、ヘッドドレスをつけてカテーシーの仕草をした。もはや、ギャグである。伊藤敬文は目線をよそにずらして後ろ頭をかいた。
「えっと……お菓子あげないと悪戯なのかな」
「タカフミさん。トリックオアトリート♡」
自棄になってにこっと微笑む姿は、上背のある美少女にしか見えない。有識読みの呼び捨てでなく名前をさん付けされて敬文は笑みを隠しきれなかった。
「お菓子は下の階だからそっちに行かない?」
「はぁ? この恰好で? ありえねぇ! ないなら悪戯だぜ」
「だ、だいたいどんな悪戯するの? 俺だって悪いから、男子高校生の妄想みたいな内容しか浮かばないけど……」
「えー?」
清矢はにやついて小首をかしげる。
「その男子高校生の妄想みたいな内容ってのは何? 教えてくれたら、悪戯しねぇ」
「あーっダメダメ! 大人をからかわない! だいたいスカートなんてダメだよな、やっぱり。だってめくったらすぐ脚に触れちゃうし……」
「下着も見えちゃうしな。なんで女子はこれで平気かね?」
スカートの前裾を持ってぺろりと持ち上げると、年上男の顔は剣呑になった。
「バカだなっ……! パンツは男物じゃないか」
「えーっ、じゃあ女物がよかったの? 敬文のスケベ」
「もうやめる! 下に行くよ、お菓子あるんだから!」
そう言ってせかせか階下に降りて大声で名前を呼んでくる。おかげで清矢は、女装姿をばあちゃんにもかーちゃんにも披露するハメになった。いつもお世話になってるんだから、敬文さんにお茶入れてあげなさいよ、ついでに母さんにもおばあちゃんにも、と給仕を言いつけられたのも、ご愛敬である。(了)#敬文×清矢 #[創作BL版深夜の60分一本勝負]
と言う感じの女子高生活躍ストーリー。このあいだも舞城の女子高生モノ読んだだけに、なんだか食傷してしまった。話もなんか、大したことないのに途中で終わってしまった感じ。でもギャグセンスが面白くて。
親友・ヨッちゃんのキャラが強烈すぎて、ときどきウザいけど(笑)楽しい。
あと寛永生まれのヴァンパイア・佐久さん。いかにも阿部サダヲさんが演じてそうなキャラでそれも面白かった。
続編よりは、同じ人の『悟浄出立』が読みたいかも。